第39話 生命樹型グランレンド
前回までのあらすじ。
レヴァンテインとして一年間戦い続けた俺、戌亥浩太は首領ゼドリーを討伐すべく、バイヤードのアジトに乗り込んだ。
禁断のアイテム黒のエーテルディスクでラグナロクフォームに……。
え? 巻き戻りすぎ?
えっと、じゃあ、いま第三章だから、第二章の終盤くらいからでいいかな? あ、はい。了解です。
◇
前回までのあらすじ。
リカルメ・バイヤードの正体が、妹の戌亥霧果だった。
ダメだ。第二章はここしか覚えてない。
ユリ博士からその真実を告げられて、俺は大いに混乱した。
だって、リカルメは俺から妹を奪った張本人のはずなのに、そのリカルメが妹本人だったなんて意味が分からないだろ?
でも、冷静になって考えてみればそれだと辻褄が合うんだ。
リカは俺の妹に擬態したっていう事実を、これでもかってくらい否定していた。
その後、東条ミカに擬態して姿を変えたなら、戌亥霧果の外見はこの世から無くなったのだから、当然行方不明にもなる。
あいつが霧果のことを憶えていないのはバイヤードにされた時に記憶を消されたからだし、リカルメって名前も霧果に似ている。……いや、名前は偶然か。
それに、リカと話している時、なんだか懐かしい気持ちになったんだ。
まるで、霧果と兄妹ゲンカでもしているような、そんな感じがいつもしていた。
だが、ユリ博士は同時にこうも言っていた。
『バイヤードを人間に戻す方法は見つかっていない。そんなものがあれば、君をヒーローになんてしていないよ。だから、あまり期待はしすぎないでくれ。これ以上、君が傷つくところを見たくないんだ』
そんなことは、わかっている。
だけど、記憶を失っていてもあいつは霧果なんだ。
17年間一つ屋根の下で暮らしてきた俺にはわかる。いま思えばなんで今までリカが霧果だと気づかなかったのか不思議なくらいだ。
あいつがもう人間の身体に戻れないっていうなら、せめて、心だけでも人間に戻してやりたい。
その日から俺はリカのことをリカルメとして見るのをやめた。
俺の隣にいるのはあくまで霧果の生まれ変わりだ。今はそう思ってリカに接している。
リカもそんな俺の気持ちをどこか察してくれたのか、以前よりも少し大人しくなってくれたような気がする。
そんなこんなで王都にやってきた俺たち。
ゼドリーについて聞き込みを行っていると、広場で公開処刑が始まったのだ。
罪人の名はボタン=トリトン。ダルトスの町で俺たちがギルドに引き渡した200万ゴルドの賞金首だ。
だが、処刑はギリギリのところで中止された。そう、グランレンドの銃撃によって。
奴の目的はわからないが、広場一体に撃ち込まれる銃撃はそのうち民間の犠牲者を出しかねない。
今日、改めて処刑が執り行われる。もし、昨日のようなことが繰り返されれば今度こそ怪我人が出るかもしれない。
そうなる前に、俺が止めてみせる!
◇
王都生活2日目。
俺はグランレンドの銃撃から人々を守るために再び広場へと駆けつけた。
時間を確認しようとポケットに手を突っ込んだが、中に何も入っていない。レ―ヴァフォンを宿に忘れて来てしまったようだ。
時計があまり普及していないこの世界で、唯一正しい時間を知れるアイテムなのに……。まあ、でも、罪人と執行人たちが広場に姿を現したのはだいたい昨日と同じくらいの時間だと思う。
ボタン=トリトン。広場に晒された奴の顔は、どこか虚ろな目をしていた。今から殺されるとあっては、それも当然の事かもしれない。
だけど、あの目にはなにか既視感を覚える。なんだか、地下で様子がおかしかったパラスの時に似ている気がする。兄妹だからだろうか?
