第51話 強欲
前回までのあらすじ!
頭脳明晰最強無敵の幹部怪人の私ことリカルメ様は王都でアテナと感動の再会を果たしていた。
しかし、喜んでいられたのもつかの間。アテナは浩太と王宮に向かった後、そのまま3日も帰ってこなかった。
浩太がどうなろうと知った事じゃないけど、アテナに何かしようものなら例え王様だろうと容赦しないわ。
そうしてお城に突入した私の前に現れたのはなんとバイヤード四天王の一人、リゼル・バイヤードだった。
◇
翌日、王宮内大臣私室。
家具、照明、寝具、壁紙、どれをとってもこれまで泊まってきた宿とは比べものにならないくらい荘厳な内装だった。
転移してからずっとこんな部屋で過ごしてきたなんて妬ましい限りだわ。
「いえいえ、この身体に擬態したのは最近の事です。なのでちょっと前まではリカルメさんとの生活と大差ありませんよ」
「勝手に人の心を読まないでくれるかしら」
正面の椅子に座るリゼルが軽薄な笑みを浮かべている。今はこの国の大臣であるマキナ=カザリウスという人物に擬態しているらしいわ。
「私の精神感応は単なる通信手段です。嫌がる相手の心を無理やり覗くことなどできませんよ」
「どうかしらね。あんたは昔から自分の能力に関する隠し事が多いから信用ならないわ」
初めて会った時にこいつから説明された能力は念動力だけで他の能力は何も無いとのことだった。でも同じ幹部として働いていくうちに、実は瞬間移動も使えるだの、本当は精神感応も使えるだの、どんどん化けの皮が剥がれていった。
手の内を明かしたくないという気持ちはわからないでも無いけど、同じ幹部にまで隠し立てすることかしら?
とはいえ、ようやくこの世界で出会えた幹部仲間に少しだけ心を許しているというのも事実だわ。その上リゼルはゼドリー様とコンタクトを取れる唯一のバイヤード。これで一気にレヴァンテイン抹殺計画も進むってものよ。
……ただ、出来ればアテナのいないところで決着をつけたかったわね。アタトス村の一件があるから、私と浩太が戦っているところを見たらアテナ絶対に悲しむでしょうね。
「それで、昨日言っていた弱体化っていうのはどういう事なの? やっぱりこの世界に飛ばされたことが原因なのかしら」
「いいえ、むしろそれは逆です。私たちバイヤードはこの世界に訪れる事で地球に居た頃の何倍にも強くなれるように作られています。考えられるのは、やはり貴方が地球で潜入活動を行っていた時でしょう。あの時貴方は敵の本拠地で寝泊まりしていた。途中で正体がバレて、改造手術でもされたのではないですか?」
「……まさか、ユリ博士が?」
でも、確かにあり得る話だわ。
私はレヴァンテインのゲネシスフォームに敗北してこの世界に来た。本来の私であればあんな弱っちいヒーローに負けるはずなんてない。私は最強のバイヤードなのだから。
「それで、私はどうしたら元に戻れるの? 手術とやらを受ければいいのかしら?」
「手術云々は私の推測ですよ。実際はもっと違った手段かもしれない。ですが、安心なさい。ゼドリー様が直々に貴女を作り直すと仰っています」
「ゼドリー様が!?」
「ええ、貴女はゼドリー様の切札なのです。壊れかけているからと言って簡単に手放したりはしませんよ」
