デートプランといかがわしい漫画
僕達は歌いもせず、食べもせずカラオケ店を出た。
マジで何しに来たんだろうって感じ。
ただ滝川犬を可愛がっただけ。
「三田さ〜ん」
「用件を先に言え!」
「うぅ…怒っています…」
しゅんとする。
全く怒ってはない、ただ相槌を打つのがとても面倒なのだ(外道)
「…明日〜土曜日なので〜どこか遊びに行きませんか〜って言おうとしただけなのに〜…」
「えー、カラオケ行ったりしてるじゃん…」
まあカラオケなんてこれでたったの二回目なんだけど。
「違います〜ちゃんとしたデートです〜」
「えぇ…」
滝川さんは僕の腕にまたぴとっとくっつきながら歩く。
外はもう夜で空気が少し冷たい。
「今日のは〜…」
「うん」
「三田さんにいっぱい可愛がってもらう会でした〜♡」
「認識はあるんだ…」
「大満足です〜♪」
でしょうね。
「……」
でも、
デートって言われるとちょっと考える。
付き合った初日。
カラオケ。
犬ごっこ。
重い会話。
写真撮影。
「…滝川さん」
「はい〜?」
「普通のデートって何するの」
「えっ」
「……」
「……」
「滝川さん?」
「滝川、恋人居た事ないので分かんないです〜」
「僕もだよ」
「じゃあ一緒です〜♡」
「一緒とかじゃねえべよ、答えは!?」
滝川さんはふふ〜っと笑う。
「手繋いで歩いたり〜」
「うん」
「一緒にご飯食べたり〜」
「うん」
「同じもの見て、楽しいね〜ってしたり〜」
「……」
「そういうのしたいです〜」
その言い方は珍しく普通だった。
いや、普通というか…年相応というか。
「……」
なんだ。
ちゃんとそういう感覚もあるんじゃん。
「どこ行きたいの」
「!」
滝川さんの顔がぱっと明るくなる。
「えっとですね〜!」
「うん」
「水族館と〜映画館と〜動物園と〜戦闘機見れる所と〜三田さん家と〜」
「おっと、最後のは聞き捨てならないな」
「えへへ〜♡」
「笑って誤魔化すな」
滝川さんは僕の腕にぎゅーっと抱きつく。
「でもまずは〜…」
「?」
「普通のデート、してみたいです〜」
だから、その「普通のデート」って何するの?って聞いてるんですけどね。
「手とか繋ぎたいですし〜、隙あったらチューしたいですし〜、三田さんのお家でイチャイチャしたいですし〜」
「僕の家を候補先にねじ込むなよ」
「だって行きたいです〜」
「なんでそんな家デートに執着するの…」
「二人きりになれるからです〜♡」
即答。
「あと三田さんのお部屋見たいです〜」
「汚いよ」
「見たいです〜」
「男子高校生の部屋なんてロクなもんじゃないよ」
「それが良いんです〜」
何が良いんだ。
滝川さんは、楽しそうに僕の腕に頬を擦り寄せる。
「三田さんの好きなものいっぱい置いてありそうです〜」
「いや…どうだろう」
「好きな人の部屋って、その人の脳みそ見れる感じするじゃないですか〜」
「言い方怖いな…」
「あとベッドありますし〜」
「おい」
「?」
「今なんか不純な気配がしたぞ」
「えへへ〜♡」
誤魔化しやがった。
「……」
でも、
滝川さんは本当に恋人っぽい事に憧れてるんだろうな。
家でだらだらしたり、一緒にコンビニ行ったり、そういう生活感のある距離感。
多分。
でも滝川さんを三田家に招き入れるのはまだ先で良い。
「まあ、水族館、動物園、戦闘機はこの辺じゃ無理だから、まずは映画館からで良いんじゃないかな?」
「映画!!」
「なんか観たい映画ある?」
「ないです〜」
「なんだオメー」
「でも映画館デートはしたいです〜!」
「雰囲気重視かよ…」
滝川さんはこくこく頷く。
「暗い中で隣同士に座るの、恋人っぽいです〜」
「まあ…それは分かる」
「ポップコーン食べたり〜」
「うん」
「腕置きの取り合いしたり〜」
「そんなイベントある?」
「あと途中で三田さんの肩に寄りかかります〜」
「映画観ろ」
「観ます〜」
「絶対観ないだろ」
滝川さんはえへへ〜っと笑いながら、
僕の腕をぎゅっと抱える。
「でも〜…」
「?」
「滝川、映画より三田さん見てそうです〜」
「迷惑客じゃん」
「だって気になるじゃないですか〜」
「何が」
「どういう時に笑うのかな〜とか、びっくりするのかな〜とか〜」
「……」
「あっ今飲み物飲んだ〜とか〜」
「映画館でやる観察じゃねえよ」
「好きな人って見てるだけで楽しいです〜」
「重いなぁ…」
でも。
そういう感覚、ちょっとだけ分かる自分もいる。
「……」
「三田さんは〜?」
「ん?」
「恋人っぽい事、何したいですか〜?」
「えぇ…」
急に聞かれると困る。
「……」
僕は少し考えてから答えた。
「普通に、一緒に飯食って、適当に喋って、帰るとか…」
「地味です〜」
「お前僕に聞いてきたよな!?」
「聞きました〜」
「じゃあ文句言うなよ!」
滝川さんはけらけら笑う。
「恋人って〜」
「うん」
「エッチな事するじゃないですか〜?」
「滝川さん?」
「滝川達はいつするんですか〜?」
「滝川さん」
「やっぱり三田さんの家に…でも滝川の家でも良いですよ〜?」
「滝川!!」
ダメだコイツ、何も知らないみたいな顔して頭ん中はとんだピンク色だ。
