第31話 証拠
あけましておめでとうございます。
今年も「悪は滅びた。正義も死んだ。」をよろしくお願いします。m(_ _)m
前回までのあらすじ。
……あれ? 前回の俺ってどうなったんだっけ?
確か、リカルメを前にしてショゴスフォームに変身していたはずだ。
リカルメの攻撃をショゴスの力で受け流し、流動護謨でリカルメを拘束した。
あいつを人間態に戻して、完全に無力化し、その喉元にレヴァンスラッシャーの刃を突きつけた。
そこから、俺はどうなった?
急に視界がグラついて、熱と寒さと吐き気が込み上げてきて、そこから記憶が途切れている。
霧果の仇は、討てたのか……?
◇
「……あれ、ここは?」
薄暗い部屋の中、目を覚ます。
いつの間にか気を失っていたのか。横向きの視界、が
なんで、俺はこんなところに……。
「……そうだ、リカルメは!?」
「ここよ」
頭上から声が聞こえた。こちらを見下ろしているように見えるが、なんか距離が近いような……。
というか、さっきから頭に石とは思えない柔らかな感触と人肌の温かさを感じる。
端的言うなら、さっきまで殺そうとしていた怪人にひざまくらされていたのだ。
「なんのつもりだお前」
「勘違いしないでよね。私が好きなのはアテナなんだからね」
「そういうこと言ってんじゃねえ! お前のアテナ信仰なんか言われるまでもなく知ってるわ!」
リカルメから距離を取るべく勢いよく起き上がる。
どういう状況なのかは全く理解できないが、俺がああいう行動を示した以上、あいつの中にも俺に対する敵意があるはずだ。ひとまず変身しないと危ない。
レイバックルを起動しようと腰に手を当てる。が。
「……ッ!? レイバックルがない!?」
「それもここよ。あんたが話聞かずに襲い掛かってくるなんて予想の範囲内なのよね」
そういって、リカルメは右手にレイバックル、左手にエーテルディスク4枚セットを手にしていた。
なんてことだ。このままでは変身が出来ない。
「黄のディスクをあんたが持ってるってことは、ソードフィッシュは死んだのね」
「……ああ。俺が殺した。部下の仇でもとるつもりか?」
「別に。ゼドリー様とアテナ以外はどうでもいいわ。私もストレス発散に何体か殺しているもの」
そういえばそうだったな。
こいつはあくまでもゼドリーに対する忠誠心が高いだけで、バイヤードそのものに対する情みたいなものは一切ない。
気に入らない者は味方でも殺す。そういう冷酷な幹部だった。
「そんなことより、また同盟を結びましょうよ。そのために、あんたを生かしてあげたんだから」
「同盟だと……?」
確かに、アタトス村では俺からこいつに協力を申し込んだ。
あの時はアテナの身が危なかったし、こいつにも同情の余地があると見込んだからだ。
だけど、今は違う。部下のソードフィッシュに命令して町を襲わせたり、賞金稼ぎの少女を追い回したり、こいつのやってることは幹部時代と同じじゃないか。
なにより、こいつは俺の妹を喰ったんだ。最初から、許していいい相手なんかじゃなかった。
「断る。俺は今ここで、お前を倒す!」
「変身もできないのにどうやって?」
ショゴスフォームの怪人無効化能力は流動護謨が剥がれてからも数時間は作用する。
つまり、あいつも今は擬態解除ができないはずだ。
絵面なんか気にしている場合じゃない。俺はヒーローとして、怪人を殺さなくちゃいけないんだ!
足元に落ちていたガラスの破片を手に取る。ナイフに最適なちょうどいい大きさだ。
今度こそ、リカルメの首を掻っ切る!
「うおおおおおお!」
リカルメは今油断している。座っているから咄嗟に避けることもできないはずだ。
万が一、手元が狂っても傷跡一つくらいはつけられるだろう。
「落ち着きなさいってば!」
しかし、リカルメはそれを難なく受け止めた。
怪人化した左腕で、俺の手首を掴んだのだ。掴まれた俺の手は凄まじい力で抑えつけられてピクリとも動けない。
「な、なんで怪人態に!?」
「アテナからもらった万能薬を飲んだおかげよ。まあ、あんたに半分あげたせいで、こっちの治りは不完全だけどね」
そう言って、リカルメは右手で自分の服をめくった。
その腹には痛々しい傷痕が残っている。槍に貫かれたような三つの丸い傷痕が。
俺はそんな傷をつけた覚えはない。俺が気絶した後につけられた傷だろうか。
待てよ、こいつ今俺に半分飲ませたと言ったか?