物扱いするような言い回しにイラつきを覚えたが、それよりもゼドリー様が私の事を気にかけてくれている事の喜びが上回った。
この道中ツラいことばっかりだったけど、アテナにも再開出来て、ゼドリー様にも求められている。私は世界一の幸せ者だわ。
「ゼドリー様にここまで足を運んでもらうまでもないわ。リゼル。瞬間移動で私をゼドリー様の元に運びなさい」
「その必要はありません。この王都はバイヤードが占領します。ゼドリー様がお戻りになるまでに、この国を征服するのが私の役目です」
「征服? あなた1人で?」
「流石に私1人では少々時間がかかってしまいますよ。この城内には既に私以外のバイヤードが13体潜伏中。更に、魔界からも心強い味方が1人付いています」
無論、貴女にも手伝ってもらいますよ。と言ってリゼルは席を立つと瞬間移動でどこかへ消えた。
かと思いきや、数秒後には再び部屋に戻ってきた。その手に畳まれた衣服を持って。
「城内をその恰好で歩き回られると目立ちます。なので、この衣装に着替えてください」
◇
「なんっで私がメイドなのよおおおおおおおおッ!」
黒を基調としたワンピースに、フリル付きの白いエプロンとカチューシャ。
リゼルから手渡され、現在私が身に纏っているこの衣装は俗に言うメイド服というものだった。
リゼル曰く、私は人格擬態の苦手なバイヤードだから王族の誰かに紛れる事は難しいと判断。しかし給仕であれば人数も多く、1人くらい身元のわからない人間がいてもすぐには特定されないとの事でこういう役回りを当てられたらしいわ。
「私はバイヤード四天王なのよ……! リゼルは大臣で、他の下級バイヤードでさえ貴族や騎士に成りすましているっていうのに、なんで私が召使いにならなきゃいけないのよ!」
今の擬態である東条ミカの姿を捨てずに済んだのが不幸中の幸いだけどね。アテナの知るリカはこのツインテールの女子高生なのだから、絶対に死守しなくてはいけない。
……とはいえ、このフリフリの衣装でお城を歩き回るの結構恥ずかしいんですけど。
知り合いには絶対見られたくないけど、リゼルから任された仕事の特性上そういう訳にもいかないのよね。
その仕事はズバリ、城内に潜伏しているとみられるアテナ達の捜索。
王宮に内通しているリゼルならアテナの居場所を知っていると思ったのだけど、どうやら先日からアテナと浩太は姿をくらましたらしい。
ただ、王宮の警備には異常がないらしく(私の突入時を除く)、まだ城内のどこかに潜んでいる可能性が高いみたい。
まあ、アテナに会えるならなんでもいいわ。さっさと見つけ出して、この国を支配しなきゃ!
……それにしてもこの服動きづらいわね。
「おい、そこのメイド」
廊下を歩く私を愚かにも一人の男が呼び止めた。
男は鎧を纏い、腰に剣を携えている。たぶん騎士ね。
「見ない顔だな。担当を言え」
「た、担当? えーっと、掃除かしら……」
劣等種に大きい顔されるのも癪だけど、リゼルからなるべく目立つなって釘を刺されているのよね。あいつの指示に従う義理はないけど、ここでわがまま言ってゼドリー様の計画を邪魔するわけにもいかないわ。ここは我慢よ我慢。
「妙だな。俺は毎日この付近を警備しているが、お前のような清掃人は見たことが無い」
フリフリつまみながらタラタラと汗が流れる。ここはなんとしてでも誤魔化さないと!
