サイドA-27 3人のホクトとギルドの悶着
ホクトはログイン直後に、『多重自我憑依』の能力を利用して、ホクトの人格を割つけた2体のサブキャラをストレージよりだした。
「これはすごい、普通に私だ」
「種族と性別に多少思考や態度引っ張られますが、確かに私ですね」
憑依させたのは、一人はエルフの男性で名前はエギル。
主にドルイド魔法と風魔法が得意で、Lv3000の名前付きSSRキャラ。
もう一人は、おなじくエルフの女性で名前はクリスティーネ。
主に治癒魔法と白魔法、付与魔法が得意で、Lv5000の名前付きURキャラ。
ホクトとしてはエギルをダンジョンマスターとして添える予定である。
「で、どんな感じなんだ。ホクトに入っている時とどう違うんだ」
尋ねるホクトであった。
というのもホクトには、ふたりと感覚を共有は全くできておらず、なにを考えているか予想はできてもまったくわからない。
スキルで割り当てたと知らなければ、自分とは全く別の独立したキャラと同じなのだ。
「さっきもいったけど、自分の中身が北斗であることもサブキャラであることもよく理解している。だけどあんたとおれとは全く異なる個体というのが、正直なところだ」
エギルの言葉にクリスティーネもうなづく。
「エギルの言うとおりね。わたしもこのなかでは完全に女性で、男性の思考は理解はできるけど自分の思考とは思わない。かといってじゃあ北斗とは異なる存在かといわれると、考えていることがまるっきり北斗なのよね。どうやって攻略や生産を発展させようかとか。あと今一番気になるのは、元の世界に戻った時に記憶や感覚は統合されるということだったけど、ほんとに統合できるのかってことよね」
ホクトの思考と似たようなことをふたりが口にしたことで、ホクトも少しほっとする。
「というか、この主軸のホクトというキャラの記憶も、じつはもともと北斗に統合されていたのかもな。現実の北斗とこちらのホクトは同一なようでいて、じつは別物だったりとか」
自分で口にしたホクトであったが、こういう状況になって実はそれがもともとの真実だったような気もしてきた。
「ともあれ、三人が三様でよかった。全く同じ挙動とか同じタイミングでおなじセリフをしゃべったりとかだったら気持ち悪いと思ってたから」
確かにと、三人はみあってわらった。
「で、これからどうするにゃ。うちはダレについていけばいいにゃ」
本日も一緒にログインしているミヤビが三人に問いかけた。
「基本は変わらず僕のパーティとしてついてきてもらう。ふたりは悪いけどまた僕のストレージにはいってもらう。今の優先はファーラーン・ダンジョンのダンジョンマスター登録、エギルを割り当てる予定なんだけど、4人でぞろぞろ行くと悪目立ちするんで、今まで通り僕とミヤビの二人でうごく。ミヤビだけでもギルド内で目立っているのに、これ以上は目立ちたくないからね」
ホクトの言葉に、ミヤビが少し嫌な顔をした。
「あれはうちが悪いわけじゃないにゃ。あっちがかってに勧誘してきて、自滅しただけにゃ」
ミヤビは先週のギルド内でのひと悶着のことを思い出して、苦い顔になった。
それは前回ギルドに買取を追加でお願いしに行った時のことである。
もともとホクトとミヤビの戦利品すべてを一気に買い取る事ができていないギルドに対して、ふたりは間隔をあけて買取の相談に行くようになっていた。
ギルドは自転車操業的になりながらも、ホクトたちから買ったものを転売してそれで得た金でまたホクトたちから素材を買い取ることで、少しずつではあるが資金が増えており、ホクトたちの買い取ってもらえる量も少しづつであるが増えている。
その買取相談にギルドを訪れた場で、他の冒険者がミヤビに声をかけてきたのだ。
「ミヤビちゃんよ、俺の名は知っていると思うがガスト。B級パーティ『紅の銀狼』のリーダーだ。そんなヘロヘロ野郎とのパーティなんざやめて、俺のところに入りな」
と、上から目線での勧誘が唐突にはじまった。
『紅の銀狼』は、この辺境のファーラーン村では珍しいB級ランクパーティで、数年前からここを拠点としていた。
剣士二人、タンク一人、ヒーラー一人に魔法使い二人のバランスの良いパーティで、まだファーラーン・ダンジョンをクリアしていないとはいえ、魔獣討伐に対してはそこそこの成績をあげていた。
ホクトの記憶でも知っている知識で、たしかB級パーティに昇格したのもこのファーラーン村だったと思う。
「却下にゃ」
ミヤビは、相手をするまでもないといった感じで、そちらを見ずに即決で回答した。
ダンジョンを見つけただけでなく、森をあっというまに切り開いたことやダンジョンを二人で周回でしてクリアし続けていること、素材を山のようにギルドに収めていることなどで、ホクトとミヤビはD級パーティながらあっという間に有名人になっていた。
