クソゲーでも悪役令嬢は尊い
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「ふう……」
俺はパソコンのモニターに映る数字とアルファベット、記号の羅列を見ながら、深い溜息を吐く。
そして。
「あああああ! チクショウ! またバグが見つかりやがった! これで何個目だよ!」
右手に持つマウスを思いきりぶん投げ、ガシガシと頭を掻いた。
いやホント、発狂しそうなんだけど!?
「あーあ……今日も徹夜かあ……」
三徹が確定した事実にガックリとうなだれ、俺はぶん投げたマウスをいそいそと拾って呟いた。
「つーかこのゲーム、本当に売れんのかよ……」
デバック作業中の俺、“秋川省吾”は、今まさにバグが見つかったばかりのゲームのシナリオをチラリと見やる。
『束縛のアゼリア』
それが、このゲームのタイトルだ。
ストーリーは地方男爵の庶子で十五歳を迎えたヒロインが、貴族が通う王立の学園に入学するところからスタートする。
そして、第一王子を始めとする様々なイケメン達の好感度を上げつつ、ステータスを上げて“聖女”を目指し、学園に封印されている“深淵の魔女王アゼリア”をイケメン達と力を合わせて倒すっていう、ある意味王道っちゃ王道の恋と魔法の異世界学園ファンタジー……いわゆる乙女ゲーってやつだ。
ただ。
「ありきたり、だよなあ……」
うん、いくら王道が不変だからって、それが必ずしも万人に受けるとは限らないからなあ。
何より。
「……ヒロインのライバル役の悪役令嬢が全く救われないってどうなんだよ!」
そう叫び、俺はまたもやマウスをぶん投げてしまった。
だが、これに関しては一言……一言だけ言わせてくれ!
悪役令嬢キャラの女の子……超カワイイんだよ。
名前は“メルトレーザ=エル=バルセロス”、愛称は“メルザ”。
彼女はゲームの中では乙女ゲーよろしく、まさに悪役令嬢の鑑といったムーブをするんだけど、実はその裏設定にこそ彼女の本質がある。
全ての言動が彼女本来の優しさと、婚約者たる第一王子が好きであるがゆえのもので、事情を知れば、『ああ、なるほど』と思うものばかりなのだ。
だけど、不器用な彼女はそれをうまく表現することができず、どうしても憎まれ口のような口調になってしまう、いわゆる“ツンデレ”である。
容姿だって、腰まで伸びた艶やかな黒髪ロングに大きく透き通るような藍色の瞳、整った鼻筋に桜色の柔らかそうな唇、しかも、スタイルまで抜群。
ヒロインがカワイイ系だとしたら、彼女は綺麗系寄りのカワイイ系、つまりハイブリッドなのだ。
ただ。
「……全部、設定上の話なんだよなあ……」
そう、ヒロインや攻略対象と比べて五倍はあるキャラ設定のうち、その悪役令嬢然とした部分……つまり、ほんの数パーセントの設定しかゲームに出てこないのだ。
つーか、シナリオライターもこれだけ悪役令嬢が好きなら、いっそ主人公にしちまえよ! と、声を大にして言いたい。
だから、この悪役令嬢はただただ不遇を迎え、そして……“深淵の魔女王アゼリア”に魂が同化してしまい、最後は“聖女”であるヒロインと、“勇者”でありメルザたんの“元”婚約者でもある第一王子に殺される運命なんだよ……。
「会社の事情なのか、単にシナリオライターが設定厨なのか知らねーけど、こんなの……こんなの、あまりにも可哀想すぎるだろ……」
グス……ヤベ、メルザたんのこと考えたら目頭が熱くなってきた……。
「く、くそう……せめてこの俺が、メルザたんの出番の時に変なバグが起きたりしないように、キッチリと取り除いてやっからな!」
俺はグイ、と腕で目を拭うと、モニターとのにらめっこを再開する。
ようし、やるぞー!
…………………………と、意気込んではみたものの。
「ね、眠い……」
うん、さすがに三日も寝てないと、頭がまともに動くわけがねー。
「今は……朝の五時、か……」
多分、八時になったら新人が出勤してくるはずだから、ソイツに起こしてもらうかー……うん、こんなの、仮眠しないとムリ。
ということで。
「おやすみなさーい……」
俺はデスクに突っ伏して目を瞑ると、あっという間に夢の世界へと吸い込まれていった……。
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