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第56話 新必殺技

 前回までのあらすじ。


 レヴァンテインを葬り、アテナを拉致する計画は失敗に終わり、私は一時撤退を余儀なくされた。

 肉体的ダメージを受けたわけじゃない。でも私の戦意は喪失された。


 私は、元人間で、浩太の妹だったらしい。





「クッ……! オクシオンめ! よくも! よくも私の腕を!」



 リゼルが苛立ちを隠さずに部屋の壁を左手で殴っている。

 つい先ほど瞬間移動(テレポート)で戻ってこられた時はギョッとした。なんせ右腕が喪失していたのだから。



「リゼル様! 宝物庫での騒ぎを受け、臨時会議の出席要請がマキナ=カザリウス大臣に……」


「後にしろそんなもの! いざとなれば別の貴族に擬態元を乗り換える!」


「は、はい!」



 騎士に擬態した下級バイヤードが部屋を飛び出した。欠席の通告をしに行ったのだろう。



「リカルメさん……。これは貴女の失態ですよ。敵の言葉に騙され、まんまと戦う意欲を削がれてしまった。貴女がまともに戦っていればこんな事には……!」


「騙された? 違うわ! 浩太たちが言ってた事は本当よ。あの時ほんの一瞬だけど小さい頃の記憶を思い出した。私が人間だったっていうのはどうしようもない事実じゃない!」


「だから何だと言うのです。まさか貴方、そんな理由で戦線を離脱するつもりはありませんよね?」


「それは……!」


「……リカルメさん。私の目を見なさい」



 リゼルの額に縦に開いた目が現れた。人間態の時に精神感応(テレパス)に集中する時、リゼルはああして第三の目を開くのだ。


 でも、ここには私とリゼルしかいないというのになんでわざわざ精神感応(テレパス)なんて使うのかしら?



「リカルメさん、今一度お聞きします。あなたはレヴァンテインたちに何を吹き込まれたのですか?」



 かと思えば普通に口で喋ってきた。なにがしたいのよこいつは。



「さっきから言ってるでしょ。私の正体が……! 私が、……あれ?」



 私、何かレヴァンテインに言われたかしら?

 さっきの戦闘でなにか言い合いになったような気はしたけど、それが何だったのか思い出せない。

 なにか大切なことを取りこぼしている気がする。頭の中の流れが見えない壁でせき止められているような感覚。


 ……おかしいわね。なんで私ついさっきまでレヴァンテインと戦うことを躊躇してたの?



「貴方の弱体化を解消するにはゼドリー様の到着を待つしかないのですが、それよりも先にヒーローたちが仕掛けてくる可能性があります。リカルメさん、貴方やつらと戦うことはできますか?」


「舐めないで頂戴。私だって四天王の一人よ。ゼドリー様に仇名す者は誰であろうと許さない」


「それでいいんですよ。ふっふっふ」



 リゼルが第三の目を閉じて笑みを浮かべた。結局、あれはなんだったんだろう。


 まあいいわ。とにもかくにも、ゼドリー様をこの城にお出迎えする準備を整えないといけない。

 あまり時間はないわ。早く害虫どもを駆除しないとね。





 前回までのあらすじ。


 シオンから告げられた衝撃の事実。

 リカの記憶を操作していたのはゼドリーではなくリゼルだった。


 奴を倒せば、俺は霧果を取り戻すことができる。暗闇の中で俺は一筋の活路を見出した。


 しかし、喜んでいられたのも束の間。

 パラスとボタン、トリトン兄妹が場から姿を消してしまう。





「おい聞いたか? 宝物庫の前にバイヤードの死体が倒れたらしいぜ」


「さっきその処理をさせられてたよ。クソ、このところ侵入者に仲間は殺されるし、死刑囚も脱走するし、どうなってるんだ一体!」


「おまけに城下町でも騒ぎが起こってやがる。勘弁してくれよ……。人手がいくらあっても足りねえ」



 騎士の鎧を被りアテナと城内を散策していると、兵士たちが慌ただしく駆け回っている様子が目に入った。

 リゼルとの連日の戦闘の後処理を彼らにさせてしまっているということか。申し訳ないけど、ここは任せておくしかないだろう。



「イヌイコータさん、ここじゃないですか?」



 書庫の奥に設置された巨大な本棚。シオンに教えられた通りに右下の本をどかし、奥のレバーを手前に引く。

 すると、重々しい音を立てながら本棚が奥にズレてゆき、地下に通じる階段が現れた。



「ここから王都に出られるはずです。急ぎましょう」


「ああ」



 俺とアテナは重たい鎧を脱ぎ去って、地下の通路を駆けていく。

 そう、俺たちはいま城を抜けて王都に向かっている。というのも、パラスとボタンが向かったのが、リゼル扮するマキナ大臣の部屋ではなく、城壁を超えた街のどこかだというのだ。


