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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 2 部 ラナクロア 編
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第2話:願い





 一般人向けの魔法を行使された靴をエレシから受け取り、

 俺は上機嫌だった。


 だが不意に、何かを忘れていることに気づく。


 何か忘れている気がするんだよなぁ。


 覚えることが多すぎて、少し混乱している。


 ラナクロア。

 エドラルザ王国。

 レイフキッザの村。

 ライマ山。


 ルッセブルフ。

 それに城壁、魔法、魔族。


 さらにマイスター、ポーター、マーケッター。

 各免許ごとに行使される魔法。


 うんうんと悩んでいると、不意にポレフが話しかけてきた。


「なぁ定臣!

 それで天使ってどうやって幸福を訪れさせるんだ?」


 ソレダ。


「ポレフ?

 先程、加護を頂いたでしょう?

 あなたはもう幸せなのよ?

 そうですよね、定臣様?」


 ごめんなさい!


 忘れてました!


 その笑顔にごめんなさい!


「定臣様?」


「そ、そうだな!

 うん!そうなんだよ!

 そ、そ、そうなんだけどな?」


「?」


 うっ……。


 笑顔で首を傾げないで……。


「よ、よぉ~し!


 靴ももらっちゃったことだし!


 ここは大サービスだ!


 ポレフ、お前の夢か願いを叶えてやるよ!」


 強引すぎたか……?


 これはさすがに怪しすぎるか。


 ちらりと二人を見る。


「まぁ!まぁまぁまぁまぁ!」


「おお!お前いい奴だな定臣!」


 声を揃えて喜ばれた。


 まぁ嘘じゃないからいいだろう。


 話を進めることにする。


 俺は前置きした。


 心の底から叶えたい夢や願いでないと駄目だと。


 そう言ってポレフに尋ねる。


 するとポレフは満面の笑顔で右手を挙げた。


「おう!

 んじゃ俺、自分の手で魔王を倒してみたいぜ!」


 ピンポーン!


 何言ってんのこいつ?


 と思った直後、脳内に効果音が流れた。


 魔王って……。


 魔族がいれば、その王様もいるってことかよ。


 心の中で軽くツッコミを入れる。


 そしてエレシに視線を送る。


 するとエレシは両手を口に当てて涙を流していた。


 どうしたお姉ちゃん。


「ポ、ポレフ……。

 り……立派になって……」


 だろ?と自信満々で胸を張るポレフ。


 少し不安を覚えながらも、一応理由を聞いてみる。


 なぜそう思ったのか。


 するとポレフは急に真顔になり、話し始めた。


 城壁の中には、仮初ではあるが平和がある。


 外にも特産地には騎士団が派遣されている。


 警備もされている。


 それでも魔族が放った魔獣によって、

 旅人やポーターの間では死人が絶えないのだという。


「そういうの嫌なんだ!


 皆が安全に暮らしたり、旅したりできるようにしたい!」


 この思いは本物だ。


 その瞳に宿る力を見て、俺は確信した。


 改めて協力することを心に誓う。


 さて。


 魔王を倒すと言っても、そんな簡単な話ではない。


 このポレフ・レイヴァルヴァンにそれが可能なのか。


 改めてポレフを見る。


 ボサボサの茶髪。

 冴えない顔つき。


 前髪少し切れよというツッコミは置いておく。


 歳は大きく見積もっても十二歳前後。


 ――無理じゃねーのこれ?


 一瞬そう思った。


 その時、脳裏に小夜子の姿がよぎる。


 見た目からは想像できない怪力少女。

 そして恵まれた天賦の才。


 そう。


 人はそれを主人公補正と呼ぶ。


 ポレフ・レイヴァルヴァンは、ラナクロアの主人公。


 そしてそのポレフは魔王を倒したいと言った。


 魔王を倒す存在。


 それは勇者だ。


 思考がそこに到達した瞬間、俺は口を開いた。


「ってことはポレフは勇者になりたいのか?」


「勇者!


 それいいな!


