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第38話 台無し

 王都生活2日目。

 今日もまた広場で公開処刑が行われるらしいわ。

 もしグランレンドの狙いが処刑の妨害なら、再び広場は(あお)の銃弾が降り注ぐことになるでしょうね。


 浩太は町の人たちが銃撃に巻き込まれないように、とレイバックルとディスクを持って広場に向かった。上手くいけばグランレンドと潰しあってくれることでしょう。

 私は処刑が予定通り進もうと、町の人間が流れ弾で死のうと興味ないので宿でお留守番だ。


 さて、これからどうしようかしら?

 現状、この世界で頼りに出来るのは浩太ただ一人。レイバックルの充電を条件に、レヴァンテインの力で私を守らせることが出来るから。

 そういう風に今まで考えてきたけど、昨日の出来事で少し考え方が変わった。


 もしかしたら浩太はレヴァンテインの力にこだわっているわけなじゃないのかもしれない。

 自分の中にある正義を実行するのに都合がいいから、レヴァンテインに変身しているだけで、あいつからヒーローの力を奪ったところであいつの生き方とか考えは絶対に変えられないんだ。

 その証拠に、浩太は変身できない状況で山賊からアテナを助けに行こうとした。妹の仇である私を助けるなんて真似をしてまで。


 ハッキリ言って、人間の思考ではない。あれじゃまるで人助けのために作られたロボットだ。


 ピロピロピロピロピロピロピロピロ!


 突然、浩太のベッドから電子的な音が鳴り響く。この世界じゃしばらく聞かなかった音だけどこれは着信音だ。

 枕元にスマホ型通信機レ―ヴァフォンが置いてある。浩太忘れていったのね。

 発信元はユリ博士。……って他にかけてくる奴なんていないか。


 レ―ヴァフォン(スマホ)を取り、応答ボタンをタッチした。すると、画面が切り替わり、ユリ博士の姿が表示される。まさかビデオ通話だったとは。



『おや、リカ君じゃないか。戌亥君はどうした?』



 銀髪のストレート。純白の白衣。そして、小学生並みの低身長。

 この人の容姿も半年前から全く変わってないのね。これが20代後半って絶対嘘でしょ。



「浩太は絶賛正義実行中よ。こっちじゃなくてレイバックルの方にかければ繋がるんじゃないの?」


『なに? ……本当だ。いま変身中じゃないか』


「たぶん相手はオクシオン、……グランレンドよ。それも地下の時に見せた蒼のディスクを使ってる瞬間移動(テレポート)みたいな能力(ちから)使ってたわ」


瞬間移動(テレポート)……? あのディスクにそんな力が。とにかく、すぐに戌亥君にかけ直さなくては』



 そう言うと、画面の中のユリ博士が通話を閉じようとしてきた。



「ちょ、ちょっと待って!」


『待たない。悪いが戌亥君のサポートをしなければいけない』


「待ちなさいって言ってるのよユリ!」


『ドクターリリィだ! 年長者を呼び捨てにするな! で、何の用だ?』



 あ、それで待つんだ。

 明らかに不機嫌そうな顔で私が喋るのを待っている。たぶん本人はスゴんでいるつもりなんだろうけど劣等種のおこちゃまが怒ってる姿なんて怖くもなんともないのよね。むしろかわくさえ見えるわ。



「単刀直入に聞かせてもらうわ。なんであんたはあの時、私を守れなんて命令を浩太に出したの?」


『……!』



 一瞬だけど、ユリ博士の表情が変わった。

 だけど、ユリ博士に取ってもそれくらいの質問は想定していたのか、間を開けずに返答をした。



『君と戌亥君がどういう関係なのかは本人の口から確認済みだ。いまレイバックルを充電できるのは君の紅い稲妻だけ。君を生かすことは戌亥君の安全にも繋がる。それだけだ』


「そんな見え見えの嘘で誤魔化(ごまか)さないで。浩太はそんなことで自分の正義を捻じ曲げる劣等種(にんげん)じゃないわ」


『……随分彼に対する理解が深いじゃないか』


「う、うるさいわね! さっさと本当のこと言いなさいよ!」



 私はポケットから黒のエーテルディスクを取り出してレ―ヴァフォンのカメラに映す。



「今すぐ本当のこと言わないと、このディスクをへし折るわよ!」


『な、なんだとっ!?』



 ユリ博士が目に見えて動揺し始める。

 ゼドリー様と相打ちになったというラグナロクフォーム。それに変身するためのアイテムが、この黒のエーテルディスクだ。

 これが無ければレヴァンテインはゼドリー様とまともに相対することも敵わない。


 さあ、もっと慌てふためきなさい! 無様な顔を見せなさい! このリカルメ様に劣等種が口答えすることの愚かさをとくと教えてあげるわ!