「最近、ここの担当になったんですの」
「……怪しいな」
マズいわ。もうバレそう。まだ1話も経ってないのに。
どうしよう。この劣等種、殺してもいいかしら? でも、白昼堂々怪人態になるわけにもいかないし、かといって騎士相手に人間態で挑むのもちょっと不安ね。
「まあいいさ。黙っておいてやってもいいぜ」
「え、いいの?」
あ、しまった。この反応だと私が偽メイドだと認めてるようなものじゃない。
でも黙ってもらえるならノーカンよね。よかったわ。
「ただし、一つ条件付きだ。ちょっと宿舎まで来てもらおうか……」
そういうと騎士の男は豚のような下卑た笑みを浮かべた。
さっきからいやらしい目つきで下向きの視線を送られてる……。なんか嫌な予感が。
「えぇと……、マキナ大臣から仕事を任されているのでまた後日に……」
「掃除なんて奴隷にでもやらせればいい。大丈夫、ちょっと俺と遊んでくれれば君はここのメイドを続けられる。なんならお駄賃をやってもいいぜ?」
男の息がだんだんと荒くなってきた。あ、ダメだこれ。殺意を抑えられない。
この給仕服の上から私の色気を見出したその慧眼は評価に値するけど、身の程をわきまえず醜い劣情を曝け出すその不敬さは万死に値するわ。
「ここだと人目に付くな……とにかくこっちに来い!」
「あっ……」
男が私の腕を引っ張り、物陰へ入り込もうとする。
幸いにもこいつは手袋していたのでその汗に濡れた手が私を穢すことは無かった。とはいえ、バイヤード四天王のリカルメ様の腕を劣等種如きが掴むなんて、耐えきれないわ。
「もういいわ……擬態か――」
「彼女嫌がってるじゃないか、離してやれよ」
私が怪人態に戻る寸前、鎧を纏った兵士が騎士の腕を掴み、歩みを止めさせた。
兵士の方は二人組、両方とも兜で顔を隠している。
「何をする貴様! 兵士の分際で騎士の俺に楯突こうってか!?」
「騎士道精神のかけらも無いお前みたいな悪が、騎士を名乗るな」
「なんだと小僧……!」
怒った騎士が私の腕を離し握りこぶしを作る。
そして、兵士目がけて思いっきり振りかぶり、籠手と鎧が金属音を立ててぶつかった。
その反動で兵士の鎧がバラバラと崩れていく。鎧は各部位に分かれて床に落ちていく。
「……は?」
この場で騎士だけが素っ頓狂な声を上げていた。
私は特に驚いていない。なぜなら、あんなクサい台詞であの場に割り込んでくるようなバカはこの世に一人しかいないからだ。
兵士の鎧から青い液体が飛び出し、騎士の体に纏わりつく。
レヴァンテイン ショゴスフォーム。兵士に化けていたのね、浩太。
「な、なんだ!? なんでスライムが王宮に!?」
「ちょっと寝ててもらうぜ。オラッ!」
レヴァンテインは騎士をうつ伏せの状態で床に貼り付け、流動護謨で拘束する。
青い液体は人型になり、青のエーテルディスクを取り出して変身を解除した。
《----Form Release----》
「もう大丈夫だよ。とりあえず人にこの状況を見られるとマズイ。すぐに移動しよう」
「そう思うならもっと穏便な方法を取りなさいよ。戦うしか脳の無いヒーローはこれだから」
「え、お前リカだったのか!? なんでここに? ていうかなぜメイド服」
「ふ、服の事はツッコムんじゃないわよ! 私だって着たくて着てるわけじゃないんだから! ……それよりも」
浩太の後ろに兜で顔を隠した兵士がもう1人立っている。という事はあれがアテナね! ようやく見つけたわ!
「アテナ―! 会いたかったよー!」
もう1人の兵士に向かって駆け寄る。
甲冑に身を包んだアテナは私との再会を喜んでくれたのか、言葉も発さずに両手を広げ私を抱きとめようとしてくれている。
「一応言っておくと、その甲冑の中身はアテナじゃないし、そのメイド服の女は人間じゃなくてバイヤードだぞ」
「えっ!?」
「はぁっ!?」
慌てて足を止める私と、広げた腕を引っ込める兵士。
兜の中から聞こえる声は確かに男のもので、断じてアテナのものではない。
「あぁっ!? よく見たらお前! 俺に雷撃ぶっ放した女じゃねえか! かわいいメイドちゃんかと思ったのに、騙されたぜ!」
「だ、騙したのはそっちの方じゃない! 誰だか知らないけど、顔隠して浩太と一緒に行動してるんじゃないわよ! ていうか、アテナは結局どこなのよ!?」
「落ち着けリカ。アテナは無事だ。いまはエリッサの部屋で待機している」
エリッサというのが誰なのかわからないけど、アテナが無事だという事を聞いてひとまず安心した。
それなら早く部屋に行ってアテナを連れ出さなくっちゃ。しばらくリゼルの部屋で大人しくしてもらって、その間にちゃっちゃと浩太と決着をつける。それで全部解決だわ。
「それにしても、驚いたぞ。まさかお前が衝動を抑えて潜入なんて穏便な手段を使うなんて。成長したなリカ!」
笑みを浮かべる浩太がガシガシと頭を撫でてくる。忘れてた。ダルトスの町を出た辺りから浩太はおかしくなってるんだったわ。
私に惚れてるのかとも前に思ったけど、どっちかといえば年下の身内に接する態度に近いわねこれ。私の初期の人間態が妹そっくりだったことから、私と妹を重ねて見てるのかしら?
