第2話
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「うーん……やっぱり同じ一族だから、顔がメルザたんと似てるってことなのかな……」
頭痛がすっかり治まって医務室を出た俺は、メルザたんにそっくりなアルトレーザ様のことを考えながら、今日からお世話になる寮を目指して歩いていた。
なお、俺みたいな田舎の貴族は、他の入学生達より早めに入寮して、来週の入学式に臨むことになるんだけど……。
「俺みたいな入学予定の奴、つーか、学生すら一人も見かけないんだけど……」
学園の敷地がものすごく広いっていうのもあるんだろうけど、春休みとはいえ学園に学生がいないってのはどういうことなんだ? 学生寮は、この学園の敷地内にあるんだぞ?
お陰で俺は、この広い学園内で絶賛迷子中である。
「ええと……校門の場所がコッチで、その反対方向に寮があるはずなんだけど……」
俺は通路脇にある学園の地図を眺めながら寮の場所を確認していると。
「どうした?」
突然後ろから少し高めの声で呼び掛けられ、慌てて振り向く。
「え!?」
「あ! メ……い、いや……アルトレーザ様!?」
何と、声を掛けてきたのはメルザたん……もとい、アルトレーザ様だった。
「……どうしてボクの名前を知っている?」
おっと……アルトレーザ様が訝し気に俺の顔をジロジロと見ている。
これは、正直に答えたほうが良さそうだ。
「も、申し訳ありません! 先程、医務室でカディナ先生とお話をされているのを偶然お聞きしてしまいまして……」
そう言って、俺は頭を深々と下げた。
「あ、あの時、起きていたのか……」
「た、たまたまです……」
ヤ、ヤバイ……これで印象が悪くなっちまったら、我がフレイレ家はおしまいだ。
つか、それ以上にメルザたんの顔で嫌われでもしたら、俺は立ち直れないかもしれん……。
俺は頭を下げたまま、じっとアルトレーザさまの反応を待つ。
すると。
「ふう……まあ、カディナ先生がキミに告げ口した訳じゃなさそうだし、キミも悪意があって盗み聞きしたんじゃないだろうから、今回は不問にする。だから、顔を上げたまえ」
「は、はい!」
アルトレーザ様の溜息とお許しの言葉を受け、即座に俺は顔を上げた。
そこには……やっぱり凛とした表情のメルザたんがいた。
「それで、先程聞こえたが、キミは寮を目指しているんだな?」
「はい……お恥ずかしいことに道に迷ってしまいまして……」
俺が悪いんじゃないんです。
無駄に広い、この学園が悪いんです。
「そうか。じゃあボクも寮に戻るところだから、一緒に行こう」
「え!?」
アルトレーザ様から放たれた言葉に、俺は思わず驚きの声を上げる。
「ん? そんなに驚いてどうしたんだ?」
「あ、い、いえ、そのー……」
や、普通は公爵家ほどの御方だったら、寮なんかに住まずに、別に邸宅を構えたりするモンじゃないの!?
そ、それに……。
「あのー……実は私の実家は、東の辺境にある漁師町出身の男爵家の者でして……」
「? それが?」
「あ、ああいや、その……アルトレーゼ様とご一緒するなんて、お、恐れ多いというか……」
そう言うと、アルトレーザ様は露骨に顔をしかめた。
うん、メルザたんの顔でされると、ものすごくショック。
「……貴族として最低限の礼儀さえ弁えていれば、細かいことは気にしない……」
そう言うと、アルトレーザ様はプイ、と顔を背けた。
ヤベ……大分印象が悪くなっちまったみたいだ……。
「あ!」
「今度は何だ……」
俺が、空気を変えるためにわざと大声を出すと、アルトレーザ様が面倒くさそうに俺を見やった。
「あの! 先程は私を医務室まで運んでいただいて、ありがとうございました!」
「ふああああ!?」
俺が勢いよく頭を下げて助けてくれたお礼を言うと、アルトレーザ様が驚きの声を上げた。
ていうか、『ふああああ!?』って……まんまメルザたんの口調と同じしゃねーか!?
い、いや、同じ一族だったら同じ口調になることもあるか……あるのか!?
「そ、そんなのは気にしなくていい! ボクが勝手にやったことだ!」
感謝したのに、なぜかアルトレーザ様が怒鳴るんだけど……これって。
「……ツンデレ?」
「ふあ!?」
お、また同じ声を上げた。
チラリ、とアルトレーザ様を見ると……うん、顔を真っ赤にしてモジモジしてる。
間違いない、純度百パーセントのツンデレだ。
「ま、全く! 余計なことを言う暇があったら、サッサと寮に行くぞ!」
「あ、は、はい!」
恥ずかしいのか、プリプリしながら寮に向かって歩くアルトレーザ様。
うむ、カワイイ……って!? 何考えてんの俺!?
アルトレーザ様は“男”なんだぞ!?
変な気を起こしそうになった俺はブンブン、と顔を左右に振ると、足早に歩くアルトレーザ様の後について行った。
そして。
「ここがボク達が住む寮……“エルシド寮”だよ」
うん、知ってる。場所は知らなかったけど。
英雄エルシドの名前を冠していて、ここから英雄を育て、巣立っていくことを祈念して名付けられたって設定だったはず。
でも。
「ここは英雄エルシド様の名前をいただいて、同じように英雄を育てることを目指して名付けられたんだ」
大人な俺は知ってるからってアルトレーザ様が得意そうに話しているのを邪魔したりしないのだ。
そして……この寮の地下深くに、深淵の魔女王“アゼリア”が封印されていることも。
つっても、ゲームと同じ世界とは限らないんだけどなー、あははは。
「じゃあ、次に寮長を紹介しよう。ついて来てくれ」
「はい!」
アルトレーザ様に手招きされるまま、寮の中に入って行くと……なぜかものすごく綺麗なお姉さんがいるんだけど!?
カディナ先生が色気のある大人の女性だとしたら、このお姉さんはクールな清楚系……そう、清楚系だ!
薄い紫のウェーブのかかった髪に、少し切れ長の同じく紫の瞳、薄く上品で艶やかな唇、そして……素晴らしいスタイルの持ち主だ。
メルザたんも素晴らしいものをお持ちだけど、このお姉様はさらにその上を行く!
「こちらが寮長の“イザベル”だよ」
「イザベルです。どうぞよろしくお願いします」
寮長……イザベルさんは丁寧にお辞儀をした。うん、たたずまいから所作まで、全部綺麗なんだけど!?
「ジ、ジルベルト=フレイレでしゅ!?」
ヤベ、緊張して舌噛んだ。
「うふふ……面白い方が入寮なさいましたね?」
「ん……そうだな」
イザベルさんがアルトレーザ様に微笑みかけると、少し苦笑しながら相槌を打った。
や、緊張してたんだからしょうがなくない?
「さあさ、着いたばかりですからお疲れでしょう。まずは部屋で、ゆっくりくつろいでください。ええと、ジルベルト様のお部屋は…………………………あ」
「どうした?」
イザベルさんの拍子の抜けた声に、アルトレーザ様が尋ねると。
「あ、その……ジルベルト様のお部屋は、アルトレーザ様と同室となっております……」
「「はあああああああ!?」」
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次話は明日の朝投稿予定です!
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