第12話 ひだまり食堂の新しい風
朝、工房の窓から差し込む柔らかな陽光に目を細めながら、リアナはあくびをひとつこぼした。
昨夜は久しぶりに、満たされた気持ちのまま眠りにつけた。身体の奥に残る心地よい疲労感と、まだ夢の中にいるようなぼんやりとした感覚。それでも、昨晩のことははっきりと覚えている。
「……ほんとに、できたんだよね」
つぶやくと、視線が魔導コンロへと向く。
今はもう魔力を切ってひんやりとしているが、あのときの光と音、そして揚げ芋の味は、今もリアナの中に鮮やかに残っていた。
けれど——
(……まずは、ベルダさんに見てもらおうか)
試作品としては動いた。でも、素材も手順も記録もまだ不完全。この世界の人々に受け入れられるかも、わからない。だからこそ、一番最初に出会った人に試してもらいたい——そんな気がした。
そんなことを考えていたリアナは、魔導コンロの試作品を木箱に詰め、小さな台車に載せて“ひだまり食堂”へと向かった。重さはそこそこあったけれど、台車の車輪がうまく転がってくれたおかげで、なんとか一人でも運ぶことができた。
途中、通りすがりの子どもが珍しそうにのぞき込んできて、リアナは少し照れくさそうに笑った。魔導具だと気づかれないのは当然かもしれない。形はまだ仮のもので、角ばった金属の外装に取っ手がついただけの、ごく簡素な見た目だった。
昼下がりの店内には、まだ数人の客が残っており、窓際の席ではユーグが、いつも頼んでいる温かいスープとパンをゆっくり味わっていた。ユーグはヴァルグレン騎士団の若手騎士で、明るくて食いしん坊な性格だ。料理の香りには特に敏感で、よく新しいメニューに目を輝かせている。
「……本当に、これ一人で作ったの?」
リアナの登場に気づくと、ユーグは食器を置いて目を大きく見開いた。まるで子どもが新しいおもちゃを見つけたかのような顔で、魔導コンロに視線を釘付けにする。
「これ、魔導具なんだよな? すごいな、これであの揚げ芋が作れるのか!」
昨日の匂いで気になってたんだよなぁ、と笑うユーグ。その表情は素直な驚きと好奇心に満ちていて、リアナも思わず口元をほころばせる。
「試作品なんですけど……でも、たぶんちゃんと使えます」
リアナはそう言って、少しだけ不安そうに笑った。
(動いてほしい。ちゃんと、誰かの役に立てる道具になって……)
ベルダがその様子を見て、大きくうなずいた。
「だったら、うちでちょっと試してみようか。すぐには提供には使えないけど、様子を見ながらなら試せるよ」
こうして、“魔導コンロ”のはじめての試運転が、ひだまり食堂の一角で静かに始まることになった。リアナは、胸の奥で小さく手を握るように、その瞬間を待っていた。