 それになる!」


 ここに、ラナクロアの勇者が誕生した。


「ってそんな簡単になれるかよ!」


 じゃあどうやって勇者になるんだよ~。


 そう聞かれても困る。


 勇者など見たことはない。


 ここはRPG知識で返答するしかない。


「そりゃあれだよあれ。


 王様に認められるしかないんじゃないの?」


「お前、頭いいな!」


 素直すぎるだろうポレフ・レイヴァルヴァン。


「そうなんですよぉ♪」


 エレシさん、

 心の中読まないでください。


 そもそも騎士団が組織されているエドラルザ王国だ。


 勇者なんて求めるだろうか。


 もう少し知識が必要だ。


 そう判断してエレシに質問する。


「でさエレシ。

 騎士団って特産地の防衛してるって言ってたけど

 魔王討伐とかには出かけないの?」


「……現状では難しいかと」


 エレシは表情に影を落としながら説明した。


 数年前の大侵攻以来、

 魔族は南の崖より北へ攻めてきていない。


 だが、放たれた魔獣が城壁外を今も闊歩している。


 特産地の防衛。

 城壁拡大の護衛。


 騎士団はそれで手一杯なのだという。


 防戦一方か。


 それなら勇者の存在を認めてもらえるかもしれない。


 組織ではなく単独。


 しかも有志。


 王国にとって利はあっても害はないだろう。


 ……というか。


 そもそも王様に認めてもらう必要自体ないんだけどな。


 適当に提案したらOKが出ちゃった感がある。


 若干の後ろめたさを覚えつつ、

 それじゃエドラルザに行ってみようかと提案しようとした。


 まさにその時。


『エレシ殿~!エレシ殿はおられるか~!』


 入口の方から野太い男の声が聞こえた。


「あらあら、この声はドナポス様ですね。

 どうぞ、お入りください~」


 エレシの声を聞き、

 ドナポスが扉を開けて入ってきた。


 一目見た印象は大男。


 野太い声。

 掘りの深い顔立ち。


 短く刈り揃えたモヒカン。


 鎧に包まれた岩のように屈強な身体。


 茶褐色の肌。


 なんというか――


 イカツイです。


「お久しぶりです、ドナポス様」


「いやいや!


 やっと会いにこれましたぞ!エレシ殿!」


 満面の笑顔を見せるドナポス。


 その視線が俺へ向く。


 エレシが笑顔で紹介する。


「ドナポス様。

 こちらはサダオミ・カワシノ様です。

 そして定臣様。

 こちらはエドラルザ王国騎士団団長、

 ドナポス・ニーゼルフ様です」


 いきなり団長出てきたよぉぃ。


 心の中でツッコミつつ慌てて挨拶する。


「初めまして!

 サダオミ・カワシノと申します!」


「これはこれはご丁寧に。

 ワシの名はドナポス・ニーゼルフと申す。


 それにしても美しい……。


 いや!しかしワシにはエレシ殿が!」


 最後の方聞こえたけど気にしない!


 誰がどう見てもエレシに惚れている団長殿。


 しばらく空気になることにした。


 しばらく様子を見ていると――


 不意にドナポスの表情が変わった。


 がらりと雰囲気が変わる。


 思わず息を呑む。


「それで今回、遠征公布にワシが同行したのには

 理由がありましてな……」


 ドナポス・ニーゼルフ。


 エドラルザ王国騎士団団長。


 守備の要。


 人は彼を『鉄壁のドナポス』と呼ぶ。


 数年前の大侵攻を防ぎきった立役者。


 その後も数々の功績を収めた英雄。


 気取らない人柄で民からの信頼も絶大らしい。


 普段、王城で国王警備をしている彼が

 城を離れることは滅多にないという。


「エドラルザは打ってでる」


 しばらくの沈黙のあと、

 ドナポスが言い放った。


 その言葉に、俺は首を傾げる。


 騎士団が動くのか?


 なら特産地防衛や城壁拡大の防衛は?


「情けないことに今の騎士団には

 それだけの余力が残されておらん。

 それ故にエドラルザは

 勇者を募ることにした」


 せめてもの誠意。


 その公布に自分が同行しているという。


 勇者になりたいと言った直後に、

 団長直々の勇者公募。


 ポレフってもしかして強運なのか?


 そう思いながらも、

 これでエドラルザに行く理由ができた。


 自分の言葉に後付けで意味が生まれた。


 俺は胸を撫で下ろすのだった。





「俺もそれに応募するよ!」


 しばらく黙って聞いていたポレフが

 突然会話に割り込んできた。


 ドナポスは一瞬驚いたが、

 すぐ笑顔を作った。


「それはありがたいなポレフ。


 しかし無理はするなよ?


 逃げることも立派な戦略だ」


 勇者を目指すのは良い。


 だが命だけは落としてはいかん。


 その言葉に馬鹿にする空気は一切ない。


 この幼い少年を

 一人の男として扱っている。


 これが英雄か。


 感嘆した俺は思わず言った。


「ドナポスさん格好いいですね!」


 ただ思ったことを言っただけだった。


「な!?なななな!

 これがモテ期というやつか!

 いや!しかしワシには心に決めた人が!」


 モテ期て。


 危うく告白扱いされそうなので

 慌てて話を進める。


「それでドナポスさん。

 どうすればポレフは勇者になれるんでしょう?」


「いや……しかしな……。

 うむ……。

 これ程美しい方がこの先ワシに……」


 き、聞いてねー!