「だって、恋人ってそういう事ありきじゃないですか〜?」
「…間違ってはないけど」
「でしょ〜?」
「それは君が読んでるいかがわしい漫画内でのテンポ感でしょ?」
「!!」
滝川さんの目が見開かれる。
図星か。
「たっ、たったったたた…」
壊れてるじゃん。
「た、滝川、そんなの読みませんっ!!」
「その反応は読んでる人の反応だよ」
「よ、読んでないです〜!!」
「じゃあなんでそんな発想になるの」
「そ、それは〜…」
滝川さんは視線を泳がせる。
分かりやすすぎる。
「担任の先生が〜」
「嘘ぶっこいてんじゃねえ」
「ほ、本当です〜!」
本当だとしたらニュース案件だ。
「ちなみにどういう系を?」
「聞くんですかそこ!?」
「聞かれたくないなら最初から墓穴掘るなよ」
滝川さんはうぅ〜…っと唸りながら、
顔を真っ赤にしている。
さっきまであんな堂々としてたくせに。
「……」
変な所で急に初心なんだよな…。
「…滝川さん」
「は、はい〜…」
「そういうのはね」
「……」
「恋人なら即する、みたいな話じゃないから」
「……?」
「お互いちゃんと安心出来るとか、タイミングとか、色々あるんだよ」
滝川さんは、ぽかんとして聞いている。
「あと高校生だからね僕達」
「……」
「勢いだけで考える事じゃない」
「うぅ〜…」
なんかしょんぼりしてる。
「別に一生しないって話じゃないよ?」
「!」
「ただ、滝川さんちょっと距離の詰め方極端だから…」
「……」
「まず普通のデート覚えようねって話」
滝川さんは数秒黙ってからむぅ〜っと頬を膨らませた。
「……」
「でも〜…」
「今度は何」
「三田さん、真面目過ぎます〜…」
「誰かがブレーキ踏まないと事故るだろこの話…いや、この関係」
「別に〜…滝川だって漫画の影響とか、勢いで言ってないですけど〜…」
ボソボソと、ギリギリ聞き取れるくらいの声量の滝川さん。
「とにかく、そういう話はダメ!」
しゅん…。
「三田さん〜…」
「……」
「滝川って女としてそんなに魅力ないですか〜?」
「その手の漫画の導入みたいになるから答えないでおく」
「あー!!三田さんだっていかがわしい漫画読んでるじゃないですか!!」
「読むよ?男の子だし」
別に隠すことでもないから即答。
「三田さん、そういうの読むんだ〜…」
「読むだろ普通」
「へぇ〜…」
なんだその反応。
「……」
「…ちなみに〜」
「聞かないで」
「まだ何も言ってないです〜!」
絶対ろくでもない質問だろ。
「ど、どういうの読むんですか〜…?」
「聞いてるじゃんか!」
滝川さんは、えへへ〜っと笑いながら、こっちをちらちら見ている。
好奇心全開。
「教えてください〜」
ここまでは答える予定はなかったんだけどな。
まあ良いか。
「NTR」
「……」
滝川さんの表情が石のように固まった。
「意味、分かるよね?まあ、端的に言うと胸糞話だけど…」
「最ッ低ッですっっ!!」
「なんで!?」
滝川さんは本気でショックを受けた顔をしている。
「うわぁ〜〜〜〜……」
「でも創作だよ?」
「でも〜…」
滝川さんはものすごく嫌そうに顔をしかめた。
「恋人とかが取られる話好きって事ですよね〜…?」
「いや好きっていうか…」
「最低です〜!!趣味悪いです〜!!」
「だから創作の話だから!」
「うぅ〜〜〜…」
なんか普通にダメージ受けてる。
「……」
「…滝川さん?」
「三田さん、そういうのに興奮する人だったんですね〜…」
「誤解を招く言い方やめろ」
「うぅ〜…」
滝川さんはちょっと涙目でこっちを見る。
「滝川、脳破壊されました〜…」
「大袈裟だなぁ…」
「だって滝川、そういうの一番嫌ですもん〜…」
「まあ、そりゃ普通嫌でしょ」
「普通とかじゃなくて絶対嫌です〜!!」
声がデカい。
通行人に見られてる。
「……」
滝川さんはむぅ〜っとしたまま、
ぽつりと呟く。
「…三田さん、浮気したら殺します〜」
「だから!創作上の、漫画の話って言ってんだろ!!!!」
「でも読むって事は興味あるって事じゃないですか〜!!」
「違うって!!」
滝川さんは完全に納得してない顔でじと〜っとこちらを見ている。
「……」
「……」
「ちなみにですけど〜」
「まだあるの?」
「滝川が知らない男の人と仲良くしてたらどうします〜?」
「えっ」
急に矛先が飛んできた。
「いや、普通に嫌だけど…」
「!!」
「でもそれだけだよ」
「……」
「付き合ってる以上、他人と話すなとか無理でしょ」
「……」
滝川さんは、ちょっと不服そうに眉を下げる。
「滝川なら嫌です〜…」
「知ってる」
「三田さんが他の女の人と仲良くしてたら、多分ずっと気になります〜…」
「まあ、それは分かるよ」
実際野村さんもまーちゃん(男なのに)も被害受けてるし。
「うぅ…」
滝川さんは分かりやすく肩を落とした。
「滝川、三田さん取られるの絶対嫌ですもん〜…」
「…滝川さん、恋愛って、相手を自分の物にするじゃないからね」
「……」
「好き同士で一緒に居るだけで、所有物じゃない」
滝川さんは数秒黙ったあと小さくぼそっと呟く。
「…でも滝川、三田さんだけのものになりたいです〜…」
「あー…」
つづく




