そんなオカルトを信じてはいない
「世界征服ですよ。世界征服。制覇様のことだから、全人類を跪かせたいとか考えているんじゃないですか?」
「…………」
返事が帰ってこない。答えが浮かばずに考えているのではない。答えは制覇様の頭の中にきちんとあるのだ。ただ……言えないのだろう。
「霧隠三太。この世でもっとも困難なことってなんだと思う?」
それが世界制服だと言いたいのか? もっと不可能なことってあるだろう。瞬間異動とか、超能力とか……いや、魔術が存在するなかで、誰かがこの世界を支配していない時点で、世界制服の方が難易度が高いのかもしれない。
「世界制服……まあ、そんな直接的な言葉を思い浮かべてはいなかったけど、概ね正解だと解釈してくれて結構だよ。そうだ、僕は人間を超越したいんだ。神の領域に達したいって言うのかな」
神の領域か……俺には想像もつかないが。
「想像がつかないのですが……それはどういった超越なのですか?」
そもそも機械工学の申し子が……神なんて、そこの国々にでもいそうな、漠然とした物を提示するなんて。
「僕が思っているのは、一般的な神話などで現れる龍の姿や、巨大化して翼の生えた人間ではない。そもそも僕はそんなオカルトを信じてはいないからね」
それは……それは。本物の魔王に面接試験を受けて、本物の悪魔に命乞いっぽいことをした俺としては……複雑な気分である。そもそも『サンタクロースは魔法使いの亜種だよ』なんて説明を聞いてくれないかもしれない。というか、俺の報告には非現実な内容も含まれていたが、制覇様は信じていなかったのか。美橋及火もとんだ取り越し苦労だな。
「神とか人間が想像した『地位』だ。位は王よりも上。人間の想像した事は全て現実にできる。だから……人間が想像した最高の権力の王座に私は座るべき人間なのだ」
制覇様は目が悪魔の眼に変わった。もちろん比喩表現であるが、その恐ろしい風格は人間じみておらず、彼女の本性を垣間見た瞬間だった。彼女は世界を相手取る悪の支配者になる。制覇様に対抗する正義の組織が立ち上がるか分からないが……幼い悪の帝王の姿を見た。
「その為に、良い子のフリをしてサンタクロースからプレゼントを貰い、今度はサンタクロース御用達の工場の秘密の設計技術を盗もうとしているのですね」
オカルトを信じていない制覇様に、魔力というテーマがどう捉えられるのか、想像もつかない。肌に合わないのならば幸いだが、もしそれを……非現実だと認識しなかったら……。




