サイドC-29 フィオナ王国ご一行ご案内
「じゃあとよろしくにゃ。うちは寝るにゃ」
三人が長距離転移スキルを持つ協力者、マツリという猫人種と出現した先は、ファーラーンにあるという『アンバーチャイルド』の拠点ハウスの一室であった。
窓がないところを見ると地下室らしいが、寝具やソファーなど調度はそれなりにそろった一室であった。
そこにはガガにラン・ムーとヒューマンタイプの執事にメイドが待ち構えていた。
マツリは自分の仕事は終わりとばかり、そうそうに去っていく。
ガガの指示でホクトたちによりあらかじめ用意されていた装備や武器がわたされ、男女部屋を別れて着替えるよう指示される。
「思ったのですけど、先ほどの空間転移スキルで、いっきにそのダンジョンの最下層に移動した方が、このような手間をかけずに隠密行動とれたのではないですか?」
冒険者風の装備に着替えたアカリ姫が、不思議に思いガガに質問する。
「それは私も思いましたが、あの技はダンジョンと地上間ではつかえないのだそうです。ダンジョン内ではもっと相性がわるく、いちど登録した地点でも失敗することがあるとか。ただ彼女は目に見える範囲での転移も可能だそうで、それであればダンジョン内でも問題なく使えるのだそうです」
「そうなんですか。ダンジョンてやはり不思議な場所なのですね」
アカリ姫がたち鏡で自分の装いを確認しながらしみじみという。
三人に用意された装備や武具は、見た目は金属っぽいが、文官である三人の負担にならないよう、すべて木製や皮や魔物の外殻であった。
それでもホクトたちが用意したものだけあって、付与魔術により装備の防御力も殺傷能力もそこそこあるものであった。
ガガはそう説明をホクトにされ、彼らならそういうことも容易だろうとあっさり信じた。
それにダンジョン内で一行は第3階層まで移動すれは最下層まで行ける。
ガガたちもそこを利用して地上に戻ってきており、行く道は知っている。
第3階層であれば魔物は雑魚といってよく、ガガたちの敵ではない上に案内人としてカエデ・ツバキというダンジョンを熟知している人間も入り口から同行することになっており、重装装備なくとも姫たちに被害が及ぶことは限りなくゼロに近い。
「これを身につけてください。往復1回だけ有効なアイテムです」
第三階層の転移のある部屋にサーフライト姉妹の案内でついた一行は、ふたりが差し出した赤いペンダントを首にした。
その言われた通り奥に進むと壁際の地面が光だし、次の瞬間にはダンジョン通路から岩山の内側に穿たれた空間にいた。
「こちらです」
目の前に洞窟の通路がつながっているのが見えたが、姉妹が案内したのは反対側から上に続く階段だった。
階段を上がり切ったところは洞窟の出口とは思えないほど洗練された白磁のホールがあり、真っ赤な絨毯で敷き詰められたそこには、ヒューマンの男女に猫人、プラティアにテツガが待っていた。
ヒューマンの背後には大きなウルフタイプのゴーレムが鎮座している。
あれが調査の内容にあったウルフタイプのゴーレム、クラウドとやらだろうとスイレンは一人内心でごちる。
「アカリ姫様、お待ちしておりました。わたしが『アンバーチャイルド』のリーダーのホクトです。そしてこちらが」
「商会『カメヤマシャチュウ』の総代表を務めさせていただいておりますオリョウと申します。以後お見知りおきを」
ホクトたちの挨拶に対して、姫一行は唖然としている。
クラウドの存在もそうだが、この部屋自体の装飾に驚いていたのだ。
「あ、改めまして、こちらがフィオナ王国第二王女のアカリ・ローランド様です。そのそばに控えるのがフィオナ王国宰相アイン・ネザーロール伯爵です。わたくしはアインが長女、スイレン・ネザーロールと申します。此度はご招待にあずかり感謝いたします...」
「すごいお部屋ですね、ここ。とてもダンジョン内とは思えません。どなたがおつくりになったのかしら?」
スイレンの紹介もそこそこに、我慢しきれずアカリ姫が聞く。
「はい、お聞きかとは存じますが、このダンジョンの管理者たるダンジョンマスターの造作によるものです。この部屋はほんの一部で、建物全体はもっと大きな宿泊施設となっております。建物の外にはダンジョン内ですが海が広がり、洋上にも宿泊施設がございます。ぜひ案内したいところですが、今日はお時間がないということで、早速第79階層をご覧になっていただきたく思いますが、よろしいでしょうか?」
「姫、ホクトのいう通りです。朝までには船に帰らなくてはいけませんので」
ガガがフォローするように付け加える。
「ガガのお仲間がだらけているという施設、私も見てみたいですけど...たしかに時間がございませんね」
「申し訳ございません。こんどお時間がある時に、ごゆっくりお越しください。それではこちらです」
と、先ほど上ってきた階段をまた降りていき、洞窟の通路に誘導する。
洞窟といっても、先は明るいので外界に通じているのが姫一行にも想像がついた。
