仲間がいないなら奴隷を買えばいいじゃない
──冒険者酒場
「な、なんで私には仲間がいないんだ~~~……ッ!!!!!」
私ことセレマイア・アンブローズはひとりで大酒を飲み、酔っ払いながら泣いていた。
「う、うぅぅぅ……」
原因は分かりきっている。
私は前世から陰キャ処女コミュ障で彼氏は疎か友達すら一人もできた試しがなかった。
前世でいきなり死んだ後に私は聖女として転生した。
だから薔薇色の貴族学園生活が待っていると思っていた……のに……。
人間の性根は一度死んだくらいでは変わらないらしく私は学園で壮絶ないじめを受けてすぐに逃げ出してしまった。
そして現在……私は冒険者に転職してソロでSランクまで上り詰めている。
でもその過程で友達ができることは一度なかった。
「ひっぐ……ぐすん……」
「ご、ゴクゴク……」
私はもう何十杯目になるか分からないジョッキを一気に空にした。
今年の年末以降、私が活動しているノーマジグライ帝国ではSランク冒険者の条件にパーティを組んでいることが追加されるらしい。
もちろんソロでSランク冒険者をやっている人間なんて私以外にいないので、それは実質的に私をSランク冒険者から下ろすための施策にしか思えなかった。
本当は色々な大人の事情が絡んでいるんだろうけど、そんな事情は人脈が一切ない私からしたら知り得るはずもない。
「もう終わりだ……」
「明日死のう……」
「へいへい、そこのおねーさん」
なんだ?
鈴の鳴るような高い声が聞こえた。
声の元に目を向けると、そこにはサラサラの長い金髪をした小さな女の子が立っていた。
「んえ……?」
「ダメじゃないかぁ……小さい子がこんなとこいたら……」
私は酔っ払いすぎて幻覚が見えたのかと思ったが、いくら凝視しても女の子は立っている。
「おねーさん、仲間がほしいの?」
「んぐ……ほ、ほしい!」
「じゃあ私がいいところ紹介してあげよっか」
「な、なんだって?」
なんだこの子は……。
「はっ……!」
「あんまり大人をからかうもんじゃないぞ~」
「こーこ、行ってみて」
金髪の小さな子は私の注意も聞かずに紙切れを押し付けてきた。
「なんだぁ……?」
良く見ると、どこかの住所が書いてあるようだ。
「きみぃ……なんだって言う……あれ?」
私が視線を紙切れに移すと小さな女の子は、いつの間にか姿を消していた。
──暗黒街
「おいおい……」
紙切れに書いてあった住所は暗黒街の一画にある地下を示していた。
悪漢やマフィアなんかがゾロゾロ歩いているものの、私の顔は割れているみたいで、そんな荒くれ者たちですら近寄ってこなかった。
うぅ……寂しい……悪党でさえ相手にしてくれない……。
「これ、なんかの罠なんだろうな……」
だけど、ここ最近はそういう罠にハメてくれようとする相手さえもいなかったので私は少し期待に胸を膨らませていた。
そうして私が厳重なセキュリティ(そいつらも私を避けていた)で固められた地下に入っていくと豪奢な服や宝飾品で身を包んだ貴族で溢れる空間が広がっていた。
「うえぇぇ……」
「ここって、まさか……」
「これはこれはセレマイア様」
「ようこそいらっしゃいました」
チャイナドレスみたいなのを着た女が、まるで知り合いのように話しかけてきた。
全然知らない人だけどね。
「お席はあちらでございます」
これは……たぶん奴隷オークションだ。
確かに奴隷を買えば孤独じゃなくなるんだろうけどさぁ……。
私がほしいのは自然にできた友達なの……!
でも案内人が笑顔で応じてくれたのが嬉しくって私は流されるがままに席に座っていた。
「それでは、ごゆっくり……」
なんで個室なんだ……。
前世の映画とかで見た記憶がある……。
美女が売買されるシーンだ。
あれ?
個室のガラス越しには踊り子みたいな服に身を包んだ女性が立っていた。
「あわわわわわ……」
「これって性奴隷オークションじゃんか~っ!」
私がびっくりして腰を抜かしていると女の人はすぐに落札されて長いステージみたいなのを歩いてスタイルの良い人が次々に入ってくる。
まるでパリコレみたいだ……。
私が呆気に取られていると、もう最後の出品?らしく司会の人が場内を盛り上げていた。
貴族学園にいたとか才媛だとか……私は聞き馴染みのある単語が気になってマジックミラー(たぶん)の向こう側をジッと見詰めていた。
すると長い黒髪でスラリとした体つきの私と同年代くらいの女の子が入ってきた。
「あ、あれは……!」
エリサ・ファルナディア。
貴族学園で私をいじめていた主犯格の女の子だった。
「うおおぉぉぉぉぉぉ……!」
「買ったぁ~~~~~ッ!」
私は謎の衝動に駆られて有り金全部はたいてエリサを買ってしまった。