756話・故意のギガラバ
真夜中の砂漠に取り残された俺たち──。
残されたの俺は、エルマとレモリー、知里と合流した。
息が白くなるほど肌寒いはずだが、体感的な寒さはさほど感じてはいない。
何らかの魔法現象の影響下にあるのだろうか。
『時空の宮殿』は蜃気楼のように消えてしまった。
周囲を取り囲んでいた怒れる死者たちも、もうここにはいなかった。
「直行。アンタが見た未来、あたしも共有させてもらう」
スクール水着をまだ着たままの知里は、傍らに聖龍のバックアップと思われる古代魚を連れていた。
心が読める彼女に対し、俺は無言のまま『未来視』を発現させる。
空を埋め尽くす量産型魔王に焼き払われる地上の三都市──。
ロンレア領、勇者自治区、法王庁……。
「知里さんはどうする気が? この世界の神にでもなるつもりか?」
「さあね。でもまずはトシヒコや前法王と合流し、量産型魔王を殲滅しないと」
だが実際には、俺が見た映像とは違い、どこの空にも火の手は上がっていない。
俺が見た滅亡の『未来視』を、勇者パーティやラー前法王たちが防いでいるのだ。
とはいえ、ネオ霍去病の残した量産型魔王は数の力でこの世界を押しつぶしていく。
「お嬢。ヒナから盗んだ空間転移の術式、あたしにも教えてくれない?」
知里はエルマを呼んで、素直に頭を下げた。
「盗んだなんて人聞きが悪いですわ♪ ヒナさんの技術をベースに、あたくしが再構築した……」
「いいから頼むよ。戦後アンタは間違いなく世界の中心人物になる。そのためにも、地上の被害は最小限に抑えないといけない」
「他ならぬ〝ボッチ友達〟の知里さんの頼みとあらば仕方ないですわね♪」
悪態をつきながらも、エルマはまんざらでもない様子で、中空に魔法陣を描き出した。
ヒナが編み出したという、見える範囲を〝門〟でつなぐ空間転移魔法──。
これを拡大することで、遠くても視界内であれば空間転移が可能になる。
地味に反則技で、クロノ王国も俺たちに対して使ってきた移動手段だ。
今後は条約などで禁止にしないと世界観の均衡が崩壊する。
「そうだね。直行は対クロノに対する勝利宣言の原稿を書いて、停戦の準備に入って。アンタにしかできないことじゃない?」
不意に知里が、こちらに声をかけてきた。
俺の心を読んで、そう言ってきた。
「戦闘は知里さんに頼りっぱなしだけど、猛獣使いは俺の仕事というわけだな」
「あたしを猛獣にカウントしないでくれる?」
「いやいや。知里さんが世界最強だろ」
個人の武力はともかく、戦後は勇者自治区とクロノ王国の二国間対立が加速するだろう。
ラー前法王の動向は不明だが、法王庁に返り咲くことは考えにくい。クロノ王家の後見人に入ると考えた方が自然だろう。
どっちつかずのロンレアが、バランサーの役割を果たす。
エルマは皇帝を名乗っているが、本質は「医療技術のゲームチェンジャー」だ。
おそらく、これからの俺の役割は、新技術を背景に各国間の利益を調整することになるだろう。
俺は戦後に来るであろう自分の役割に少し緊張しながら、転移の門をくぐっていった。
◇ ◆ ◇
量産型魔王による殲滅は、三方位に渡っていた。
その一角となる法王庁には、前法王ラー・スノールが守護にあたる。
守護とはいうものの、実際には隕石の水平射撃による攻撃で、量産型魔王の群を一掃していた。
地上に降り注ぐ、おびただしい肉塊。それはかつてクロノ王国の兵士だったものが変わり果てた姿だ。
「法王さまには助太刀無用って感じかな」
知里はまるで気心が知れた冒険仲間のような口調で、ラーに話しかけた。
「問題は地表に降り注いだ遺体でしょう。いまの余は弔う立場ではない。新たな聖龍を生み出した貴女に、犠牲になった魂たちを弔ってもらいたいところではありますが……」
ラーが申し訳なさそうに言うと、知里は苦笑した。
「言いたいことは分かります。闇をまといしあたしに僧侶の真似事は似合いませんし……」
知里は照れ臭そうに白い歯を見せながら、ラーの傍らにいる長髪の術師に鋭い視線を向けた。
「また会ったねソロモン。まだ生きていたとは命強いね。グンダリは元気?」
知里は気安く声をかけたが、長髪の術師にハッキリと狼狽の色が見てとれた。大きな宝石のついた魔道杖は、不自然なくらい震えている。
「なあ。あんたは確かクロノ王国〝七福人〟だったよな。俺たちを襲ってきたのに、いまは前法王猊下の元で働いているのか……?」
俺は、率直にこの男『』ソロモン改に尋ねた。
追い詰められはしたものの、どうにか振りほどいて、やり過ごしたはずだ。
本来は敵であるはずなのに、なぜラーと共にいるのか、俺には理解できなかった。
素晴らしいFAをいただきました。
描いてくださったのは宝輪 鳳空さま。
よく見るとタイトルの中に各キャラクターが入ってるではないですか!
デザインセンスとレイアウトの妙! パット見たときに「おお!」と声が出てしまいました。
『恥知らず~』に関しては通算6枚目になるでしょうか。
キャラクターデザインのみならず、密度の濃い、めちゃカッコいいイラストの数々……。
掛け値なしで今も宝物として、目につく場所に置いてあります。
この長い物語にお付き合いくださり、美しい花を添えて下さり感激しております。
皆さまからいただいたイラストは本編終了後のエンドロールにて紹介させていただきます。
本編も残すところ完結まで10話を切りました。
次回の更新は5月15日を予定しています。作者取材のため予告投稿か、間に合えば現地からの写真も追加する予定です。お楽しみに。