いったい、なんでそんなことを……。
「話をしましょう。あんただって、私に言いたいことの一つや二つあるでしょう?」
◇
俺が意識を失ってから今に至るまでのいきさつをリカルメは語り出した。
この地下遺跡にはミスト・モスという毒を撒く蛾がいて、俺はその毒で死にかけていたらしい。
形勢逆転したリカルメだったが、その後パラスに不意を突かれ腹部を損傷する。
おまけに出口と廊下を瓦礫で塞がれてしまい、一人で脱出するのは困難になったため俺を復活させたということらしい。なるほど、理に適っている。
「で、それでもまだ私を殺す気? どうしてもって言うんだったら相手になるけど」
「…………」
こいつに借りを作ってしまったのは事実だ。しかし、話を聞く限り善意で俺を助けたわけじゃない。素直にこのまま手を貸せば、俺が悪に加担するのと同義じゃないか?
……そんなことはウルズの泉まで同行する件でも同じことが言える。俺が気にしてるのはそんなことじゃないだろ。
霧果の十字架も背負えないこいつを、許せないんだろ俺は。
こいつが擬態のため霧果を喰ったのは紛れもない事実なんだ。ユリ博士が手に入れた資料の中には監視カメラの映像もある。その映像では霧果の姿からリカルメ・バイヤードに変態する瞬間が収まっていたのだ。
それなのに、こいつは東条ミカ以外の人間は食べたことが無いとぬかしている。認めればいいというわけじゃないが、適当に誤魔化されることはさらに腹が立つ。
「答えを出す前にユリ博士にも立ち会いしてもらいたい。レ―ヴァフォンを返せ」
「いいけど……武器に変形したりしないわよね?」
「武器には変形しない。偵察用ドローンには変形するだけだ」
「なにその無駄機能……」
訝しみながらもリカルメはレ―ヴァフォンを俺に差し出した。
リカルメからレ―ヴァフォンを奪い取る。強引に取り戻したものだから少しムッとされたが無視だ無視。
そのまま1分が経過した。
「ねえ、電話かけるんじゃないの?」
「こっちからは繋がらないからな。ユリ博士がかけてくるのを待ってるんだ」
「えぇ……、めんどくさ」
と、リカルメに呆れられた時、レーヴァフォンに着信が入った。ビデオ通話モードにして起動する。
『戌亥くん!? 大丈夫か!? 強制変身解除だなんて何があったんだ!?』
画面に慌てふためくユリ博士の姿が映った。いつもの冷静な態度を失うと、身長もあいまって本当に小中学生のように見える。
年上の教授のはずなんだが、その様子が少し愛らしくみえて緊張の糸が少しほぐれた。
「なんとか無事だよ。変身前に毒を吸ってたみたいだ。もう回復したから問題はない」
『そうだったのか……。生きているということはリカルメからは逃げられたようだな。よし、ここから反逆開始と行こうか!』
「ハロー、ここにそのリカルメ様がいるわよー」
レ―ヴァフォンをひっくり返してリカルメの姿をカメラに収める。
『うわぁっ、リカルメ!? 戌亥君! すぐに変身しろ! 今ここで君を失うわけにはいかない!』
「いや、それがリカルメにレイバックルとディスクを奪われてて……」
『はぁ!?』
ことの顛末をユリ博士に説明する。
画面越しに絶望したような表情を見せる。
『なるほど。状況は理解した。だが、この地下を抜けた後はどうするつもりだ? 地上で決着をつけ直すということか?』
「どちらにせよ私が充電しないとレヴァンテインは戦えないのよ? 今まで通り旅を続ければいいじゃない」
「それはダメだ。俺は既にグランレンドと協力関係を結んでいる。今さら裏切ることはできない」
「オクシオンと私の何が違うのよ! あいつだって私と同じ四天王の一人よ! 殺した人間の数ならあいつの方が上なんだから!」
「そ、それは……」
リカルメは人を殺してきた化け物だから殺さなくてはいけない。
だが、それを言うならオクシオンも条件は同じだ。バイヤードではなくなったからといって今までの罪が消えるわけじゃない。
人々の自由を守るため変身しているのならまだしも、あいつが変身する理由は単なる私怨だ。
放っておけば奴はどんどんバイヤードを駆除していくだろうが、目的であるゼドリーが死んだ後、奴がどういう行動に出るかはわからない。
最悪、グランレンドがこの世界を支配する暴君になる恐れもある。
長い目で見れば危険度はリカルメよりはるかに上だ。
だが、それでもあの件の決着がつくまで、俺はリカルメと手を組むことなんてできない。
「もしかして、妹がどうとかって気にしてるの?」
俺の沈黙が煩わしく思ったのか、リカルメはイラつきを含んだ口調で問いただしてくる。
「なにを勘違いしてるのか知らないけど、私本当にあんたの妹なんか食べてないから! そういう変な因縁つけるのやめてよね!」
「勘違い……だと……?」
こいつ、こんな状況になってもそんなことを……!