「髪触んないで! 私は元々スパイよ。半年前のこともう忘れたの?」
「それもそうだな。いや、よかった。俺はまたお前が人を殺しちゃうんじゃないかって心配で心配で」
実際には見張りの兵士を何人か殺しているのだけど、どうやら知らないみたいね。
ごまかす必要はないんだけど、ここで無駄にもめるとアテナに会えなくなるかもしれないわね。ここは我慢よ我慢。
「胡散臭い賞金稼ぎたちだと思ってたけど、まさかバイヤードだったなんてな」
「誤解するなよ。バイヤードはこいつだけで、俺は人間だ。……いや、こいつだって本当は……」
私の目を見て浩太は何かを言いよどむ。
「とにかく、エリッサの部屋に戻るぞ」
◇
一般的にお姫様と言われれば清楚なイメージがあると思う。
生まれて2年しか経っていない私はおとぎ話なんてまともに読んだこともない。それでもなんとなく純潔のドレスを身に纏い、慎ましやかな心で民に接する姿が私には想像できる。
だから私が部屋に入った時、誰が「エリッサ姫」なのかわからなかった。いや、じっくり考えた今もわかってない。
この場にいるのは浩太とアテナ、パラスの兄、金髪の貴族っぽい騎士、両手に大量の指輪を嵌めているダークエルフ。姫、に該当しそうな人間は1人もいない。
少なくとも身体に大量の鎖を巻き付けた片眼鏡で五色の髪の女は絶対に違う。断言出来る。
こんな奴が姫だったらこの国は征服する価値もないわ。放っておいても滅びるわよ。
とりあえずこの中で一番姫っぽい人物といえば……。
「あんたがこの国の姫様ね!」
「リカ? 私、アテナなんだけど……」
「混乱してるんだろ。察してやれ」
浩太がぽんとアテナの肩を叩く。実はアテナは勇者だった上にお姫様でした、っていう展開じゃないみたいね。
そうなるとこのダークエルフかしら。指輪たくさん着けてるしアテナの次に姫っぽいわね。防具着こんでるから兵士とか騎士っぽくも見えるけど。
「お主が『紅き怪物』の方じゃな! よくぞ来てくれた。妾はゴアクリート王国第一王女のエリッサ=パスティ=ゴアクリートじゃ!」
全身鎖に覆われた変態が何か言ってる。『紅き怪物』っていうのは私のことかしら。初対面の怪人を怪物呼ばわりするなんて、失礼な劣等種ね。
「私がバイヤードだと知った上で部屋に入れるなんて、なかなか肝が据わってるのね」
「うむ。ちゃんとわかっておるぞ! お主はただのバイヤードではない。イヌイコータ殿と共に悪に立ち向かう正義のバイヤードだという事がな!」
「は?」
説明を求めようと浩太を睨みつける。浩太は話を合わせろとばかりに自分と私を交互に指差し頷いている。
冗談じゃないわよ。なんで私がレヴァンテインの相棒みたいな立ち位置だと思われなきゃいけないの。
大きな声で否定してやりたいところだけど、隣にアテナがいるのよね。
アテナは勇者だからどっちかといえば正義側の人間。できればギリギリまで改心してるフリを続けたい。
「……とにかく、無事だったならもう帰ろうよアテナ。こんな変態の部屋に何日もいたらおかしくなるわ」
「まてお主、妾が変態じゃと?」
どうみても変態でしょうが。
「ごめんねリカ。せっかく来てもらったのに悪いけど、私はまだここでやるべき事があるの」
「やるべき事……? なにそれ」
「この国は今バイヤードと魔人族に侵略されているの。私は勇者として、ゴアクリートを奴らから取り戻さなくちゃいけない」
アテナはこの城の水面下で行われている侵略戦争について語り出した。
