第1話:処刑台の死神と、銀座に消えた光
冷たい雨が、容赦なく俺の肌を叩いている。
すべてが終わり、帝国陣営の属国と成り果てた日本の処刑台。
胸に押し当てられた黒い銃口。
終わりを告げる、無数の銃声が放たれた――刹那。
(……これは、俺が守れなかった、かつての光の記憶だ)
◆ ◆ ◆
秋の夜。まばゆい灯りに満ちていた、銀座の街角。
俺の隣には、突き抜けるような青空のように清廉で無垢な少女がいた。
「……ねえ、志郎くん。日本、これからどうなっちゃうのかな」
「大丈夫だよ。俺が絶対に遥を守るから」
「……ふふっ、ありがとう。明日も、この街で待ち合わせね」
交差点の別れ際。
白いワンピースをなびかせた結城遥は、振り返り、手を振って笑ってくれた。
その瞬間だった。
街の平和な喧騒を無残に切り裂いたのは、鼓膜を破る無数の銃声。
大陸の独裁者・習孟平が差し向けたテロリストたちによる、見せしめの無差別掃射。
目の前で、彼女の真っ白な服が、見る間に紅い飛沫に染まっていく。
「遥……っ! 嘘だろ、おい、遥っ!」
崩れ落ちた華奢な体を抱き寄せると、俺の指の隙間から、温かい血が容赦なく溢れた。
声にならない血の泡を吐き、彼女の無垢な瞳から、急速に光が消え失せていく。
俺の腕の中で、彼女の体温が、冷たい夜の空気へと溶けるように完全に失われていった。
凄惨な血の海の中で、テロリストたちは満足げに薄ら笑いを浮かべていた。
なぜ、あのとき彼女の手を離してしまったのか。
(遥、あんなに温かかったお前の手が、どうしてこんなに冷たいんだ……っ!)
俺のすべてだった光が消え、普通の青年だった心は完全に死に絶えた。
後悔と絶望だけを喰らい、世界を呪う死神が、歴史の暗闇で産声を上げたのだ。
それからの歳月。
俺は復讐のゲリラ兵として、泥水と血をすすりながら地獄の戦場を這い回り続けた。
(あの大陸の独裁者にお前の未来を奪わせはしない。それだけが、俺の命を繋ぐ執着だった)
だが、味方であるはずの日本の政治家や財界人は、最初から敵の犬だった。
決死の反攻作戦すら内側から利用され、ゴミのように捨てられた。
仲間は次々と先立ち、抗戦も虚しく、日本は完全に帝国の属国へと成り果てた。
守るべきものも、復讐すらも果たせなかった、無力な人生の最期。
◆ ◆ ◆
そして、今。
俺は冷たいコンクリートの柱にくくりつけられ、再びあの瞬間を迎えていた。
(結局何も守れず、誰の記憶にも残らないまま、俺はこの冷たい雨のなかで消えていくのか)
擦り切れた死神の魂が、自嘲の笑みを浮かべる。
抵抗する気力すら、もう一滴も残っていなかった。
終わりを告げる、無数の銃声が放たれた――刹那。
◆ ◆ ◆
次回予告:第2話『現代の三顧の礼と、亡霊の契約』
(次号、静止したモノクロ空間に現れた謎の男イーロン・孔明。失ったすべてを取り戻すため、死神は己の存在すべてを賭けた悪魔の契約にサインする――!)
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