 シオンはその事実と城の抜け道を俺たちに伝えて早々に分身解除という名の瞬間移動で消えてしまった。



「それにしても、なんでシオンのやつこんな道知ってたんだ? あいつだって王都に来るのは初めてだっただろうに」


「たぶん、天神教会の司祭様から聞いたんだと思います。国にとっても教会幹部は要人ですから、いざという時の逃げ道も共有されてるはずです」



 シオンを転生させた女神キーロン。彼女を祀っている教会は天神教会というのか。

 いや、確かこの世界の神様は天神族って名前だったっか。とすると、キーロンさんだけというより多神教の団体ということになるのだろうか。


 と、考え事をしているとポケットに入れていたレーヴァフォンが振動している事に気づく。

 画面を見るまでもなく、ユリ博士からの着信だ。



「もしもし、ユリ博士か? どうしたんだよ。最近連絡無かったじゃないか」


『ドクターリリィだ。すまない、レヴァンシステムのアップデートファイルを作成していて手が離せなった』


「アップデート? もしかして、新フォーム?」


『いや、君の必殺技に関するものだ。ディメンションバニッシュは対象を異次元、すなわちそちらの世界に強制転移させる技だというのはこの間説明したな? だが、そちらの世界で技を使えば、こちらの世界、地球に対象が送られることになる』



 そう。そのせいで、今までバイヤードと戦う際に必殺技を封じられてきた。

 このレヴァンスラッシャーがあったからなんとかなったものの、やはり徒手空拳特化のフォームで剣を使うのはいまだ違和感を覚えている。



『ヒーロー不在の地球にバイヤードが現れたら対処のしようがない。かといって、必殺技無しで君に戦えというのも酷な話だ。そこで、ディメンションバニッシュに代わる新しい必殺技を開発した。その名も「ディメンションクラッシュ」だ』


「……なんか名前が似ててややこしいな。どう違うんだそれ」


『ディメンションバニッシュの次元転移の際に起きる空間の歪曲現象を利用した技だ。ディメンションクラッシュを受けたものは周囲の空間ごと肉体が歪み、存在を固定する枠が曖昧になる。そうなると、技を受けたバイヤードは存在を維持できなくなり、内側から自壊する』



 思っていたよりエグイ技だった。文字通りの必殺技だ。

 だけど、バイヤードを相手にするなら、それくらいの殺傷能力は必要かもしれない。



『使い方は簡単だ。必殺技発動ボタンを三回押すとレイバックルが待機状態に入る。そうしたら起動レバーを倒して対象に光を当てろ。効果が違うだけで、ディメンションバニッシュとやることは変わらない』


「それはありがたい。これから幹部を相手にするのに、慣れない技で戦う余裕はないからな」


『幹部だと? グランレンドと決別でもしたか?』



 あ、そうか。リゼルと遭遇してからユリ博士と通信をしたのはこれが初めてだった。

 最後に通信したのは広場で生命樹型(セフィロト)グランレンドと戦った時だ。



「いや、リゼルだ。それと、魔公爵っていうこの世界の厄介者もいる。だけど、グランレンドがリゼルの右腕を奪っているから心配は無いよ」


『そうか。だが、油断はするなよ。地球でリゼルを倒した際に使った「赤」のエーテルディスクは見つかっていないんだろ?』


「ああ、だからサポートは期待してるぜ。ユリ博士」


『ドクターリリィだ!』



 そんなやり取りをしているうちに上りの階段が見えてきた。これを上がれば城下町に出られるのだろう。

 頭上から物音や喧騒が聞こえてくる。穏やかではない。



「もしかして、先回りされたとか?」


「いえ、なにか争っているように聞こえます。扉の先で喧嘩でもしてるんじゃないでしょうか?」



 それはそれで厄介だ。俺とアテナはいわば脱獄囚。なるべく人の目にはつきたくない。

 通路はまだ先にも続いている。別の出口を探そう。そう思った矢先である。



「誰か、助けてぇ!」


「「!?」」



 一瞬聞こえた女性の悲鳴。

 気が付けば俺たちは地上に向かって走っていた。

 躊躇う暇もなく扉を開けると、そこには異常な光景が広がっていた。



「なに……!?」



 入国した時に見た煌びやかな街が異形によって崩されていく。

 あちこちで火の粉が舞い、人の血が流れている。

 屍を踏みながら歩く怪人たち。青い空を横切る漆黒の魔物。


 まさか、城の外でこんな虐殺が行われていたなんて……!