「ドナポス様?」


 見かねたエレシが声をかけた。


「は、はいぃぃ!

 エレシ殿!

 これは浮気などでは!」


 都合の良い耳をしていらっしゃる。


 面倒なので

 俺はエレシに丸投げすることにした。


 空気に徹する。


 話によると――


 次の雷の日より

 正式に勇者の公募が王城から開始される。


 ……待て。


 雷の日ってなんだ。


 まぁ話が進まないので今は置いておく。


 王から出される条件をクリアすれば

 勇者として認められるらしい。


 正式に勇者になれば

 王国から支援も受けられる。


 とりあえず雷の日までに

 エドラルザに辿り着いておいた方が良さそうだ。


 あと何日あるのか。


 王城まで何日かかるのか。


 知識が足りない。


 顎に手を当て考えていると――


「すぐに向かいます」


 エレシが言った。


 すぐっすかエレシさん。


 マイスターであるエレシには仕事があるはず。


 作品を待つ人も多いだろう。


「エレシ、仕事大丈夫なのか?

 依頼が溜まってるなら

 ポレフの同行は俺だけでもいいけど」


「依頼はすべて終えています♪

 それに……」


 ポレフの同行者に

 私がいないとかありえません。


 エレシの目は笑っていなかった。


 正直、怖かったです。


 ポレフと引き離す発言は禁句だな。


「エ、エレシも一緒に行こうな!」


「もちろんです♪」


 すぐ出発するなら

 レイフキッザまで一緒に行く。


 ドナポスがそう申し出た。


 少し待ってもらい、

 エレシとポレフは工房へ消える。


 しばらくして戻ってきた。


 ポレフは大きなリュックを背負っている。


「待たせたな!

 早速いこうぜ!」


 その言葉遣いをエレシが笑顔で注意。


 ドナポスが笑う。


「元気があって良いですなぁ」


 そんなやり取りのあと、

 俺たちは家を出発した。


 幸いドナポスは気づいていない。


 言葉遣いを注意した時のエレシの目。


 まったく笑っていなかったことに。


 俺とポレフは

 冷や汗を流してたけどなー。





 一行は他愛ない会話をしながら歩く。


 レイフキッザの村までは徒歩二十分。


 なぜ村外れに家を建てたのか。


 俺が尋ねるとエレシは笑った。


「カダの木の群生地が近いものですから♪」


 カダの木の採集はポレフの仕事。


 近い方がいい。


 そう言ったエレシは

 本当に幸せそうだった。


 利便性よりポレフ。


 実にエレシらしい。


 ちなみにレイフキッザ南側のライマ山一帯は

 エレシの所有物らしい。


 さすがマイスター。


 実は金持ちだったのかこの家族。


 そこで思い出す。


「なぁエレシ。

 雷の日って何日後なんだ?」


 ラナクロアの暦は地球と少し違うらしい。


 1日が24時間なのは同じ。


 だが月と曜日が違う。


 火、水、風、雷、氷、土。


 それが巡る。


 1ヶ月4週。


 1週6日。


 今日は水の月、二の氷の日。


 わかりにくいです。


 つまり。


 雷の日は五日後。


「だからすぐ出発したわけか。

 納得した。

 ありがとなエレシ」


「いえいえ♪」


 見ているだけで

 こちらまで笑顔になりそうだ。


 それにしても。


 五日で王城に着けるのか?


