英雄と戦闘開始
王城の1番上、王都を一望できる屋上のような場所。
そこに俺とサツキ、エリザとおっさんはいた。
俺とおっさんは望遠鏡で進撃するドラゴンを見ている。
サツキはエリザに抱きつき、怯えた様子だ。
「ワイバーンにランドドラゴン、小さいドラゴンばかりだが、数が多いな。こりゃあ只じゃ済まないだろうなぁ」
「言ってる場合かっての」
「前みたいに、英雄が現れてくれたらいいんだけどな」
「血塗れの英雄か?……あの時血が口の中に入って、それがまた不味かったんだよな」
俺はおっさんと軽口を叩きあった。
以前ドラゴンと戦った時は、不意打ちの一撃で倒したのだが、その時にドップリと血を浴びた。
すぐに息を止めたが、ちょっと口の中に入ったことを思い出した。
すぐに水で流したが、一部の騎士から、血塗れの英雄だと言われたこともあった。おっさんもその光景を見てたしな。
「それで、おっさんはどうする?」
ドラゴンの数は100を超えて、まだままいる。小さい、子どものドラゴンだが、それでも2mぐらいはある。十二分に驚異的だ。
俺はおっさんの指示を仰ぐ。
おっさんはすぐに答えた。
「すでに行っているが、まずは住人の避難だな。王城と礼拝堂になるべく収容するように、騎士団に誘導させている。エリザ、お前も街の住人の避難に当たってくれ」
「エリザ、サツキを頼むな。俺はドラゴン共を討つ」
「御意に。サツキちゃん、行きましょう」
サツキはエリザに連れられる前に、俺に向かって走り出し、ぎゅっと抱き着いた。
「ケイ、行くの?」
「あぁ、行くよ。……これでも英雄と呼ばれているんだ。それに、あのままだと、たくさんの人が、サツキも死ぬかもしれない」
あの数のドラゴンが王都に突撃すれば、間違いなく大勢の人間が死ぬ。
サツキも、無事では済まなくなる。
そうなる前に、王都に入る前に、全て殺す。
「ケイ、死なないでよ。ケイが死んだら、私は」
「……お前、かわいいな」
「はぁ!?」
サツキは顔を真っ赤にして慌てた。
うん、かわいい。
声に出して、はっきりと言ったのは初めてかもしれない。
俺はサツキを抱きしめ返す。
「いや、本当に、かわいいなって」
「何バカなこと言ってんのさ!さっさと行って帰ってきて、私を安心させろ!」
「ははっ、こりゃあ、死ねないな」
サツキはばたばたと暴れて、俺から離れていった。
俺は笑った。
これから、100を超えるドラゴンの軍団と戦うというのに。
なんだか、なんでもできそうだ。前にドラゴンと戦った時よりも、勇気が湧いてくる。
「サツキちゃん、行きましょう。礼拝堂の方が魔法使いの結界が強固なのでそちらに」
「ケイ、無事でね」
「ああ。エリザ、サツキを頼んだ」
「任されましたわ」
サツキとエリザはその場を後にした。
残ったのは俺とおっさん。
「ケイ、今ならあの娘と、逃げてもいいんだぞ?」
「おっさん?」
「英雄英雄と呼ばれているが、それは別に強要じゃない。王としては、その力を振るってほしいが、年配者としては、若い少年に、そこまでの重荷を背をわせるべきではないと思ってな」
「思ってもないことをべらべらと」
俺はおっさんの考えを読んだ。
あーいうそれっぽいことを言って、こっちの使命感とかを煽っているのだ。
「俺は、この街にサツキがいるから、奴らを殺す。それだけだ」
「そうか」
おっさんは短く言った。
それよりもだ。
「問題は、あの奥のやつだな」
「そうだな。あれは、ケイに相手をしてもらわないとな」
先程望遠鏡で覗いた、ドラゴン達のさらに奥。青い鱗の、ひと回りもふた回りも大きなドラゴンがそこにいた。
そのドラゴンは、街から程遠くない場所に鎮座して、すべての様子を伺うようにして動かない。
それだけに、余計に不気味だった。
「でもとりあえずは、街にドラゴンが入るのを食い止める。魔法使いも、騎士団も展開してるんだろ?」
「あぁ、街にいる腕利きの冒険者にも声をかけている。単純に、多くのドラゴンを屠ればいい」
「やることが簡単だな」
「それだけに、難しいな」
いかんせん数が多いからな。
厳しい戦いになりそうだった。
「そろそろいくわ」
「ああ。ケイ、私からも言っておく。死ぬなよ」
「あんまり行ってくれるな、フラグが立ちそうだ」
俺は、そう言って、城から飛び降りた。
壁伝いに減速して、着地してから、街を駆けていく。
しばらく走り、王都の門を越えれば、ドラゴン共はもうすぐそこにいる。
「さぁ、これでもドラゴン倒して英雄なんて呼ばれてるんだ。てめぇら如きに引けを取るかよ!」
俺は剣を抜き、ドラゴンの群れに突っ込んでいった。
ちょっと短くなりましたが、ここが区切りだったので。
ブクマ、評価、感想、いつもありがとうございます。
 




