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第13話「復讐の連鎖」 - 5

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

◇トーマス・セルヴィオラ編


カルメサス伯爵家の宮廷は静けさを取り戻していた。


舞踏会が終わり、月光が窓から差し込む中、宮廷の広い廊下は石造りの壁に反射した淡い光に包まれていた。遠くで響く衛兵の足音だけが、この静寂をかき消す唯一の音だった。


宮廷道化師トーマスは自室の寝台に横たわっている。


その視界には彫刻が施された木の梁と華やかな装飾のある天井が広がっていた。壁には数点の道化師衣装が掛けられているが、彼はそれを一度も見ようとはしなかった。月光が窓の隙間から差し込み、床にぼんやりとした光と影の模様を作り出している。


挿絵(By みてみん)


彼はもともと父ルーファスの死の真相を探るために王宮に近いカルメサス伯爵家に潜り込んだ。そこで宮廷道化師として貴族たちの近くに身を置いてきたのだ。


それもアビゲイル枢機卿の最期とともに目的は果たされた。しかし、地下室で聞いた彼女の言葉がくさびのように刺さり、抜けない。


これからもマリア・カルメサス伯爵はベレンニア王国を導いていくだろう。


この世界はトーマスが以前いた世界の中世時代に似ている。彼女が実現する社会に、たぶん訪れる未来を知る者として寄与できることがある。そう思って彼は留まることを決意した。


だが、頭の中にはあの事件の記憶が鮮明に残っていた。目を閉じれば、あの日のアビゲイル・クロワ枢機卿の姿が浮かぶ。今夜もまた、彼はその記憶に囚われるのだ。


アビゲイルは聖職者の衣装をまとい、表向きには保守派の筆頭として伝統と秩序を守る役割を担っていた。しかし、その本質は全く異なっていた。


「王政を廃し、身分制度をなくす。そしてすべてを民主化する――それが人類の未来だ」


念波で送られてきた彼女の思想は、今もトーマスの耳にこびりついている。


アビゲイルが目指した世界は、誰もが平等にスタートラインに立つことができる世界。


貴族も平民も無く、生まれの差が意味を持たない理想郷だ。しかし、そこに至る長い道のりを彼女は残酷な暴力で急ごうとした。


「とはいえ、これは歴史の必然なのか……」


トーマスは、かつていた世界の記憶を思い出す。


そこでは民主主義が王政や貴族社会を打倒し、時代を塗り替えていった。それはこの世界においてもいずれ到来する、止めようのない波のように思えた。


ふと、マリア・カルメサス伯爵の顔が脳裏に浮かぶ。


彼女は王政と貴族制度を維持しながらも、技術革新や産業発展によってこの世界を前進させようとしている。


「マリア様の目指す社会はこの世界にとって現実的な革新だ」


彼女の世界では、王や貴族という存在が支配者であり続ける。それによって安定と繁栄を両立させようというのだろう。


「でも……それは上に立つ者の理想郷でしかないんじゃないか」


支配される側で生まれた者は、乗り越えることが不可能な壁の中で生きることになる。どれだけ努力を重ねても、その壁を打ち破る機会すら与えられないのだ。


「いつの日か、不満を抱えた下の者は体制を引っくり返そうとするかもしれない」


彼の胸には再び迷いが芽生えた。


穏やかで現実的な未来を選んだとて、その先に待っているのはアビゲイルが急いで求めた未来なのかもしれない。


彼は膝を抱え、低く呟く。


「アビゲイル。僕は貴女を否定できない…」


その言葉は、彼が無意識のうちに必要であれば暴力を肯定しているという告白のようにも感じられた。アビゲイルが選んだ道を、どこかで理解し、受け入れている自分――それに気づいたとき、胸が凍りつくような痛みを覚えた。


さらにトーマスの思考は堂々巡りする。


「でも、民主主義を実現したって……」


トーマスは膝を抱えたまま視線を落とし、沈黙した。


民主主義は、彼のいた世界で王政や貴族社会を打倒したが、その理想が完全に実現されているとはとても言えなかった。


全世界を震撼させたウイルスの蔓延。その恐怖に対する対応が良い例だ。


「国民全員が政治を真剣に考え、理性的な判断を迅速に行う――それこそが空虚な理想なんじゃないか…」


民主主義国家が国民の権利に配慮した曖昧な政策を取る中、独裁国家では指導者の鶴の一声で、迅速かつ徹底的な対応が行われ、結果としてウイルスの封じ込めには成功していたように思えた。


「それに…どっちにしても戦争はなくならない…」


民主主義は平和をもたらす理想とされていた。


だが実際には、彼のいた世界では常にどこかで戦争が起き続けていた。歌に歌われるような平和が訪れる兆しなど無かった。


それだけではない。


人類は技術発展を追い求め、住む星そのものを壊し続けていた。未来を見据えるどころか目の前の欲望を満たすことに夢中だった。


「どんな社会を作ろうと、欲深く、破壊衝動を生まれ持った人間は結局……」


彼の呟きは月明かりにかき消された。


人間という存在自体が抱える矛盾――進化と破壊、希望と絶望の狭間で、トーマスは答えを出せずに目を閉じた。


それでも考え続けて向き合っていくしかない。


「だからボクはここに残ることを決めたんだ」


(続く)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


★あとがき★

今回の話がこの物語で描きたかったことのほぼ全てです。

拙い私には最後にトーマスに全て話させるしかできませんでした。

アビゲイルが最期に残した言葉「興味深い駒」とはトーマスのことだったのです。


次回、完結です。3姉弟は故郷に戻ります。

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