と言っても、私は既にその内容を完全に把握している。だって、侵略の主犯格はリゼルなのだから。むしろこの件に関しては私が一番詳しいと言っていい。
ある程度想定はしていたけど、やっぱりこうなるのね。アテナはリゼルと戦う気でいる。
つまり、このままだと私ともいずれ決別してしまう。それは、嫌だな。
だから――
「……わかったアテナ。私も一緒に戦う!」
スカートを力強く掴みながら私はそう言った。
浩太がはっとして私を見る。私の発言に驚愕している。
「ほ、本当に? でも、リカを戦いに巻き込むわけには……」
「私は元バイヤード四天王だよ。リゼルの弱点だって知ってるし、だいたいの行動パターンも予測できる。あいつと戦うなら、私は役に立つよ」
「お、おい……!」
浩太が私を引っ張り、アテナから少し離れると小声で話しかけた。
「いいのか? いくらアテナのためとはいえ、ゼドリーを裏切る事になるんだぞ?」
まあ、浩太は私の本性をよく知ってるから、こんな言葉じゃ納得しないわよね。
「これは私にとってもチャンスなのよ。私以外の四天王がいなくなれば、幹部級バイヤードは私1人。ゼドリー様の寵愛を受けるのは私だけで充分だわ」
「……そういう事かよ。まったく、お前らしいというか」
ため息をつきながら頭を掻く浩太。呆れ半分ではあるもののどうやら納得してくれたらしい。
「わかった。なら、また利害の一致って事で協力だな。足引っ張るなよ」
「こっちの台詞よ」
そうして、対リゼル・バイヤードの対策会議が始まった。
私と浩太は人間界の噂内で『白き騎士と紅き怪物』だなんて呼ばれているらしく、私はレヴァンテインの味方としてすんなりと受け入れられた。
ただ、ボタンに関してはやる気というものがあまり見受けられない。こいつはあくまでも過去の犯罪歴の帳消しと多額の報酬を目当てにしているだけらしく、私たちと協力しようという意思が見られない。
いや、それは浩太も同じね。この潔癖正義バカは盗賊であるボタンの存在を快く思っていない。バイヤードに向ける殺意のような感情は無いものの、敵意は常に醸し出してるって感じかしら。
まあいいわ。
その方が、圧倒的に崩しやすい。
――リゼル、聞こえる? リカルメよ。
『はい。なにか収穫はありましたか?』
――勇者アテナとレヴァンテイン、ついでに脱走中のボタン=トリトンを発見したわ。エリッサっていう変態姫が手引きしてたみたい。
『……なるほど、やはりそこでしたか』
――二つ、用意してほしいものがあるわ。レヴァンテインを確実に殺すための戦力。それと、アテナを監禁するための部屋。高級ホテル並みのロイヤルルームでね。
『監禁部屋の仕様を豪華にする意味はよくわかりませんが……。いいでしょう、留学中の第二王女の部屋を間借りさせてもらいましょう』
アテナと戦うのは嫌だ。だけど、ゼドリー様を裏切るのはもっと嫌だ。
だから――私はアテナを無力化する事にした。
杖も宝玉も槍も盾も、全部没収して勇者としての力を全て封じる。戦う術を奪う。
そうすれば、アテナはただのかわいい女の子でしかない。
アテナを拘束し、アテナの知らないところでこの国を征服し、浩太も殺す。
全て終わった後で、私とアテナはこの国で幸せに暮らすの。
最初は悲しんだり、怒ったりするかもしれない。でも、ゼドリー様を紹介すれば、きっとアテナも勇者の価値観を捨てて、私と同じ考えを持ってくれるはずよ。
アテナか、ゼドリー様か。私は選ばない。両方とも、手に入れてやるわ。





