第1話
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「ハッ!?」
目を覚ますと、ありきたりだけど見知らぬ天井があった。
つーか、ここドコだよ。
「あら、目が覚めたようね」
女性の声が聞こえ、そちらへと顔を向けると。
「イタタ……!」
何だ!? ひどく頭痛がする……って、そういや俺、校門の前で急に頭が痛くなって、それで……。
「ホラホラ、無理しちゃダメよ?」
そう言って二十代前半くらいの、妙に色気のある白衣を着た女性が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「え、ええと……?」
「ああ、ここは“エストレア王立学園”の医務室で、私はここで校医を務めている“カディナ=トーレス”よ」
そう名乗ると、彼女……カディナ先生が右手を差し出してニコリ、と微笑んだ。
「あ、す、すいません……お……いや、私は“ジルベルト=フレイレ”、“ジル”と呼んでください」
「ふふ、“ジル”ね。よろしく」
俺はベッドに寝たまま右手だけ差し出してカディナ先生と握手を交わした。
「それで……私はどうしてベッドに寝ているんですか?」
「ああ、覚えていないわよね。君は校門の前で急に頭を抱えて倒れたらしいわよ?」
「そ、そうですか……って、“らしい”?」
俺はカディナ先生の言葉が引っ掛かり、思わず聞き返した。
「ええ、私は直接見てないから。あなたは偶然通りかかったバルセロス公爵子息の“アルトレーザ”君に助けられて、ここまで運ばれてきたのよ」
成程ねえ……公爵子息のアルトレーザ君ねえ……って!?
「バルセロス公爵子息のアルトレーザ様あ!?」
お、おいおいおい!? とんでもなくやんごとない御方じゃねーか!
ヤ、ヤベエ……下手に粗相なんてしてたら、うちみたいな地方男爵家なんざ、あっという間に潰れちまうぞ!?
「す、すぐに謝罪しに行かないと! ……痛い」
俺は慌てて身体を起こすと、やっぱりまだ頭痛は治まっていない。
けど、そんなこと言ってる場合じゃない!
「ホラホラ、落ち着きなさい。あなたも制服を着てるってことは、入学予定者なんでしょ? だったら、学園の校則第一条ももちろん知っているわよね?」
起き上がろうとした身体を、苦笑するカディナ先生に抑えられた。
「王立学園校則第一条……“学園ではその地位、身分に囚われず、常に平等たれ”、ですよね?」
「そう。だから、助けてくれた相手が公爵子息だからって、あなたはへりくだったり、謝罪したりする必要はないの」
「で、ですが、それはあくまで建前で……」
「いいえ、その第一条こそこの学園の基本理念であって、そこに“建前”なんてものが入り込む余地はないわ」
そ、そうは言っても、現実的には厳しいっすよ……。
この学園に入った時、父上もそのことで苦労したって言ってたし。
「とにかく、あなたがすべきことは、体調を直すことと、彼……アルトレーザ君にちゃんとお礼を言うことね」
「は、はあ……」
とりあえず……カディナ先生に従うかあ。
俺はまたベッドの上で目を瞑る。
だけど……俺が頭が痛くなった時に流れ込んできたのは、こことは別の、魔法がなくて代わりに科学が発展している世界……。
——つまり、俺は“異世界転生”したってことか。
で、こことは別の世界ってのが、俺の前世というわけで。
そう考えると、なぜか妙にしっくりくる自分がいる。
ただ。
「まさか……“束縛のアゼリア”とそっくりの世界に転生する羽目になるとはなあ……」
「何か言った?」
「あ、い、いえ! 何でもありません!」
「? そう?」
おっと、カディナ先生がいるのに余計なこと口走ったらダメだろ。
とにかく、この王立学園の名前といい、王国や公爵家の存在といい、“束縛のアゼリア”の世界観と全く同じだし、ほぼ同一世界といっても間違いないだろう。
だけど、そうかあ……まさかこの俺が、そんなラノベみたいな経験をするとはなあ……。
ただ、俺は“男”だから“ヒロイン”ではないし、ただの地方男爵の庶子だから、“攻略対象”でもない……つまり、ただの“モブ”ってことかー。
うーん、せめて何かチートが欲しいところではあるけど、あんまり高望みするのはやめよう。
うん、俺は堅実に細々と二度目の人生を満喫するのだ……って。
アレ? でもそうすると、学園の校医って確か、カディナ先生みたいな“女性”じゃなくて、髭を生やしたナイスミドルのイケオジだったんだけどなあ。
ま、ゲームと似てるってだけで、やっぱり別の世界だってことなんだろう。
「くああ……」
うーん、色々と考えごとしてたら眠くなってきた。
カディナ先生も安静にしろって言うし、お言葉に甘えて寝るとしよう。そうしよう。
「おやすみなさーい……」
俺はベッドの上で目を瞑ると、あっという間に夢の世界に吸い込まれていった……。
◇
「……それで、彼の様子は……」
「ええ、診察した限り、特に異常はなさそうだし、念のため回復魔法もかけておいたから、大丈夫だと思うわ」
「なら良かった……」
「ふふ……噂ではかなり気難しいって聞いてたけど、そんなことはなさそうね?」
「よしてください……」
ん? 何だか話し声が聞こえるぞ?
俺はうっすらと目を開けると……そこには、カディナ先生と話す、背の低い男子生徒がいた。
つか、あれって……メ、“メルザ”たん!?
や、だって、髪型こそ黒髪ロングじゃなくてショートヘアになってるものの、あの透き通った藍色の瞳、整った鼻筋、桜色の唇、どれをとってもメルザたんのソレなんだけど!?
「……では、彼が起きる前に失礼します」
「あなたが来たこと、彼に言っても?」
「で、できればそれは……それに、公爵家の“ボク”なんかとは関わり合いになりたくないでしょうから……」
「アラアラ、そうかしら?」
「し、失礼します……」
メルザたんにそっくりな男子生徒は、クスクスと笑うカディナ先生の言葉に気まずそうにしながら、そそくさと医務室を出て行った。
「さて、ジル君の様子は……って、君、起きてたの?」
「はは、まあ……」
俺は愛想笑いを浮かべながら、ポリポリと頭を掻いた。
「じゃあ今さらだし言っておくわね。今来ていた彼が、アルトレーザ君よ」
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次話は本日20時30分頃投稿予定です!
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