『馬鹿な真似はよせ! ディスクが破損したら、凝縮された高密度のエーテルが一気に爆散し、周囲一帯を消し飛ばすぞ!』


「へ?」



 ユリ博士から告げられた衝撃の一言で手から黒のディスクを滑らしてしまった。

 ディスクは無防備な基盤を晒しながら硬い床へと落下していく。



「ひぃぃぃいいいいいいっ!?」



 一瞬でディスクと床の間に潜りこみ、黒のディスクを身体で受け止める。

 アテナと違って、控えめな私の胸にポスっと収まる。


 擬態元(東条ミカ)が完全な貧乳じゃなくてよかった……。


 両手で黒のディスクを持ち直し、再び画面内のユリ博士と向き合う。



『といっても、ディスクの耐久力は鋼鉄並みだ。怪人態の君なら壊せるだろうが、床に落ちた程度では傷一つつかないだろう』


「それを先に言いなさいよ!」



 とりあえず、壊すのは無し。安全第一。

 でも、これを脅しに使えないとなると、一体なにを取引材料にすれば……?



『第一、なぜ私の命令の真意を問いたがる? 理由がどうあれ、戌亥君に守られている今の状態は、君にとって好都合じゃないのか?』


「最近浩太がやたら馴れ馴れしくてキモいのよ」


『あー……、うん、それは済まない』



 なんか、謝られた。

 でもそういう反応をするってことは、やっぱり何か関係があるのね。



『戌亥君にはあまり期待を持ちすぎるなとは言ってあるんだが、やはり無理だったか……。リカ君、提案なんだが、これから戌亥君のことを「おにいちゃん」と呼んであげる気はないか?』


「あんたら気でも触れたの?」


『待てよ、そう言えば元々どういう呼び方をしていたのか知らないな……。「お兄様」? 「にぃにぃ」? いや、意外に「おにいたま」の可能性も……?』



 …………。

 なんか、画面の向こうでブツブツ言っている。まともに取り合う気はないってことかしらね。



「真面目に答える気は無いってことね。もういいわ。バイバイ、ユリ博士」


『いや、待て! ドクターリ』



 通話ぶつ切りにしてやった。これで、またふりだしか。

 黒のディスクを手に入れたのはいいけど、思ってたより扱いに困るわねこれ。かと言ってその辺に捨ててまたオクシオンに拾われても厄介だし……。



「はぁ」



 ため息、一つ。

 なんだか最近上手くいかないことばかりだわ。

 元部下たちに村を荒らされるわ、アテナとのいちゃいちゃスローライフは断ち切られるわ、金欠で道中餓死しかけるわ、オクシオンに命狙われるわ、パラスに命狙われるわ、浩太に命狙われるわ、かと思ったら今度は浩太に貞操ねらわれてるわ。

 なんかもう疲れたわ……。



「ごはん、食べよ」



 そういえばお昼ごはんをまだ食べてなかった。

 レ―ヴァフォンをベッドに投げ捨てて一階の酒場へ向かうべく部屋を後にする。



「あ痛ッ!」



 廊下に続くドアを開けた瞬間、ドアノブを握る手に衝撃を感じ、廊下の方からは女の子の声が聞こえた。少し遅れてドスンと床に何かが落ちたような音。


 たぶん外開きのドアが通行人にぶつかったんでしょう。そんな勢いよく開けたわけじゃないのに、どんなドンくさい奴がぶつかったのかしら。



「ちょっと、どこ見て歩いてたのよ。大丈夫?」



 廊下に出て、尻もちをついていた少女に手を差し伸べる。



「ご、ごめんなさいッス。ちょっと急いでたもので……あ」


「あ」



 少女が顔を上げ、私と目が合った。

 瞬間、空気が、凍る。


 小学生みたいな小柄な体躯。襟足が肩にかかるくらいの短髪。

 そして、背に掲げる細身の三叉槍(トライデント)。見間違えようがない、パラス=トリトンだ。


 そう言えば浩太が言ってたっけ、このガキも崩落を生き延びて王都に向かっていたって。まさか、同じ宿に泊まっていたなんて……。


 マズい。こんな人目に付く場所じゃ擬態解除できない。

 かと言って人間態の私じゃ、守護の左手(イージス)に対抗するほどの力は無い。持久戦に持ち込まれたら、間違いなくこっちが負ける。


 とはいえ、表向きには私はただのリカという名の人間だ。

 こいつは私がバイヤードであることを知っているが、それを示す証拠は無い。罪人でもない私に公共の場所で襲い掛かれば、周囲の人間は間違いなく私の味方をする。


 このガキもそれくらいの事はわかっているはず。



「久しぶりね、パラスセンパイ。こんなところで何をしているのかしら? お兄さんを処刑する王都への襲撃でも企んでいたのかしら?」


「めめ、滅相も無いッス……。ぱ、パラスはただ、人と待ち合わせているだけで……」



 パラスは私から目を反らしながら、いや反らしてるっていうよりは泳がせながらボソボソと喋っている。

 あれ、この子こんなキャラだったかしら?