「なによその目。それともなに? 私が食べたっていう証拠でもあるわけ?」
「証拠……? ああ、いくらでもあるさ。ユリ博士、頼む」
『ドクターリリィだ。ちょっと待ってろ……』
画面の向こうでユリ博士がキーボードを叩くと、レ―ヴァフォンに映像が添付された。
俺はリカルメの目の前で再生ボタンを押す。
表示されたのは地下の駐車場。手前には一人の女性、奥には桜色のロングヘアを揺らす少女が映っていた。
これは、失踪直後の霧果の姿だ。しかしこれはすでに霧果ではない。
音声は無いが、少女が何か短く呟いた。すると、少女は紅い稲妻を放出して全身に纏う。
少女の人影が醜く歪み、見慣れた化け物の姿が出てきた。リカルメだ。
リカルメは触手で女を絡めとると、抵抗させる間もなく膨大な電気を流して感電死させた。その後、稲妻を纏った触手を振り回し、周囲の車を爆破させている。触手の一本がカメラに激突したところで、映像は途切れた。
「お前はさっきこう言った『私は東条ミカ以外に擬態したことなんてない』ってな。じゃあこの人間態はなんだ? まさか東条ミカの髪を染めたなんて言い訳が通用するとか思ってないだろうな」
「……これは、誰かに擬態したわけじゃないわよ」
「お前……!」
「聞いて! これは、私が生まれた時から持っていた元の人間態よ! 誰かを食べたわけじゃない!」
「なに……?」
元から持っていた人間態?
なにを言ってるんだ? バイヤードは人間を食べることでその人物に擬態する生物のはずだろ。
「私たちバイヤードは生まれつき二つの身体を持ってるの。それが怪人態と人間態。たぶん、あんたの妹と私の元人間態が瓜二つだったんじゃないかしら?」
「よくもまあ、そんなバレバレの嘘を思いつくもんだ。お前らみたいな化け物が、最初から人の姿をしているわけないだろうが!」
『いや、リカルメの言っていることは本当だ』
「……え?」
予想外な言葉が聞こえ思わずスマホを凝視する。そこにはいつものように冷静な態度で俺をなだめるユリ博士の姿があった。
『戦闘にはあまり関係が無いため、あえて教えることは無かった。捕食による擬態はそれより以前の人間態を上書きするための行為であり、ベースとなる元の人間態が必要となる』
「い、いや待てよ。じゃあ、リカルメの言う通り、あの姿は本当に他人の空似だって言うのか!?」
『それについては少し検証の余地がある。リカルメ君』
「なによ」
『本当にあの姿は擬態ではないんだな? 本当は二回以上擬態しているにも関わらず、嘘をついているということは無いな?』
「しつこいわね! 今ベルトもディスクも私が奪ってるのにそんな嘘吐く意味がないでしょ!」
『なるほど、そうか……』
ユリ博士がため息をつき思案する。
やがて、なにか答えを導き出したのか、俺に再び指令を与えた。
『戌亥君。ここはリカルメ君と同盟を結びたまえ。レイバックルが無ければ元も子もない』
まあ、現実的に考えればそうなるか。
俺が判断を渋っていたのも、それこそ私怨によるものだ。客観的にみれば、これ以外に選択肢はないのだ。
そうやって、無理やり自分を納得させようとした時、ユリ博士の口から信じられない言葉が飛び出してくる。
『それと、グランレンドからリカルメ君を何が何でも守り抜け。できれば今日中にここから遠く離れた町まで逃げるんだ!』
「「……は?」」
その指令はすぐに飲み込むことはできなかった。