ダンジョン内で外という概念は、普通に考えればちょっとおかしいのだが、先ほどの部屋に思考が混乱させられ、ダンジョン内部である感覚が薄れていた。
「お見せしたいのはこちらです」
洞窟を出た先は断崖の絶壁で、眼下に平野が広がっていた。
そして一同は目にする。
どこまでも続く畑の連なりと、それを挟むように乱立する倉庫のような建物の群立を。
「こ、これは」
事前に知らされていた。
ダンジョンで農作物を育てていると。
だが、これほどの規模で展開されているとは、夢にも思わなかった。
見渡す限り、どころではない。
高台にいるため相当遠くまで視野があるはずなのだが、それでも地平線まで続いている。
「ここでは百を越える種類の穀物や果物が、常に生産されています。自然に生えるのではなくダンジョンの特性、魔物さえ魔力で生み出す特性を生かして、比較的短期間で収穫しております。また卵や乳を収穫できるようにそれを生み出す動物も30万匹以上つねに育てています。そして背後のかなたに見えます山々では、鉱物が同じく魔力によって生み出され続け、それを採掘しております。それらの作業をこなすのは、大小さまざまなゴーレムを利用しておりまして、操作はゴーレムの操作に長けた僕の仲間が行っております」
ホクトはここで少しだけ情報をごまかした。
ダンジョンの特性を生かしているのは事実だが、種自体は若草兄弟の手によるものだ。
ダンジョンはその環境つくりや育成加速、同じものを同じところで作り続ける連作被害を防いでいるだけだ。
嘘は言っていないが、本当のことすべてを話しているわけではない。
お互いすべてを打ち明けるほどの関係ではないので、まあそのくらいの隠蔽は、許してもらうことにする。
この階層をみて二の句が継げぬ様子の人々を見るのは、ホクトにとってはデジャブーのような場面の繰り返した。
なんど同じような驚愕の顔を見てきたことだろう。
最初は香澄だった。
次はカエデ・ツバキとサーマルス・ロードの王女王子の兄弟だった。
ガガたちには、つい先日同じように案内して、いま彼の国の王女や宰相がしている顔と同じような場面にあった。
今回はそのうちのサーマルス・ロード王国相手の時と同じような場面だろう。
国を相手にとっての交渉に、このようなチート農場を披露しているのだから。
かといってそれらは嫌な感覚ではない。
北斗の自慢の子供を披露しているに等しいのだから。
「ガガ、これはどうゆうことですか?ここはダンジョンでは無かったのですか?」
アカリ姫が救いをもとめてガガに問いただす。
なんとなくではあるが、ガガからの事前情報話半分にとらえており、やや広いくらいの農場を想定していたのだ。
たがメガファームを目の前に突きつけられ、ここに至ってはじめてここに来て得た現実の重大さを認識し始めた。
そんな姫に対してガガも困り顔だ。
タイミングさえ前後しているが、その現実を突き付けられているのは彼も同じなのだから。
「ホクト殿、ここで取れる収穫物は、一体どのくらいになるのですか?」
驚きを抑え込んでスイレンが果敢に質問する。
「ここで取れる作物の量はですね、種類によるのでサイズとかも違ったりして様々ですが例えばパンなどを作る小麦に限定しますと年間で約200万トンぐらいですかね」
「200万トン!」
その数値は、本国の会議にて確認した本国の生産量とぼぼ互角であった。
フィオナ王国も小麦を外部に輸出しているのだから、この国の人口が仮に同じくらいとして自給率は100を越えているだろう。
加えてこのメガファームからは小麦に代わる主食、米も大量に収穫されているだろう。
そして主食にもつかえるトウモロコシ、ジャガイモ、大豆等もおそらく同じような規模で栽培されているだろう。
他国の一つや二つ、食の面倒を見ても問題ないというわけだ。
「フィオナ王国の皆さま、本当はもっといろいろ近くでご説明したく思うのですが、残念ながら本日は時間もございません。残りの時間を今後についてご相談したく思います。急ごしらえで申し訳ないのですが、あちらに部屋を用意しましたので、そちらに移動していただけますか?」
固まっているメンバーにホクトがやんわりと提案する。
ホクトの指す方をみると、窓を大きくとった小さな小屋が洞窟出口の少し横にちょこんと鎮座している。
エギルに頼んで、交渉用に急遽作ってもらった部屋だ。
相手が王族や貴族ということで、家具作りのスキルを持つタクミの協力も得て応接室としてはそれなりの調度をととのえてある。
部屋の真ん中には両サイドに座れる長机と10対の椅子で、フィオナ王国側は全員座れるようにしてある。
フィオナ王国側は、アカリ姫を中心にアイン伯、スイレン女史、テツガ、プラティア、ラン・ムーが着席する。
対するホクト側は、ホクトを中心にオリョウ、ミヤビ、カエデ、ツバキが両サイドを固めた。
着座した人の前には、ホムンクルス・メイドのタウにより、紅茶とクルミ入りシフォンケーキがおかれていった。
「それでは、こちらの提案をあらためてお伝えしましょう」
ホクトが内容の重大さとは裏腹に気さくに始めた。