「いやああああああ!」


「助けてくれぇ!」



 四方から上がる悲鳴。どれから対応していけばいいのかわからない。でも、ジッとしているだけじゃどうしようもないのは事実だ。

 レイバックルに白のエーテルディスクを装填する。



「変身!」

《-----Complete LÆVATEINN GENESIS FORM-----》



 変身が完了すると同時に、一番近い位置の魔物の尻尾を掴んだ。

 体長1mほどのトカゲのような魔物をそのまま円を描くように振り回し、ハンマー投げの要領で手を放す。


 投げた先にいたのは、鋭い爪で人に襲い掛かろうとしていたスロース・バイヤード。

 灰色の体毛に覆われたナマケモノの怪人だ。スロースは避ける動作も間に合わず、トカゲの魔物にぶつかり転倒した。



「いってぇ……。お、レヴァンテインじゃねーか……!」



 ゆったりとした動きで立ち上がるスロース・バイヤード。

 あまりにも鈍い動きに油断してしまいがちだが油断してはいけない。手の甲から伸びる爪は鋼鉄をも切り裂く凶器だ。

 人間の骨はもちろん、レヴァンテインのスーツだって無事では済まない。



「早く逃げろ!」


「は、はい!」



 周囲の人たちに避難を促し、スロースの動きを見張る。

 こいつは足の遅い怪人だから、普通に逃げれば追いつかれることはない。だが、覚醒の影響で走力が上がっているかもしれないし、こいつ一人に割く時間も無い。


 ここは一つ、ディメンションクラッシュのテストをさせてもらおう。



『調整完了だ。いつでも使えるぞ』



 レイバックル側面の必殺技ボタンを3回連続で押す。



《-----OVER DRIVE-----》



 聞きなれない電子音声の直後、警告音のような待機音がベルトから流れる。

 爪を立てて暢気にこちらに走ってくるスロースに狙いを定め、射程圏内に入った瞬間にレバーを前に倒した。


《-----DIMENSION CRASH----》

《-----Ver.GENESIS----》



途端に右足が重たくなったのを感じた。質量や重量といった概念が歪み、右足に纏わりついているような感覚。


 しかし、ラグナロクフォームの暴走に比べれば大したものじゃない。これくらいなら、制御できる。



「ディメンションクラッシュ!」



 歪な力場の塊でスロース・バイヤードの胴体を蹴り飛ばした。

 すると、フッと右足が軽くなり、反動で転びそうになる。代わりにスロースの身体の輪郭が曖昧に歪み内側へと爆縮していく様が目に入った。



「なっ……! んだこ……! ぐぁ、」



 悲鳴を上げるのすら遅すぎたスロースは、体内のエーテルを暴発させ、辺りに轟音を響かせながら爆死した。

 衝撃波が周囲の物を吹き飛ばし、火の粉が舞い散る。先に人を非難させておいて正解だった。



「イヌイコータさん! あっちにも!」



 アテナの示す方向を見ると、体長が2mをゆうに超える亜人型の魔物が数体暴れていた。

 手持ちのディスクの中では黄が一番相性がよさそうだ。



「エーテルチェンジ!」

《-----Complete LÆVATEINN MERKABAH FORM-----》



白の装甲(アーマー)が剥がれ、レヴァンテインの素体が露わになる。周囲に黄色い装甲(アーマー)が後はそれと合体するだけで変身が完了する。



紅ノ雷砲(クリムゾン・カノン)



 その直前、紅い閃光が視界に映る。

 装甲(アーマー)合体前の無防備な素体。攻撃を耐えることも、避けることも難しい。


 決して油断していたわけじゃない。だが、気づけなった。さっきまであの角には誰もいなかったのだ。



守護の左手(イージス)っ!」



 咄嗟にアテナが間に入り、盾で閃光を吸収する。

 光源に立っていたのは右腕を異形に歪ませたツインテールの少女、リカだった。



「あーあ、残念。ここで殺せれば楽だったのに」



 そういってリカは不敵な笑みを浮かべた。



「リカ! もうやめて! イヌイコータさんはお兄さんなんだよ! 兄妹で殺しあうなんておかしいよ!」


「……? 兄妹? 何言ってるのアテナ? 私はバイヤードでそいつは人間じゃないの。そもそも種が違うんですけど」


「……なに?」



 リカの発言に含まれる違和感。

 それに答えるかのように、彼女の背後には右腕を失ったリゼルバイヤードが立っていた。

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