重さ
滝川さんは、まだ少し俯いたまま。
指先でスカートの端をいじりながら、ぽつぽつと話す。
「滝川、ちゃんと説明しようと思ったのに〜…」
「……」
「なんか〜…それを流されちゃったので〜…」
「流したっていうか…別にそこ重要じゃないし」
「重要です〜」
重要か。
「三田さん、すご〜く疑惑の目で滝川の事見てました…」
「僕が?…いつ??」
「朱凛ちゃんが滝川の事、説明した時です…ウブだとか〜恋愛未経験とか〜…」
(嘘!?アレ、無意識に顔に出ちゃってたのか…)
「誤解してそうなので申し開きをしようとしてたのに〜…」
だって、滝川さんのスペックで恋愛未経験は無理があるでしょう。
ウブというのにも無理がある距離感だし。
「例えば〜…滝川が誰とでも距離を縮める軽い女だとか思われたら〜…すごく嫌ですし〜…」
「…違うの??」
瞬間、滝川さんがガバッと頭を上げて見たこともないような表情で僕を見る。
「わっ…!三田さん、世界一いじわるです〜!!」
「世界一!」
思わずオウム返ししてしまう。
「世界一です〜!」
むくれたまま、でもちょっとだけ声が強い。
「滝川、誰とでもあんな距離になりません!」
「……」
「三田さんだからです〜!」
即答。
一切の迷いがない。
「……」
(いや、それが分かんないんだけど…)
「だって〜」
少しだけ言葉が揺れる。
「他の人と一緒にいても〜…こんな風に楽しくならないですし〜…」
「……」
「そもそも〜話しかけようとも思わないですし〜…」
「そもそもキッカケは僕がスマホ落としたからじゃん」
「そうですね、滝川がスマホ落ちろ〜って念じたからですかね〜」
「そんな訳ないじゃん」
「へへ…」
少しの緊迫感が解け、再びふにゃっと表情が緩くなる。
「念じたのは嘘ですけど〜他の人ならスマホ渡してはいおしまい、です〜三田さんだからお話出来ました〜」
「そんなの結果論じゃん」
「三田さん、なんでそんなにいじわる言うんですか〜…」
「意地悪って言うか…」
「いじわるです〜…!」
「…滝川さんの意見ってさ」
気づいたら、口が動いていた。
「ただ僕が珍しいからってだけじゃないの?」
「えっ」
「ほら、滝川さんってあんまり人と関わらないんでしょ?」
「……」
「だからたまたま話した相手が僕で」
「……」
「それでちょっと楽しかったから、そう思ってるだけじゃないの」
言ってから、
(あ、また言い方ミスったかも)
と思ったけど、遅い。
「……」
滝川さんは、少しだけ黙る。
「……」
考えてる。
ちゃんと。
「……うーん…」
小さく唸る。
「それも〜あるかもです〜」
「え」
「でも〜」
すぐに続く。
「それでもいいと思ってます〜」
「……は?」
「だって〜」
首をかしげる。
「きっかけなんて何でもいいじゃないですか〜」
「……」
「今、三田さんといるの楽しいのは本当ですし〜」
「……」
「それで一緒にいたいって思うのも、本当です〜」
「……」
逃げ道を塞ぐみたいな言い方。
でも、押し付けてる感じじゃない。
理屈で否定しづらい。
「……」
言葉が出ない。
「三田さんは〜」
今度は、こっちに振ってくる。
「どうなんですか〜?」
「……なにが」
「滝川と一緒にいて〜」
一瞬の、間。
「楽しくないですか〜?」
「……」
いや、それは
言うまでもなく
「…楽しいよ」
小さく、認める。
「えへへ〜」
すぐに笑う。
「じゃあいいじゃないですか〜」
「良くないだろ」
即答。
「なんでですか〜?」
「なんでって…」
言葉が詰まる。
「……」
自分でも、はっきり説明できない。
でも、不安だ。
「……怖いんだよ」
ぽつりと出る。
「えっ?」
「いや…」
誤魔化そうとする。
でも、
「…なんか、やっぱり全部が急すぎて」
「……」
「現実味がないっていうか」
笑う。
自嘲気味に。
「そのうち、全部なくなりそうで」
「……」
そこまで言って、
(何言ってんだ僕)
と我に返る。
「……」
でも、
滝川さんは笑わなかった。
ただ、
じっとこっちを見ていた。
だけどすぐにニヤリと口角が動いた。
「!?」
「三田さんって、結構重いんですね〜」
「うっ!?」
「会ったばかりの滝川の事、惜しいと思ってくれているんですね〜?」
「いやいや、そんな事は一言も…!?」
「言ってます〜…安心しました〜激重感情を持っているのが滝川だけじゃなくて〜」
「えっ…いやっ…その…」
「怖いって言ったのは〜」
指を一本立てる。
「滝川と一緒にいるのが怖いんじゃなくて〜」
「……」
「なくなるのが怖いってことですよね〜?」
「……」
(……そう、だけど)
言い当てられると、余計に言いづらい。
「それって〜」
再びにやっと、口角が上がる。
「結構大事にしてくれてますよね〜?」
「してないしてない!」
反射的に否定。
その場合のしてないも少し妙な受け答えだと自分でも思った。
「してます〜…だって〜」
少しだけ声を落とす。
「なくなってもいいものなら〜」
「……」
「怖いなんて思わないですし〜」
「……」
言葉が詰まる。
(…正論かよ)
「……」
何も言えないまま、視線を逸らす。
「三田さんって〜」
横から、覗き込まれる。
「思ってること、ちゃんとあるのに〜」
「……」
「すぐ否定するので〜」
「…うるさい」
小さく返す。
「図星ですか〜?」
「うるさいって」
でも、強くは言えない。
「えへへ〜」
満足そうに笑う。
でも、
さっきよりほんの少しだけ、声が柔らかい。
「安心しました〜」
(なんでこんな感じで割としっかりと精神抉ってくるんだよ…)
つづく




