自宅到着
僕は自宅に向けて歩き出す
ソレに着いてくる滝川さん。
さっきみたいに取り乱しはしない。
僕の顔色をうかがっている。
「次また同じ事したら、本当に放置するからね」
「…はい〜…」
しおしお声。
「君がカエルって単語を出したら放置」
「分かりました〜…」
「カエルを思い浮かべたら放置」
「あぁ〜…」
我ながら理不尽な事を言う。
「…さっきは本当に捨てられると思いました〜…」
「……」
「怖かったです〜…」
鼻声。
まだ泣いた後の声だ。
僕も普通にゾワゾワするって意味で怖かったけどね。
「……」
「えっ!?捨てるんですかッ…!?」
何も言っていないのに…
いや、何も言ってないからこそか。
滝川さんは本気でしおらしい。でも油断するとこの子、コロっと暴走モードに入るからこのままでも良いような気がする…
多少の罪悪感はあるけど。
滝川さんの呼吸が荒くなってきた、流石にヤバいと思い僕は少しだけ歩幅を緩める。
「…本気で捨てる気ならとっくに振り払ってるから…」
「!!」
滝川さんの目が見開かれる。
「しかし…!君、軽はずみ過ぎるからしばらく反省してなさい」
「…はい〜…」
(偉そうに…)
セルフツッコミ。
滝川さんは少しだけ隣に寄ってきた。
跳ね除けることも出来るけど…流石にそんなゴミムーブはしない、ただ調子には乗らせない。
突き放しもしない、調子に乗らせない、これくらいが今のこの人には丁度良いのだと思う。
滝川さんは怒られた後の大型犬の如くシュンとしつつも僕の隣を歩く。
そうこうしているうちに自宅が見えてきた。
駅からさほどの距離はないのだけれど、倍かかってしまった。
「…静かですね〜…」
「ど田舎だって言いたいんだべ…?ン?」
滝川さんは首をブンブン振る。
「だから〜…違いますって〜…」
「君はさぞかし栄えた街の暮らしなんでしょうな〜」
「栄えてないです〜…」
「滝川さんどこから通ってるの?」
「秘密です〜」
「なんだオメー」
着いた。
立ち止まる。
「?」
滝川さんが僕を見る。
「…ここ」
「!!」
滝川さんの目がぱぁっと開かれる。
「ここ…!三田さんのお家ですか〜…!?」
「声デカい」
「あっ」
慌てて口を押さえる滝川さん。
きょろきょろと周囲を見て、また家を見て、
落ち着きなく視線が動く。
「へぇ〜…」
なんか妙に感動してる。
「普通の家だよ」
「でも三田さんのお家です〜…」
だからなんだよ。
「……」
じーっと家を見つめている。
本当に目に焼き付けようとしてるみたいに。
「……」
見過ぎじゃない…?
君が眺めているのはただの無人の家だよ…?
「…さては、泥棒に入ろうとしているな…?」
滝川さんの肩が跳ねる。
「え〜!?」
「下見してんだべ?」
「いやいやいやいや…」
また首をブンブン振る。
「滝川は〜…ここが三田さんが生まれ育った家なんだな〜って思って〜…」
と、目を細めて眺めている。
「どうせ明日中に入るんだから良いじゃん」
「えっ…?良いんですか…?」
「え?だってそういう話だったじゃん…」
滝川さんは少しだけ俯いた。
「…てっきりナシになったかと思って〜…」
「じゃあナシにするか」
「いやいやいやいや、無理です無理です〜」
ブンブンと首を振る、その内首と髪の毛が千切れるんじゃないか…?