「これより、咎人共の処刑を執り行う! 何人たりとも刑を妨げることは許されない! 性懲りもなく先日の愚行が繰り返された場合、その者には誅罰を下す!」
執行人側も殺気立っているみたいだ。無理もない。
とにかくシオンを探そう。変身前に止められればそれがベストだ。
広場に集まった野次馬たちの顔を見渡す。昨日あんなことがあったせいで人数は半分以下に減っている。
それらしい人物は見当たらない。やはり昨日と同じく外から狙撃するつもりか。
なら探すべきは広場の外。そして建物の上だ。
「私を探しているのか? 戌亥浩太」
「お前……!」
広場を出ようとしたその時、探していた青年に声をかけられた。
シオンだ。腰にはバイヤードライバーが巻かれており、いつでも変身できる状態になっている。
「なぜ昨日はあんな真似をした? この処刑を止めることに何の意味がある?」
「それを貴様に話す義理は無い」
シオンは蒼のエーテルディスクを取り出し、バイヤードライバー右側のパーツに装填する。
《----LOADING----》
バイヤードライバーから重低音の変身待機音が流れる。
こんな人前でもお構いなしに変身か。擬態が使えるっていうのは羨ましいね。
まあこの世界来てからは俺もあまり気にしてないけど。
「変身」
《----CHANGE SEFIROT GRANREND----》
シオンの右側に蒼色の円盤状エネルギー体が形成される。エネルギー体が右から左に通貨すると蒼色のスーツに包まれたシオン、いや、グランレンドが出てきた。
「これが生命樹型グランレンドだ。貴様には初めて見せるな」
蒼だなんていうけど、どちらかと言えば緑色に近いカラーリングだ。
生命樹型と言うだけあって、ところどころ木や葉のような意匠の装甲を装着している。
「また、広場を襲撃するのか?」
「ああ。貴様にとっても好都合だろう? 今まさに救いを求めている人間の命が助かるのだ」
「確かに民衆集めて、罵詈雑言浴びせながら死を見世物にするっていうのは見ていて気持ちのいいものじゃない。だけど、彼らがやっていることは、裁きだ。やり方は違えど、あれは立派な正義なんだよ」
そう。俺がバイヤードを倒すのと、なんら変わりない行為だ。
同じく悪を断罪する者として、俺は彼らを守らなければいけない。
「……貴様の正義は、理解に苦しむな。いや、そんな貴様だからこそ一年も戦い続けることができたというわけか」
白いエーテルディスクを取り出す。
生命樹型グランレンドの能力がまだハッキリしない以上、出力が安定して燃費のいいゲネシスフォームで様子を見るべきだろう。
《----Preparation----》
「変身!」
《----Complete LÆVATEINN GENESIS FORM----》
白い光の粒子を全身に纏いスーツを形成。装甲を装着し、レヴァンテインゲネシスフォームへの変身が完了した。
「おい、そこのお前達! 王国の兵ではないな、何者だ!」
近くにいた甲冑姿の兵士が数名、俺たちに近寄って来た。
俺たちの格好はこの世界ではかなり浮いている。怪しまれても無理はない。
「武器を捨ててその奇妙な鎧を今すぐ脱げ! 昨日の事件を繰り返さないよう、不審な動きをする者は地下牢に連行する!」
「私の邪魔をするのであれば、人間だろうと容赦はしない」
グランレンドは右手に大き目の拳銃を持つ。
何の迷いも無く眉間に照準を定める奴を止めるべく、俺はその手を掴みかかる。
「離せ! レヴァンテイン!」
「お前こそ、罪の無い人間に手を出すな! おいお前達! 早く逃げろ!」
俺たちが内輪もめ(内輪じゃないけど)を始めたことに戸惑っていた兵士たちだったが、一瞬顔を見合わせると全員がロングソードを鞘から抜き俺たちに向ける。
「危険因子を捕らえよーッ!」
「「「おおーッ!」」」
俺の逃げろという指示を無視して兵士たちが俺らに襲い掛かってきた。
まあ、素直に聞いてくれるとも思っていなかったけど。
一度グランレンドの腕を離し、半歩下がる。
バランスを崩すグランレンドの横腹にすかさず右の足裏を当てた。そのまま跳躍補助装置を作動させ、反動でグランレンドの身体を吹き飛ばす。
「グッ、なんだと……!?」
だが、そうしている間に兵士たちは既に剣の間合いまで距離を詰めている。
交わす暇もなく、兵士たちの振り下ろされた剣がレヴァンテインのスーツに直撃する。
しかし、それも計算内だ。普通の剣程度で、レヴァンテインのスーツに傷はつけられない。……って痛い!?
