表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壁転生 壁になって悩める若者たちを高みの見物  作者: Ridge


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/37

37話 A5

 一方、寮の廊下で一桁台の2人の男が出会った。


「こんばんは、ルシフェ君」

「レナーサ。…こんばんは」


 レナーサは何を考えているか分からない笑顔を向け、ルシフェは苦手意識を感じながらも挨拶を返した。


「聞きましたよ、物を賭けて8位と決闘したとか」

「別にいいだろ?」

「人が悪いですね。僕たちが下の順位の人と戦えば勝つに決まっているじゃないですか。弱い者いじめは感心しませんね」

「そんなの分からない。10回やれば1回くらい勝つかもしれない。そんなまぐれ勝ち、すぐに順位を取り戻せるがな」


 ルシフェは立ち去ろうと歩き出し、レナーサは壁に手を当てて遮った。


「あまり品位を下げるようなことはしないでいただきたいものですね。僕らは上位陣として目立つのですから」

「折角の決闘システムなのにお前は使わないつもりか?」

「そんな簡単に使える立場にありませんよ」


 レナーサは壁から手を離し、肩をすくめて両手を上げた。


「まあ今回は大したことじゃないからいいですが、念のために釘を刺しに来ました」

「窮屈なこった。…気を付けますよ」


 ルシフェは再び横を抜けて立ち去り、レナーサは腕を組んで彼の後ろ姿を見た後、腕を下ろして部屋に歩いて行った。



 シュロンの部屋では要件を終えて気の抜けた空気が漂っていた。


「それにしてもシロちゃんが読書家になるとはな。もしかしてザーク先輩の影響?」

「え?何でザーク先輩?」

「だってあの人もフィクション好きだろ?順位も近くて交流があってフィクション好きの影響受けて本を読むようになったのかなと」

「違うよ?悪いけどあの人ととは趣味が合わないな…。あの人は派手な演技性ケンランが好きだろ?あたしはもっと繊細な方が好きだし、自分のペースで読める本の方が好きだな。競技性ケンランの試合は1本5分くらいで終わるから好きだけど、演技性ケンランは劇含めて90分くらいで長くて疲れる」


 競技性ケンランの試合は1本5分くらいで終わり、試合と試合の合間に解説タイムや選手交代の時間があり、視聴の緩急をつけやすい。総合すると演技性ケンランと同じく90分程度となるが、集中すべきところと息を抜くところが明白で、シュロンのようなタイプはこちらの方が疲れず観戦できる。


「それにあたしには舞台の演技が苦手で…。わざとらしいのが見てて恥ずかしくなる。そりゃ、カメラの前と違って皆に伝わるように大ぶりにしなきゃいけないのは分かるけど」

「上手い人は演技だと感じさせないよ」

「そういう人もいるけどねえ。それで思ったけど、演技と感じさせないほど演技が上手い人を演技が上手いと言っていいのかどうか?それって演技だと分かっているってことにならない?パラドックスってやつ」


 シュロンはとっさに思いついた疑問を尋ねた。知的で好奇心旺盛な彼女らしい。


「でもそう表現する他無いだろう。見ている時は演技と感じなかったが、終わった後のカーテンコールでこれは劇だと思い出して、上手い演技だったとその時になってやっと認識できたのなら矛盾はしない」

「成程。ベンはちゃんと考えて答えてくれて嬉しい。知性が低い相手だと何言ってんのギャハハで終わりだからつまらないから」

「苦労してんな」

「大したことじゃないよ」


 とにかくザーク先輩は関係無さそうだな。早とちりだったか。


「じゃあいつから本読むようになったんだ?」

「あたしが本を読むようになったのは中学一年生の時。あの頃読書を習慣づけようという教育の一環で読書タイムがあったんだけど、そこで面白いと感じて読むようになったんだ」

