流星とプロポーズ
馬車はぱからっぱからっ、っと順調に帰路を進めていく。
途中途中盗賊やモンスターもでるけれど、俺にサフィ、エリザと過剰なまでに戦力はあるので、全く問題にならない。
問題になるとすれば、襲われる数が多いほど足が止まるので帰るのが遅れるということだろうか。
まぁ、行くときも似たようなものだったし、もう慣れた。
もう何回目かもわからないけれど、またも野宿だ。
野宿で材料の限られているのに、今日もサツキの料理は美味かった。
なんとなくサツキと目があった。
はにかみながら、小さく手を振ってきた。
くっそかわいいんですけどおおおおおお!!
なんであんなにかわいいんだろうか。
かわいすぎてたまらんっ。今すぐ襲いたいぐらいだ。野外な上に周りに知り合いも多いので自重するが。
おーけー、落ち着け俺。冷静になれ。
俺も手を振り返した。
サツキもなんか照れてないか?暗がりと焚き火でよくは見えないけれど、顔が赤い気がする。
なんていうか、幸せが絶頂だ。
「幸せそうでありんすなあ、ぬし様や」
サフィが不意に話しかけてくる。
「そんなに幸せそうに見えるか?」
「えぇ、顔が常ににやけているでありんすよ」
うおっ、と思い顔をぺたぺたと触ってみせる。
そんなことをしなくても、自分でも分かっているんだけどな。
「聖女に飽きたら、いつでも抱いていいでありんすよ?」
いきなりぶっこんでくるサフィに、呆れつつもこう返した。
「そんなことにはならねぇから、安心しろよエロドラゴン」
「いけずでありんすなぁ」
そんな風にグダグダと、話しながら食事をとった。
深夜。
不意に襲われる危険を考慮して、行く時と同じく交替で見張りをしている。
と言っても、馬車の屋根の上で寝っ転がっているだけなんだけどな。
半分寝そうになりかけていると、下から声が聞こえる気がする。
寝ぼけ眼で覗いてみれば、サツキが上を見上げていた。
「ケイ、手、かしてっ」
「お、おう」
急に言われてびっくりはしたが、こっちに来たいのだろうと思って、手を差し伸べた。サツキの手を掴むと、そのまま引き上げる。
引き上げて、そのまま抱きしめてみる。
「え、ちょっと」
と言いつつも、どこか嬉しそうなサツキ。
俺はサツキを抱きしめたまま寝転んだ。腕枕でサツキもそのまま寝転がる。
「もう、いきなりはやめてってば」
「ごめん、悪かった」
とりあえず謝っておく。これといった反省はしていないが。
サツキにもそれはバレているようで、ぷぅっと頬を膨らませている。そんな仕草さえ、愛おしい。
しばらく抱き合ったままでいると、何か諦めたように、サツキがため息をついた。
「ケイは、なんか変わらないね」
「そうか?」
自分では結構変わったように思うけれど。剣を振ってから筋肉だってついたし、背も少し伸びたはずだ。
「強引なところとか、私の言うこと聞いてくれないとことか、変わらないよ」
「ん、それは、悪い」
そんなにサツキの言うこと聞いてなかっただろうか。……確かに聞かないことの方が多い気がする。
強引なのも、あるな。うん。
「でも、そんなところも含めて、好きなんだけどね」
サツキは顔を隠すように、ギュッと抱きついてそう言った。きっと顔を赤くしているだろう。
そんなサツキの顔が見たくて、俺はサツキを少し離してみる。
「……そういうところが、強引なんだってば」
やっぱりサツキは顔を赤くしていた。
俺はそんなサツキに、顔を近づけて、そのままキスをした。
サツキはびっくりしたように身体を震わせたが、すぐに受け入れた。
「……悪いな。でも、止められないんだ」
「もう……」
それ以上は会話は続けなかった。
何回かキスした後に、抱きついたままぼーっと空を見て、星を見ていた。
キラリと、一筋の光が空に消えていく。
「……流星だったな」
ふと見れば、サツキは祈るように、手を組み合わせていた。
俺もなにか祈っておけばよかったと思う。
「何を祈ってたんだ?」
「秘密」
なんとなくわかるような気がするけれど、俺は黙っておいた。
ついでに気になったことも聞いておく。
「帰る前に、クラウディアに何か言われてたのは、あれはなんだったんだ?」
聞いた途端に、サツキの顔がみるみる赤く染まっていく。
しばらく沈黙した後に、サツキは口を開いた。
「……結婚式には呼んでくれ、って」
なるほど、と思ってしまった。
結婚か。普通だったら、付き合ってすぐとかありえないけれど、それもいい気がするな。どうせ手放す気なんて無いのだし。
そう思うと、すぐに言葉が出てきた。
「じゃあ、結婚、するか」
「…………ほぇ?」
「ほぇ?じゃなくて、結婚しようかって、そう言ったんだよ。今は指輪も何もないけれどな」
「ちょ、えええ!?」
驚きすぎじゃないかな、まったく。
サツキは俺にしがみついたまま、わたわたとしている。そんな彼女も愛おしくて。
「俺と結婚するの、嫌か?」
「ううん!嫌じゃない、すごく、嬉しい」
「あ、でもあれか。こんなグダグダなのは違うな」
そう思うと、俺は起き上がり、サツキの前に座った。
サツキも、身体を起こして座り直した。
「よし、じゃあ改めて。早川皐月さん。俺と結婚してください」
そう言って俺は手を差し伸べた。
サツキは目を潤ませて、手を握り返した。
「はいっ。こちらこそ、よろしくお願いします」