 知らせるの遅くないドナポスさん。


 まぁ最悪

 その日じゃなくても応募できるか。


 そう考えていると――


 レイフキッザの村が見えてきた。





 靴の特産指定地

『レイフキッザの村』


 なるほど。


 確かに靴の町だ。


 そもそも村と呼ぶには広すぎる。


 広い町並み。


 所狭しと並ぶ市。


 文字は読めないが

 靴屋だと一目でわかる店が大量にある。


 建物はレンガ造り。


 ……たぶん。


 素材名は違うだろうけど

 まぁそんな感じだ。


 そして――


 すごかった。


 到着した瞬間、

 目の前にできた人だかり。


 エレシとの個人契約を望むポーターと

 無資格販売者が九割。


 残り一割は

 エレシを口説こうとする男達。


 ……それだけならよかった。


 その一割の一部が

 俺にも流れてきたのだ。


 ドナポスのせいで思い出していた。


 俺の美女設定。


 やれやれと肩をすくめ、振り返る。


 それにしてもエレシの断り方は凄かった。


 人だかりに満面の笑顔で――


『嫌です♪』


 それだけ。


 皆、散っていった。


 断られ慣れているのか。


 それとも

 笑顔の奥の怖い目に気づいたのか。


 ドナポスは怒らなかった。


 終始笑顔。


 さすが英雄……と言いたいが。


 あれはたぶん。


 自分の所有物を褒められた

 ドヤ顔なんじゃないかと思えてきた。


 そもそもエレシは

 ポレフしか見えていない。


 ドナポスに望みはないと思うが。


『離れていてもワシの想いは

 いつもエレシ殿の側に』


 そう言い残してドナポスは去った。


 次に会うのは

 王城だろう。


 豪快なおっさんだった。


 俺たちは食事をすることにした。


 もちろん。


 俺の財布はゼロ。


 エレシのおごりだ。


 申し訳ないが――


 異世界の食事は

 数少ない楽しみでもある。





「それで定臣様。

 どれを注文致しましょう?」


 エレシおすすめの店。


 椅子に座りテーブルを囲む。


 当然ポレフの隣はエレシ。


 俺は文字が読めない。


 エレシにメニューを読んでもらった。


 だが。


 案の定。


 全部知らない料理。


 結局注文は丸投げ。


 すでに頼り慣れている自分に苦笑する。


 料理を待つ間、

 これからのルートを聞く。


 ちなみにポレフは

 口を開けて天井を見ている。


 大丈夫かこの勇者候補。


 ルートはこうだ。


 レイフキッザで護衛を雇う。


 ライマ山北側の麓。


 装飾品の町『ミッサメイヤ』を経由。


 そこから魔獣の巣窟

『メイヨー平原』を北へ。


 城壁を潜り、

 エドラルザへ入る。


 魔獣か。


 見たことないけど強いのかな。


 俺はそこそこ自信はある。


 護衛いらないんじゃないか?


 そう思ったが、

 まずはこの世界の常識に従うことにした。





 料理が運ばれてきた。


 見たことがない料理だ。


 火の国の料理は

 まだ地球に近かった。


 だがこれは――


 伊勢海老みたいな上半身。


 そこから鶏の腿肉みたいなものが生えている。


 黄緑と桃色の水玉模様。


 謎の物体。


 三セット。


「それではいただきましょう♪」


 コレイタダクンデスカ。


 エレシはナイフとフォークで綺麗に食べる。


 ポレフは手で豪快にむしゃむしゃ。


 ……うまそうである。


 昔の人は言いました。


 郷に入れば郷に従え。


「いただきます!」


 一口食べる。


 やだなにこれおいしい。


 人間は現金だ。


 味が良ければ見た目はどうでもいい。


 あっという間に平らげてしまった。


「気に入って頂けて嬉しいです♪


 旅用にもう少し買っていきますね」


 皿料理を旅に?


 まぁエレシならなんとかするだろう。


 そう思っていた。


 だが会計の時に答えが出た。


 代金と引き換えに、

 ビー玉のようなものを受け取るエレシ。


 何それ。


「先程の料理を詰めてもらいました」


 保存圧縮の魔法。


 料理をビー玉サイズに圧縮しているらしい。


 それなら

 そのリュックいらなくない?


 俺がツッコむ。


 だが――


 その魔法は

 料理以外禁止。


 利便性を追求すると

 他の需要が消える。


 だから制約がある。


 なるほど。


 どこの世界も同じだ。


 俺は礼を言った。



 店を出る。


 エレシは食料を追加購入へ。


 俺とポレフは待つ。


 時間ができた。


 俺は傭兵雇用所について聞く。


 ラナクロアを旅するポーターや旅人にとって

 傭兵は必須。


 長年そうだった。


 だが最近変化があったらしい。


 ポーターは商人。


 命のためとはいえ、

 傭兵に高額を払い続けるのは嫌だ。


 しかし武力がない。


 そこで現れた。


 ――クレハ・ラナトス。


 元服マイスター。


 ルッセブルフが城壁に囲まれると、

 すぐポーターに転職。


 皆、首を傾げた。


 だが――


 噂が流れる。


 傭兵不要のポーター。


 格安のマイスター品。


 噂は真実だった。


 出元はクレハ。


 ポーター達は

 こぞって集まった。


 クレハはポーターを束ね、

 傭兵をまとめ、

 結社を作った。


 ポーター結社

『サキュリアス』


 ポーターと傭兵を社員として抱える企業。


 今では護衛は

 サキュリアスに依頼するのが常識。


「それじゃ傭兵じゃなくて

 そのサキュリアスに依頼する感じか」


「そうだぜ!

 ……でも」


 ポレフが暗い顔をした。


「あいつ嫌いなんだよなぁ」

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