登録初心者が数年は絶対に必要なD級パーティにいきなり昇格したことだけでも、二人の名前をひろめていた。
なのでギルドを訪れるたびに、おこぼれにあずかりたいものや、純粋にあこがれてくれる者など理由は様々だが、パーティ参加希望者や同じランクのパーティの合流希望など、ひっきりなしに声かけがされていた。
その対象は、主にミヤビに対しての場合が多く、ホクトはどちらかというとおまけ的な感じて見られていた。
まあ実際にホクトの実力を肌で感じているのは、ギルドマスター・ケビンを含めたギルド職員だけで、ほかはそのほとんどが功績はすべてミヤビのおかげと思っており、そしてその状況をホクト自身も許容しているというか楽しんでいてアピールしないので、よけいにミヤビが目立っている。
勧誘のどれもが、ミヤビがここら辺では珍しい猫人のせいか丁寧なものが多かったので、ミヤビの態度もそっけないのは否めないがそれなりにその気も予定もない旨の対応はしていたのだが、今回のように横柄な勧誘は初めてだったせいか、ミヤビの態度もいつにもましてそっけなかった。
『紅の銀狼』のガストは断られることを全く予想していなかったらしく、同じく不敵に笑っていた後ろに控えるパーティメンバー全員の思考が一瞬停止した顔をする。
「ああ、聞き違いか?断られたような気がしたが、そんなわけねえよな」
「あ、あたりまえじゃない。D級がB級の誘いを断る?ありえないわ」
パーティメンバーに同意をもとめ、それにこたえるかのように口元をベールで羽織った魔法使いらしき派手な化粧の女性が答えた。
そんな彼らの感想とは別に、一言であとは無視して進もうとするミヤビに焦ったのか、行く手を遮るようにガストが前に出た。
「おいおい、ずいぶんと横柄な態度だな。まぐれでダンジョンを制覇したかも知んねーが、というかなにか禁じ手でもつかったとは思うが、仮にもB級の俺様が誘っているんだそ。ここはお願いしますの一言に尽きるだろーが」
が、ミヤビは一切もくれずさっとよけて進んだ。
「あのさ、本人にその意思がないんだから、あきらめたら」
あきれたようにホクトがガストに声をかけた。
ホクトもしゃべりたくはなかったが、こういう手合いは自分が否定されるとしつこく付きまとうことがわかっているので、取りなそうとした。
ただホクトもこの手合いはゲームの中だけで知っているだけなので、対応悪く火に油を注ぐ形となってしまった。
「ミヤビの付録が俺様に意見するな。俺が誰だか知ってるか?短期間でB級まであがって、A級もまじかという最強冒険者だぞ。お前みたいにおこぼれでD級もらっている奴とはものが違うんだよ。わかったか、わかったら引っ込んでろ。さっさとミヤビとのパーティを辞退して、今まで同様森の奥にひっこんでやがれ」
ガストは、ものすごい剣幕でまくし立てた。
ホクトにしてみれば迫力はまああったものの、こういう輩にありがちな型にはまった予測範囲のセリフに、動揺どころか感動さえ覚えていた。
そのうち、悪役にありがちな「おぼえてろよ」の捨て台詞も聞けるのだろうか。
対して、ミヤビは少しカチンときたらしい。
ホクトとガストの間に入り、顔を見もしなかった相手を正面からにらみつける。
「わかったにゃ、条件によってはホクトとパーティを解散して、そっちの紅だか銀だか色が定まらないパーティに入ってやるにゃ」
「ほお、で条件とは」
ミヤビの揶揄にイラっとしながらも、やっと対応してくれたミヤビに対して問いかける。
「契約金として、白金貨50枚。パーティの報酬はうちが全体の50%でのこりをそちらの6人で分配。さらに毎日新鮮なキラーイワシを10匹食事として供給することを約束するなら、入ってやってもいいにゃ」
「白金貨50枚って...」
ガストの後ろで、もう一人の剣士がうめいた。
白金貨50枚とは金貨にして5000枚、日本円にしたら5億に相当する。
比較的高ランクの依頼をこなせるガストたちにしても、稼げるのはパーティ全体でも年間せいぜい白金貨9枚といったところだ。
この世界の物価では、月金貨2枚あれば食事と宿代は足りるため、それを考慮すればなおさら破格の契約金だ。
さらに内陸ある海沿いにあるならともかく、陸地奥のファーラーン村ではそもそも生の魚など川魚しかない。
海の沖合で取れるキラーイワシなど、毎日手に入るわけもなく、普通に考えればできないこと前提での無理な要求であった。
つまりはなからガストたちのパーティに入る気がないと、重ねて宣言しただけだった。
「てめえ、ふざけてるのか?」
「女性に対して手前呼ばわりしているあんたの方が、よっぽどふざけてると思うにゃ」
どちらも臨戦態勢にはいったといってよい雰囲気が漂い始めた。