「ぐあああああああ!!」
剣を受け止めた場所から痺れるような痛みが伝わってくる。
よく見たら、こいつらの剣黄色い宝玉が嵌められている。って言うことは、これ雷属性の魔法か!?
「こいつ、まだ立っているぞ!?」
「鎧に雷耐性でもついているのだろう。次は火だ! 火で蒸し攻めにしてやれ!」
なるほど。鎧相手の戦法も心得ているってわけか。少し甘く見ていたぜ。
だけど、この程度リカの雷撃に比べれば大したことはない。俺も反撃させてもらう。
レヴァンスラッシャーを取り出し、青のエーテルディスクをセットする。
《----Disk Set Ready----》
レヴァンスラッシャーから待機音が流れる。奴らは火属性魔法を実行するために呪文を詠唱しているが、それよりも俺がトリガーを引く方が早い。
《---- SHOGGOTH DESTRUCTION SLASH----》
「少しだけ大人しくしていてくれ」
兵士たちの肩や胴のあたりを狙ってレヴァンスラッシャーを振るった。太刀筋からは流動護謨が彼ら目がけて跳びかかる。
「なに!?」
流動護謨に押されて背中から壁に貼り付けにされる兵士たち。一応顔に流動護謨がついていないか確認する。窒息されたら元も子もない。
「貴様……! これは立派な反逆行為だぞ! 顔を見せろ、反乱分子め!」
「誤解しないでくれ。俺はただ処刑を円滑に行えるように……」
と、兵士たちをなだめている俺の背後を何かが走り抜けていった。
蒼いスーツを着た戦士が広場中央へと駆けていく。しまった、もう復活したのか。
俺は慌ててその後ろを追いかける。しかしその直後、銃声と共に背中へと衝撃がはしった。
痛みと共にバランスを崩し、床を転げまわる。すぐに体制を立て直し、撃たれた方向に目を向けると、そこには俺に銃を向けるグランレンドの姿があった。
「……ん?」
あれ?
グランレンドは今広場に向かって走っていったよな? なんで、俺の背後にもグランレンドがいるんだ?
いや、おそらく最初のグランレンドは見間違いだろう。現に俺の目の前にグランレンドが立っているのだから。
しかし、その解釈が間違いであることはすぐに気づいた。
またしても、俺の背後、つまり広場の方角から同じ銃声が響いたからだ。
「きゃあああああああッ!!」
広場に集まった野次馬たちが慌てふためく。
その騒ぎの中心にはグランマグナムで処刑台を破壊するグランレンドの姿が見える。
いや、それだけじゃない。建物の屋上、路地裏から何人もの蒼いグランレンドが出現している。
そう言えば昨日の銃撃は何か妙だった。わずかな時間のうちに、あらゆる方角から蒼い銃弾が飛んできたのだからな。
そんな真似が出来るとしたら、リゼル・バイヤードのように瞬間移動を使うか、あるいは……。
「これで、私を止めるのは不可能だとわかっただろう」
目の前のグランレンドが二人に増えている。いや、それだけじゃ無い。後ろと横にもいる。グランレンドに囲まれた。
「これが生命樹型グランレンドの能力。分身だ」