 慌てているような、怯えているような。


 ダルトスの町ではもっとこう、偉そうに先輩面かかげて、それでいて憎しみの感情をむき出しにしているようなそんな雰囲気だったはず。


 よく見るとパラスの首には二つの首飾りがかけてあった。一つは私が()げているのと同じ賞金稼ぎ(バウンティハンター)の首飾り。もう一つは、何らかの結晶が取り付けられたペンダントのようなもの。


 なんで、わざわざ二つも首飾りを……?



「とにかく、今でも私のことを殺したいと思っているなら、場所を変えましょう。ここじゃお互いやりにくいでしょ?」


「いやぁ、ここはお互い見なかったことにするのが得策かと思うッス……」



 パラスは露骨に戦いを避けようとしている。

 ほんとにどうしたのよ浩太といいこいつといい。たった数日でキャラ変わりすぎでしょ。


 と、ここで私はあることに気づいた。

 パラスの左腕にはある物がない。地下遺跡で発見した守護の左手(イージス)を彼女はいま持っていないのだ。


 はは~ん? そういうことね。


 今のパラスは神器守護の左手(イージス)を持っていない。部屋に忘れたのか、道中盗賊に奪われたのか知らないけど、これは絶好のチャンスだわ。

 守護の左手(イージス)の無いパラスなんて、ただの人間。恐れるに足りないわ。


 後ずさるパラスに歩み寄り、ガシッとその肩に手を回した。



「ひっ!」


「まあまあ、せっかくこうして会えたんだからちょっと話していきましょうよセ・ン・パ・イ。私の部屋、今誰もいないからゆっくり出来ますよ?」



 そう言って、私はパラスの目の前で紅い稲妻をバチバチと鳴らして見せる。そのたびに顔を青くしていく様子は見ていてとても面白い。


 地下で刺されたお腹の傷の分はお礼してあげないとね? 手順を考えておかなきゃ。

 浩太が帰って来た時のために、舌と喉を痺れさせて喋れないようにして縛ってベッドの下にでも寝かしておく。そして、浩太が寝た後に外へ連れ出し、死なない程度に拷問する。後は、奴隷商にでも売ってやろうかしら?


 バイヤード四天王のが一人、リカルメ・バイヤード様に逆らったことを死ぬまで後悔させてやるんだから!



「ぱ、パラスはこれで失礼するッスーーーーッ!」



 パラスは私の手を振りほどき、脱兎のごとく廊下を駆け抜けていった。

 そのまま突き当りの階段を駆け下りていく。しまった、このままじゃ逃げられる。



「ちょっと待ちなさい!」



 私も慌ててその後に続いた。他の宿泊客が何事かと奇異の視線を向けるが無視して突っ切る。

 階段を降りた先は、酒場を兼ねた広いロビーだ。ここは王都でも人気の酒場で、客も多い。

 小柄なあのガキを見失いそうになるけど、あの三叉槍(トライデント)はよく目立つからすぐに見つかった。


 あちらも私に気づいたのか、あたふたと周りに目を見渡している。

 誰かに助けを求めようとしているのかしら? 無駄よ。生半可な人間じゃ、私には敵わないわ。


 パラスが近くにいた女の陰に隠れる。後ろ姿だから女の顔は見えない。いいわ、私の邪魔をするのならまとめて相手してあげる。


 パラスがしがみついている女、身長は私よりちょっと高い。耳が長いってことはエルフ族ね。服装は緑色の民族的なもの……。あれ? なんか見覚えが……。



「あ、あ、アテナ様! 助けてくださいッス! バイヤードが!」



 ……え?

 いま、なんて言ったの……?



「バイヤード……!? パラスちゃん、隠れてて! ここは私が! ……あ」



 パラスに助けを求められた女が振り返り、私とぴったり目が合った。

 見間違い? 幻覚? その顔は、私が半年間一緒に過ごしてきたとある少女に酷似していた。


 いや、見間違えるはずが無い。私が、アテナの顔を、見間違えるはずが無い!


 目から涙が零れそうになる。


 もしかしたら、一生会えなくなるかもしれないって思ってた。

 たった一週間だけど、旅の途中で何度も死にかけて、その旅に彼女の顔が頭に浮かんだ。


 気がついたら私は走っていた。この一週間分の寂しさを全部埋めるために。

 はやくアテナに抱き着きたい。今まで辛かったって甘えたい。


 そんな私を見て、アテナは……!



「リカ、この状況について少しお話があります。私たちの部屋についてきなさい」



 ぴしゃりと冷たい声でそう言い放ち、私に冷え切った視線を向けた。



「え? あ、あの……アテナ? 私だよ? リカだよ?」



 両指で顔を指し、私の存在をアピールする。

 だけど、さっき名前で呼ばれた通りアテナはキチンと私の存在に気付いている。



「だから怒ってるの。私を命がけで山賊から助けだしてくれたリカが、なんでこんな小さな子をここまで怯えさせるようなことをしたの?」



 パラスは今でもプルプルと小動物みたいにアテナの陰で怯えている。

 こ、こいつのせいかぁ……!



「もう、感動の再開が台無しだよ……」



 アテナはとても残念そうに(うつむ)いていた。

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