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サルマの夫

「申し訳ありません。どうかお怒りにならないで下さい」


「別にどうってことないよ、全然」



作家は疲れてしまって、口調を繕えなくなっていた。

ペンタもぐったりして、椅子の背もたれにもたれかかっている。



「以前はサルマも思いやりのある人だったのです。

しかし、あの日から別人のように変わってしまいました」


「あの日って?」


「それをお話しするには、まずこの国を統治する王の話をしなければなりません。

賢者様はその限りではないでしょうが、私たち農民であるペルナの民は、王により苦しめられています。

王は豊作の時はより多く、凶作の時も民をかえりみることなく、税を取り立てました。

そして、ついに凶作の年のある日、この村からは一切の食料が無くなり、人々は餓えに苦しみました」



よどんだ空気が一段と息苦しさを増して、聞いてる作家達まで生気を奪われていくようだった。

しかし、話の方は悲惨さを増していく。



「村の民達は話し合い、目に陰湿な光を宿らせながら話しをまとめました。

他に手もなく、村人達はトトを犠牲にすることにしたのです」


「トトってなんだ?」


「この村の民が可愛がっていた動物です。

普通は食用に飼われている生き物なのですが、ペルナの民は村ぐるみでこの生き物を可愛がっていました。

我が家にも部屋の中で飼っていたトトがいましたよ。

私には少しもなつきませんでしたが」


「じゃあ、そのトトを食べちゃったの?」


「ええ」



ペンタの問いかけに、サルマの夫は少し気まずそうにした。

だが、深い罪悪感を感じているというほどの様子ではなかった。



「その日から、サルマや他の村の民も人が変わったようになり、家事も仕事も怠けるようになりました。

子供までその様子を見て、暗くなる一方です」


「なんだか、アンタは他人事みたいな話し方をするな」


「まぁ……それも仕方ないでしょう。

私は遠くの村からの婿養子ですから。

いまだに村人の集会にも出させてもらっていませんし」



ペンタが小声で婿養子について聞いてきたが、そっと黙らせて、作家はサルマの夫に言った。



「ずいぶん面倒な村なんだな。

よく我慢できるね」


「娘達が可愛いので、それでなんとかやり過ごしています。

しかし、いい加減娘を連れて出ていきたくもなりますね。

もう二年もこの状態なので……」


「二年!」



作家はあからさまに嫌な顔をしてみせたので、逆にサルマの夫はほっとしたようだった。

そして夫は、サルマや村人達への不満を少しずつ漏らしはじめて、サルマに聞かれていないかこっちが不安になるほど、勢いよく話し続けた。

だが、そのおかげで作家と夫は打ち解けて、お互いの悩みを言い合った。

ペンタは気がつくと寝ていたので、彼が寝室まで運び、作家にもベッドをすすめた。



「おやすみなさい。また明日話しましょう」


「ああ、また明日」



ペンタの寝息を聞きながら、作家は布団を被ってすぐに寝てしまった。

今日は目一杯まで疲れたので、無理もない。

まどろむ作家の目に浮かぶのは、いつものように笑う妻の姿だった。

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