第5話
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「はあ……」
入学式を明日に控え、落ち着かない俺は学園内を一人トボトボと歩いている。
いや、いくら貴族の子どもは全員この学園に通わないといけないとはいえ、そもそも田舎者の俺なんかがここにいても場違いだっつーの。
そのことをアルトレーザ様に言ったら、『貴族に都会も田舎もない!』と一蹴され、もはや俺には誰一人理解者がいないのだ……。
もちろん、“新館”のほうに行けば、俺と同じ境遇の連中もたくさんいるんだろうけど。
「……絶対向こうではコミュニティができてるだろうから、今さら入れねーよなー……」
うん、前世いわく、スタートダッシュに失敗したというヤツだ。
初対面同士なら、お互い気を遣い合いながら関係を構築していくんだろうけど、既にできあがってる輪の中に入るのは、かなりハードルが高い。
元々、前世でも人付き合いがあまり得意じゃないこともあって、プログラマーなんて仕事に就いてた訳だし。
「うん、俺がこの学園でできた知り合い、アルトレーザ様とイザベルさん、カディナ先生の三人だけだな」
チクショウ、俺にもっとコミュ力があれば……って、発揮する相手もいねーんだけど。
それにしても。
「入学式は明日だぞ? いくらなんでも、ある程度は下見しておいたほうがいいんじゃねーの?」
俺は辺りをキョロキョロしながら、一人寂しく呟いた。
つか、俺がここに来てから一週間、一度も学生か入学予定者を見かけたことないんだけど。
「あ、そうだ! あらかじめ俺がこの学園内を把握しておいて、入学したての連中に案内してやれば、そっから仲良くなれたりするんじゃねーの!」
うむうむ、我ながらナイスアイデアだ!
そうと決まれば、学園内の散策を始めよう!
◇
「……で、キミはまた学園内で道に迷った、と……」
「…………………………」
学園の中庭、呆れながら見つめるアルトレーザ様の前で、俺は泣きそうになりながらうなだれていた。
や、勇んで学園内を散策したのはいいが、あまりにも広すぎて迷っちまったんだよなあ……。
んで、校舎裏で半べそかいていたところに、偶然通りかかったアルトレーザ様に助けていただいたって訳なんだけど。
「それで、どうして学園内を一人で歩いていたんだ?」
「あ、はい……そ、その……」
うう、まさか友達作りのために学園内をリサーチしてただなんて、恥ずかしくて言えない……。
「ああもう、まどろっこしい! 早く言う!」
「は、はい! じ、実は、あらかじめ学園内を把握しておけば、明日の入学式以降、友達が作りやすいと考えました!」
くそう、なんだこの公開処刑は。
「成程……つまり、この学園のことを知らない新入生に教えてあげることで、それをきっかけに仲良くなろう、と」
アルトレーザ様がウムウム、と頷く。
「……よし、分かった! ならば、このボクがキミにこの学園を案内してあげようじゃないか!」
「えええええ!?」
アルトレーザ様が嬉しそうにそう宣言するけど……い、いいのかなあ……。
「む、何だ? ひょっとして、ボクの案内がイヤだと言うのか?」
アルトレーザ様が少しお怒りの表情で問い質してくる。
正直言って、いたたまれないというか、申し訳ないというか……はい、分かりました。ですから、そんな悲しそうな瞳で見ないでください。
「……ぜひよろしくお願いします」
「うん、よろしい! では行こうか!」
(半ば強制的に)お願いする(させられる)と、アルトレーザ様はパア、と笑顔を浮かべ、嬉しそうに案内を始めた。
つーか……その表情、反則だろ。
という訳で、俺はアルトレーザ様の後をついて歩き、学園内を隅から隅まで案内してもらった。
学生達がお茶会を開くためのカフェテリアや、剣や魔法の修練場、魔法を研究する施設、図書館等々……。
「で、ここが王国中の花を育てている“温室”だよ!」
「おおお……!」
ガラスで囲われた建物内に、色とりどりの花が咲き誇る。
中に入ると、花の香りが俺の鼻をくすぐった。
「これは……圧巻ですね……」
「だろう! ここはボクのお気に入りの場所でもあるんだ!」
や、確かにすごいわ。
だって、中は東京ドームくらい広いんだぞ?(超適当)
「んふふー、キミにも気に入ってもらえたようで嬉しいよ! そうだ! 今度ここで、お茶会でもしようじゃないか!」
「お、お茶会ですか!?」
マテマテ! お茶会っていったら、あの、ものすごく金が掛かるアレだろ!?
うちみたいな田舎男爵家じゃ、あっという間に破産するぞ!?
「ととと、とんでもない! 私めがアルトレーザ様とお茶会などと、恐れ多い!」
俺は何とか逃げ切ろうと、とりあえず身分の差を全面にアピールする。
だが。
「……へえ、キミはこのボクの誘いを断るのか」
「めめめ、滅相もない! ぜひ参加いたします! ハイ!」
はい、参加ケテーイ。
父上、母上……貴族社会とは、かくも苦しいものですか……。
「最初からそう言えばいいんだ。よし! その際は最高級の茶葉と、お茶請けを用意しよう! 腕が鳴るなあ……!」
いえ、できればその腕はそっとしまっていただけると……って、ムリかー。
「じゃあお茶会に関してはイザベルに手配してもらうとして……うん、これで学園内は一通り案内し終わったかな」
「あ、ありがとうございました……」
満足げな笑みを浮かべるアルトレーザ様に反比例し、お茶会のことを考えて全く気分がすぐれない俺。
「さあ、では寮に戻ろう」
「はい……」
俺はガックリ、と肩を落としたまま、意気揚々と歩くアルトレーザ様の後ろを歩く。
そして、校門の前に差し掛かったところで。
「あた!?」
「キャッ!?」
俯いていたのが災いして、誰かとぶつかってしまった。
俺は慌てて声のするほうを見ると……うん、どうやら女子学生のようだ
「も、申し訳ありません! 大丈夫ですか!?」
俺はその女子学生に慌てて手を伸ばすと。
「誰にぶつかったと思って!? 不敬な!」
……この出会いが発端となって、悪役令嬢闇落ちエンドを回避するための激しい戦いの日々が始まるとは、この時の俺は知る由もなかった。
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次話は今日の夜投稿予定です!
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