「そんな前からか…」


 この学園で再会するまでに10年以上あったから色々あるよな。成程な。


「ベン、あのさ…」

「ん?」

「ザーク先輩のこと言い出すから思い出したんだけど…」


 シュロンは歯切れが悪くなり、目を逸らしながら何度もチラリとリベンの顔色を窺い始めた。


「何を?」

「ほら、あの人は憂いを帯びた表情しているじゃん?父親が行方不明になったらしくてその影響で…」

「そうだったのか…」

「憂いを帯びた表情というのはベンにも言えることで…。その、ベンは家庭の事情を探らないでくれと言ったけど、もし何か悩みがあるなら、あたしもクロも力になるから」

「……」

「もちろん勝手に探るようなことはしない。ベンが話してくれるまで待つ。あたしたちはただ力になりたいだけ。大事な友達には幸せになって欲しいから」


 確かに母の死後、表情に影があると言われる。


「心配してくれてありがとう。でももう大丈夫だ。暗くなったのは母が死んだから。でももう過去の出来事で時間が経てば解決するから」


 リベンは手を伸ばしてシュロンの頭をポンと優しく叩いた。

 本当は母の復讐を引き継いでいて現在進行形で、忘れることができずに心の中にあり続けている。だがこれを明かすことはできない。


「……」


 シュロンは思うところのある顔をしたが、一応頷いた。賢い彼女には嘘だと分かっていても、理由があって嘘をついているのだからこれ以上触れてはいけないことだと感じ取った。


「もしも、もっと話したくなったら言って」

「ああ。その時にな」


 その後、2人は黙って気まずい空気が流れた。

 次に口を開いたのはシュロンだった。


「今回の決闘相手、ルシフェ先輩だったから良かった」

「どういうことだ?」

「3位のエファヤ先輩に気を付けて。あの人は狂信者だから」


 エファヤ・ライス。競技性選手コース3年の男子生徒。とても信心深い人というのはうわさで聞いている。


「全然見かけないな」

「あの人は留学して来ているけど、寮ではなく同じ宗教の仲間たちの集合住宅から通ってるから、校舎で会わないなら遭遇すること少ないかもね」

「それでか」

「変な勧誘されないように気を付けて。なまじ3位と強いのが厄介。その上にレナーサ先輩がいるからまだ大人しくしているけど、あの人も何考えているのかよく分からなくて不気味…」


 レナーサ・ベルエルク。競技性選手コース3年の男子生徒。既にプロチームから内定が出ているという学園屈指の実力者。


「分かった。気を付けるよ」

「うん。まあ気を付けるところは気を付けて、楽しむところは楽しんで学園生活を楽しもうね」

「ああ」


 話しているうちに表情が明るくなり、2人の空気は朗らかなものに戻った。

 気まずい空気も無くなったし、用事も終わったし、もう帰るか。


「さてと、そろそろ帰るよ」

「ちょっと待って、先に外見てくるから」


 リベンは立ち上がり、シュロンも立ち上がって待つように手で示した。


「慣れたものだな」

「ん?…あっ、ベンは誤解してるよ!男子を部屋に入れるのは今回が初めて」


 シュロンは言っていて恥ずかしくなって頬を赤らめ、向こうを向いた。


「そうなのか?」

「そうだよ。方法だって友達から聞いて知ってただけだから」

「そうなんだ」

「ほらドア開けるから静かに」


 リベンは口を閉じ、シュロンは扉を開けて廊下に出て周囲を見渡し、誰もいないことを確認して手招きした。リベンはそっと部屋を出て


「じゃあね」


 シュロンは小声で言い、リベンは黙って頷き、速足で廊下を抜けて共有部の廊下に着くと一息ついた。振り返ると既に廊下にはシュロンの姿は見えなかった。

 ここで見送っているところを見られたら不味いからもう部屋に戻ったか。

 そしてリベン落ち着いて歩いて自分の部屋に戻り、ベッドに仰向けになった。


「ふぅ…」


 緊張した。復讐計画というもっと危険な橋を渡ろうとしているのにこの程度のことで緊張してどうする。それにしてもシロちゃんには気にかけてもらって、与えられてばかりだな。少しは貰ったものを返せるようにしたい。

 リベンはシュロンに何も返さないまま母の復讐を始めて、失敗して死に、返せないで終わるのは嫌で、復讐を更に先延ばしにしようと無意識に考えていった。

1週か2週ほど連載はお休みします。続きはその後で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