第10話「式典前日」 - 6
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
冒険者パーティ「風吟の探索者」は王都に長期滞在し、周辺の森や洞窟を探検していた。
冒険から戻り、いつものように王都の城門をくぐると、目の前に広がる光景に思わず足を止めた。
「すんごい人だね! 元々ルオハンジェは人が多いけど、今日は特に多いや。背が低いアタシはなーんも見えない」
ファエリエが両手を腰に当ててつま先立ちする様子を見て、タラナーが笑いながら言った。
「なら肩に乗れ、ファエリエ。ほら!」
そう言って彼は小柄なファエリエをひょいっと肩車した。エルフとは思えないほど大柄なタラナーの肩に乗ると、ファエリエの視界が一気に広がった。
「わー! よく見える! どこまでも人、人、人だー!」
目を輝かせるファエリエにタラナーが頷く。
「明日はベレンニア王国の建国記念式典だ。王都中の人間が集まっているんだ」
その言葉を聞いて、エルフのエレサルが溜め息をついた。
「まったく…こんな祭りを一年おきにやるなんて人間は本当に忙しい奴らだよ」
「まだまだだな、エレサル。その辺の人間との時間感覚の違いが分かってくるとお前さんも一人前のエルフになれる」
「318歳でも子供扱いかい…」
ソフィアとロレンディスは少し後ろを歩いていた。
「大丈夫か、ソフィア。さっきからフラフラしているぞ」
「う、うん…気持ち悪い・・・この街、なにか変わった・・・」
ソフィアが顔をしかめる。ロレンディスが心配そうに彼女を支えた。
人混みを歩いていたファエリエの目に、不思議な光景が飛び込んできた。宿屋の前で、ただ立ち尽くしている農民風の男たちがいる。
「ねえ、見て! あの人たち、なんか変じゃない?」
指差した先には、日焼けした肌に粗末な衣服をまとった男たちがいた。大柄で立派な体格だが、どこか落ち着かない様子で周囲を見回している。
「ああ、式典を見に旅してきた農民だろうさ。大都会が珍しいんじゃないのか?」
王都には不釣り合いな風貌の彼らが信徒自衛団の面々だった。
この事を知るのは、明日を待たなければならない。
◇ ◇ ◇
マリア・カルメサス伯爵の館の応接室。
柔らかな灯火が高い天井を照らし、重厚な家具と壁に飾られた紋章が格式高い雰囲気を醸し出している。その中心には、マリアとトーマス、そしてスカーレット枢機卿の秘書官であるアンナが集まっていた。
アンナは仕事を終え、緊張から解放された様子で深く椅子に腰掛けている。
「あー、今日も疲れた! スカーレット様の人使いの荒さは王宮一なんじゃないかしら?」
今晩もアンナは愚痴が止まらない。
「私、カルメサス伯爵家の親戚って事になってるのに全く気を遣われてないっ!!」
そんなアンナに微笑みながらマリア伯爵が口を開く。
「タリーサは遅れてるようだな。式典の役割分担を改めて確認しておくぞ」
「その前に、お茶でも淹れましょうか?」
トーマスが道化師らしい軽い調子で提案するが、マリアは鋭い目で一瞥しただけでそれを却下した。
「必要ない。式典前夜に悠長な時間はない」
しばらくして、外から足音が近づき、聖騎士団の仕事を終えたタリーサが到着する。ドアが開くと同時に、彼女の革鎧がきしむ音が静かな部屋に響いた。
「遅くなりました。報告が長引いてしまって」
「タリーサ、座れ」
マリアが手を振り、空いた席を勧める。
タリーサが腰を下ろすと、話が本題に入った。
「アビゲイルの動きについては引き続き警戒が必要だ。彼女がルーファス・セルヴィオラの仇である可能性は高いようだが…」
マリアの声には、鋭い冷静さが滲んでいる。
「魔核銃に呪詛とやらを込めたのがアビゲイルだとすれば、彼女とスカーレット枢機卿は協力関係にあるかもしれない。信条的に真っ向から対立する2人が手を組んでいるなんて想像もできんが…」
タリーサは真剣な表情を崩さず口を開く。
「記念式典でいきなり次期教皇就任を宣言する、とかですか?」
「スカーレット様ならやりそうだな。しかし、それくらいなら別に良い」
マリアは額に手を当て、深い溜息をついた。
「だが、タリーサへの挑発的な態度を考えると、アビゲイル様はもっと狡猾な企てをしているかもしれない」
トーマスが肘をつきながら、どこか軽快に言う。
「常識を捨てて考えるべきですね。彼女たちには常識という枠があまり通用しないみたいですから」
「どちらにせよ、考え続けても答えは出ん」
マリアがキッパリと言い切ると、場が一瞬静まり返った。その後、彼女は一人ひとりに目を向け、指示を出していく。
「アンナ、お前はスカーレット様のそばで監視しろ」
「もちろんです。でも、あの方の発想は突拍子もなくて、何を企んでいるのか想像がつきません」
「アビゲイルには聖騎士が付きます。マクスウェルさんが選ばれました」
タリーサが補足するように言うと、トーマスが軽く肩をすくめながら口を挟んだ。
「非力な僕が壇上にいても役に立ちませんよ。マリア様には近衛騎士のヘンリーさんが付きます。僕は舞台袖で待機します。余興を忘れて緊張をほぐす役目が必要でしょうから」
軽口を叩いているように見えたが、その目はどこか憂いを帯びていた。
タリーサが自身の立場について報告する。
「私も裏手で小隊を率いて待機です。何か起きればすぐに動ける態勢を整えるよう、グレース団長から指示されています」
それぞれが自分の役割を胸に刻むような、重々しい沈黙が部屋に漂った。
一通りの確認が終わったあと、アンナがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、アーノルドとエミリーの忍者2人の音信がないんです」
「え、そうなの?」
タリーサが眉をひそめる。
「ドワーフ職人とその弟子を王都の外に逃がしに行ったのが最後。それ以来、連絡がないの」
「忍者の彼らのことだから隠密作戦で長期間潜伏してるんじゃないの?」
トーマスが問うと、アンナは首を横に振る。
「だといいけど…何か起きたのかしら…」
◇ ◇ ◇
夜の王都郊外。静まり返った森の中、星明りの薄い光が木々の間を縫っている。
地面にはばらばらに切断されたドワーフ職人と弟子、そして男女の人間の遺体が転がっていた。無残な姿をさらす彼らの周りでは、野犬やハイエナが屍肉を漁り、荒々しい咀嚼音だけが響いている。
彼らは任務を果たすことなく、枢機卿の包囲網に捕まり、拷問の末に命を奪われていた。闇の中、彼らの命の痕跡は静かに消え去っていく――誰にも知られることなく。
(第10話 完)
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★あとがき★
いよいよ式典に向けて登場人物が揃いました。
忍者アーノルド、エミリーはオリバーに続き、秘密裏に消されているという展開に・・・
次回、建国記念式典が厳かに始まります。