…さっきから髪の毛が乱れすぎて、夜叉みたいだ…怖。
「…髪すごいよ…?」
「あっ…!!」
滝川さんは慌てて手櫛で髪の毛を整える。
「ボサボサです〜…」
暴れ回るから…。
滝川さんは両髪を解いた。
長い髪がさらりと胸元へ落ちる。
「…!!」
ドキッと、胸あたりに衝撃が走った。
髪を解いた滝川さんを初めて見た。
いつものふわふわした雰囲気よりちょっとだけ大人っぽく見える。
というか普通にかなり可愛い。
「……」
「……?」
髪を指で整えながら僕の視線に気付いて顔を上げる。
「どうしました〜…?」
「…いや」
「?」
「なんか…雰囲気違うなって」
「えっ」
滝川さんがぱちぱち瞬きをする。
それから自分の髪に触れて
「あ〜…」
と小さく声を漏らした。
「普段、下ろさないですしね〜…」
「…うん」
「変ですか〜…?」
「…いや…」
変な訳がない。むしろかなり破壊力ある。
でもそれを正直に言うと絶対この人調子に乗る。
「…恥ずかしいです〜…」
「その…似合ってはいる」
普段もたまに髪の毛を解いて欲しい
なんて言えないな。
「…本当ですか〜?」
コクリ。
「…じゃあ〜、たまに髪下ろしてみようかな〜…」
「……」
「三田さん、今目が輝きましたけど〜…?」
マジか。
そんなのバレるんだ。
「明日も髪下ろした方が良いですか〜?」
「…好きにすれば良いと思います」
「敬語〜…?…じゃあ好きにしますね〜」
滝川さんはからかってこない、良かった。
いつもより表情もぎこちない。
そして髪の毛は下ろしたまま。
「…もう帰らないと電車なくなるよ…」
「あー…本数少ないですからね〜」
「田舎をナメてんだべ??」
滝川さんはぷっと吹き出す。
「たまに方言なのが出るの面白いです〜…」
「方言ではないけど…」
「だべはかなりそれっぽいです〜」
「……」
実際こっちの方言ではないんだけど…。
ていうか滝川さんも県外の人じゃないんだろうし、方言だとしたら分かるだろう。
「でも〜」
「?」
「なんか好きです〜」
「えっ」
「地元感あるので〜」
なんだその感想。
え?まさかかなり遠方から通ってる…??
「ちょっ…滝川さん、定期券ある?」
「へえ…?ありますけど…」
「見せて!」
「…?」
不思議そうな顔をして胸元をゴソゴソする。
「はい」
「……」
区間を見る。
「いや、三駅しか離れてねーじゃん!!ふざけんなよ!!」
「え〜…滝川なんで怒られたですか〜…?」
滝川さんは笑いながら、でも少しだけ名残惜しそうに駅の方角を見る。
「…帰るか〜」
「うん」
「……」
そう言った割にまだ動かない。
「…三田さん〜」
「なに」
「明日、本当に行きますからね〜…?」
「だから良いって言ってるでしょ」
「へへ〜…」
そのへへ〜も、
今はかなり控えめだ。
いつもの調子ならもっとベタベタしてくる。
「……」
「…じゃあ」
「?」
「今日はちゃんと帰ります〜…」
「そうせえ」
滝川さんはこくりと頷く。
でもその後ほんの少しだけ迷うように視線を泳がせてから、
遠慮がちに僕の袖を摘んだ。
「…三田さん〜」
「なに」
「滝川、ちゃんと反省してるので〜…」
「うん」
「明日は良い子にします〜…!」
勇ましく拳を突き出す。
「その宣言、信用度ゼロなんだよな」
「えぇ〜!?」
「累計何回暴走したと思ってんの」
たった数日間なのにパッと数えられない。
「うぅ〜…」
「エースコンタクトやるだけだからね」
「…ゲーム機忘れるかもです〜」
「ぜって〜許さねーぞ?」
忘れたらマジで何しに来るんだって話…。
いや、最新作なら普通にオンライン対戦が出来るんだけど。
僕も滝川さんもそれは口実でしかないのかもしれない。
「…最後にちょっとだけ補給したいです〜…」
「補給?」
嫌な予感。
滝川さんは遠慮がちに両腕を少し広げた。
「…ぎゅーです〜…」
嫌な予感って言うか、確定演出か。
滝川さんは両腕を広げたままじっとこっちを見ている。
いつもの勢いはない。
飛びついてもこない。
本当に許可待ちって感じ。
「……」
「…ダメですか〜…?」
ちゃんと帰るって言ったし。
今もかなり気を遣ってる。
彼氏彼女の関係だし、お互いに当然の権利だろう。
「…ちょっとだけね」
「!!」
滝川さんの顔がぱっと明るくなる。
次の瞬間、
ふわっと抱きつかれた。
「……」
かなり控えめ。
でも抱きしめる力は思ったよりしっかりしてる。
長い髪が肩に触れた。
「…へへ〜…」
「補給完了した?」
「まだです〜…」
「長えよ」
滝川さんは小さく笑う。
でもまだ離れない。
「……」
「…三田さん〜…滝川、怖かったです〜…」
「……」
「でも〜…」
滝川さんは小さい声で続ける。
「もっと好きになりました〜…」
「は?」
意味が分からない。
「普通そこは怖かったので距離置きます〜とかじゃないの?」
「そんなわけないです〜…」
「なんでだよ…」
「だって三田さん、本気で向き合ってくれたので〜…」
「……」
なんかメチャクチャ妙な解釈されてる気がする。
つづく




