寂しさ
部屋に戻った途端滝川さんは狂ったように唐揚げ、フライドポテト、パフェを貪っている。
「……」
僕はそんな哀れな少女を横目にスマホを開く。
(いつもだったらこの時間にはとっくに配信始めてるんだよな…)
ちょっと前に配信の話は滝川さんに通したけど…。
なんやかんやで忘れてかけていた。
「…ねえ、そろそろ配信初めて良い?」
夢中でパフェを口に含んでいる滝川さんがギロリと僕を睨む。
(睨まなくても良くない…?)
「滝川がいるのに、配信ですか〜?」
「するって話だったじゃん!!」
「今は状況が違います〜なんか、滝川がスルーされてるみたいでものーーーすごくや〜〜ですっ」
「裏切りだ…」
一緒に喋るって言ってたのに、なんだコイツ…。
結局のところ、滝川という生物をどう扱ったらいいか分からない…。
中身以外は完璧なのに。
「……」
僕はスマホの画面を消した。
(まあ、いいか)
「分かった、今日はやめとくよ」
「… え〜?」
滝川さんの手が止まる。
唐揚げを持ったまま、こっちを見ている。
「良いんですか〜?」
「別に毎日やらなきゃいけないわけでもないし」
「……」
じーっと見てくる。
「…滝川のせいですか〜?」
「半分くらいはね」
「えぇ〜!?」
口を押さえて大げさに驚く。
でも、少しだけ嬉しそうにも見える。
「じゃあ残り半分はなんですか〜?」
「気分」
「適当です〜」
「そんなもんでしょ」
ポテトを一つつまむ。
少し冷めてる。
「……」
滝川さんはしばらく僕を見て、
それから
「…いひひ〜」
満足そうに笑って、
またパフェに戻る。
「そんなに配信が大事なんですか〜?」
「大事って言うか…まあ、習慣みたいなもん」
「ふーん…」
スプーンをくるくる回しながら、
ちらっとこっちを見る。
「…じゃあ今日は、滝川の日ですね〜」
「意味わかんない」
「配信者ガライヤさんが死んだ日です〜」
「殺すな!!僕は配信辞めないよ!!」
「むむむ〜…」
頬を膨らませる。
今日はメチャクチャ膨らむね、フグか何かなのだろうか。
「…配信がメチャクチャ大事ってワケじゃないんだけど、一応、入学前から日課としてやってるから」
「へぇ〜…なんか、滝川、罪悪感が…」
(じゃあ最初からワガママ言うなよ)
「良いさ、どうせ家に帰ってもやる事ないんだし…」
「三田さんは〜家族の人と仲が悪いんですか〜?」
「えっ…」
「あっ…聞いちゃダメでしたか…?」
「……」
「ごめんなさい…」
何度目かの、しゅん。
「いや、良いよ、気にしないで、結論から言うと家族とはあまり会ってないよ、だから家族の仲は分かんない」
「えっ」
僕は滝川さんに話した。
一人っ子だと言う事、両親は仕事でほとんど家に帰らない事、帰ってもいつも一人だと言う事。
「……」
大概やかましい滝川さんは黙って聞いていた。
「あ、だからと言って気に病んでるとかじゃないよ、それが当たり前になっているだけ」
滝川さんは一口炭酸飲料を飲んで
「…寂しくないんですか?」
割と込み入った事に突っ込んで来た。
「滝川は…ママ一人です、ママが夜勤の時は滝川も一人です…正直…寂しいです」
「…寂しいかって言われると、まあ…ゼロではないけど」
「ゼロではない…?」
「うん」
肩をすくめる。
「でも、ずっとそうだからさ、比べるものもないし」
「……」
「帰っても誰もいないのも、静かなのも、当たり前だから、普通」
少しだけ間を置く。
「…楽ではあるよ、気を使わなくていいし、好きなこと出来るし」
「……」
「だからまあ、悪いことばっかじゃない」
言い終えてから、
(なんか言い訳っぽいな)
と自分で思う。
「……」
滝川さんは、少しだけ考えて、
それから
「滝川は〜」
スプーンを持ったまま、ゆっくり言う。
「静かなの、ちょっと苦手です〜」
「そうなんだ」
「音がないと〜、なんか変なこと考えちゃうので〜」
「へえ」
(変なこと考えるだけじゃなくて実行したりしなかったり?)
「だからテレビつけっぱなしにしたり〜」
コップを指でなぞる。
「誰かの声があると、ちょっと安心します〜」
安心、か。
「滝川は、今とっても楽しいです〜誰かと一緒なので、それも三田さんが一緒なので〜」
楽しい割にはワガママ言ったりブチギレたりしてたけど。
「三田さんは〜?今、楽しいですか?」
少しだけ間を置いて、
「まあ…」
ぽつりと続ける。
「一人でいるよりは、楽しいよ」
なんとなく、誤魔化しに近い発言だけど。
「!」
滝川さんの表情がぱっと明るくなる。
「滝川の勝ちです〜」
「何の勝負だよ」
「なんとなくです〜」
満足そうに笑って、
パフェを一口。
「じゃあ今日は〜」
スプーンをくるくる回しながら、
「滝川に甘えても良いんですよ〜?」
「…滝川さんにバブみは感じないけど…どちらかと言うと妹や娘でしょ…」
「じゃあ滝川が三田さんに甘えても〜?」
(じゃあ…?)
「もう十分甘えてるでしょ」
「甘え足りませんけど〜?」
さっきより少しだけ、この時間が長くてもいい気がした。
それと同時に僕の中で黒い感情が渦巻いていた。
滝川さんがいつか僕の事を忘れて、新しい出会いに邁進する事への恐怖が。
つづく




