一つの案
さて、俺はサンタ試験などという試験の詳しい事を何一つ知らない。どんな試験内容なのか、どこで試験がおこなわれるのか、試験の合格基準はどれくらいなのか、基本的に試験を受ける上で把握しておいた方が良い事項が全く頭に入ってない。知っている情報と言えば、筆記と面接と実技試験で構成されるってとこか。せめて国谷に順番くらい聞いておくべきだった、あとで電話なりメールなりしよう。
忍者において、『情報』は命よりも重要な代物だ。特に今回のような潜入捜査みたいな件は、特に重要性が増す。傾向からの対策などは当たり前。プロなら何人か試験管に仲間を入れておくのが上等手段だ。丸腰で行くなど話にならない。
まあ、俺はもう忍者ではないのだが。
「国谷からも誘われているんだ。サンタ資格試験を受けてみないかって。別に特にサンタになりたいって願望があった訳じゃなかったけど、これで全力で取り組む動機が出来たって物だよ」
「あぁ、もうアプローチを受けていたのか。その話だけど、僕が彼女に『霧隠三太』を試験に誘ってはどうかと誘導しておいたんだよ。こんなに早く話が伝わるとは思わなかったけど、まあ概ね計画通りだな」
何っ、こいつが裏で国谷を操っていたのか。おおよそ予想が着く、自分のせいで俺が忍者の適性試験に落第して責任を感じるように仕向ける。その後に夢を失った俺への救済方法を伝授するかのように、まんまとサンタ資格試験の話の持ち込んだという手順か。俺を雇ったのも、この状況を完成させる為か。そこまで計算してあの展開を作りあげたとしたら、大した奴だ。ただ、国谷に対し友達なんて言葉を吐きながら、完全に自分の作戦に利用している点については気に入らない。
卑怯、卑劣、残忍。これが忍者のあるべき姿だ。主の行った作戦に対し、正当性を疑い目くじらを立てている程度だから、俺は忍者になれなかったのだろう。
「ん? その顔はどうやら何か不満があるようだねぇ。どうやら僕が国谷朝芽との友情を裏切ったとでも思っているだろう」
どうせ、友情を裏切る事の何が悪いとか、まさかあんな友達なんていう下らない信頼関係を信じていたのかいとか、僕は始めから利用する為に彼女を誘き寄せたんだよとか、言われるだろうな。
「僕は悩んでいる彼女に一筋の光を与えただけだよ。君に試験を薦めたのは彼女の良心的な君への純粋な気遣いであって、僕は一つの案を出したに過ぎない。たまたま僕の作戦に合致しただけさ。例え彼女との関わりがなかったとしても、僕は君を試験会場に送り込んでいたしね」
捻くれるどころか、正論化してきやがった。