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第11話 小さな完成と、大きなよろこび

夜の工房は、しんと静まり返っていた。


 リアナは机の上に素材を並べ、ゆっくりと息を整える。

 銅板、断熱素材、魔石の台座、そして細かい歯車やネジ。すべては、頭の中に描いた構造図どおりに組まれていくべき部品たち。


 「……熱伝導率の高い部分は、ここと……魔石の出力が逃げないように、ここは遮断層を挟んで。熱が外に漏れず、加熱部分だけに集中するように……」


 小声で確認しながら、金属板を組み合わせていく。魔石をはめ込む位置、加熱部と接触部の間隔、調整輪の回転幅と連動する歯車の噛み合わせ。


 途中でズレが生じれば、発熱が偏って事故になる。だからこそ、リアナはひとつひとつの工程に時間をかけた。


 作業をしながら、ふと昔のことが脳裏に浮かぶ。

 前世、試作機を前に何度も徹夜した日々。工具を握る指の感覚、金属の響き、設計と現実のズレをすり合わせる根気。


 ネジの締め具合や、金属同士の噛み合わせ。

 何度も繰り返していた作業が、今は指先の記憶として残っている。


(……やっぱり、ものづくりって、好きだな)


 その思いが、リアナの手を動かし続けた。


 やがて、作業机の上に据え置き型の金属製の装置が形を成す。

 中央には、魔石を収めるための丸いくぼみ。その周囲を囲うように断熱材を配置し、熱の偏りを防ぐ構造にした。さらに、側面には小型の調整輪。魔力の流入量を変化させることで、加熱の強さを段階的に調整できる仕組み。


 「……理論上は、この構造で熱が均一に伝わるはず……動く、はず」


 魔導コンロ。火を使わず、魔石と制御機構だけで加熱調理を可能にする、未来の道具。


(……試してみないと、わからない)


 リアナは、魔導コンロに軽く魔力を流し込み、小さな鍋を載せた。

 油を少量だけ注ぎ、棚の隅にあった白芋をひと切れ、細く切って入れる。


 「温度は……このあたり?」


 調整輪を指先でほんのわずかに動かす。

 「回転角度は五度未満。目盛りがないから、感覚で合わせるしかないけど……これくらいなら、魔石の出力も安定するはず……」


 機構が微かに“カチリ”と音を立て、天板の下に設置した魔石がじんわりと反応を始めた。

 数秒後、油の表面に小さな泡が立ち始める。


 そして、芋の断面がじゅわっと揚がる音を立てた。


(……できてる)


 油の中でくるくると揺れる芋を見つめながら、リアナは小さく息をのんだ。

 油温はおそらく160度前後。前世で覚えた揚げ音や泡の立ち方からの推測だが、反応速度も予測通りだった。前世で慣れ親しんだ調理音。けれど、この世界ではまだ誰も知らない音かもしれない。


 頃合いを見て、揚げたての芋を一切れ取り出し、そっと口に運ぶ。


 外はカリッと、中はほくほく。

 懐かしい味が、リアナの口の中に広がった。


(この味を、また食べられるなんて……。しかも、自分の設計で)

(……揚げ芋。できた……!)


 試作品はまだ粗削りだし、調整輪の微調整にはコツがいる。断熱材の配置も、改良の余地はある。けれど、それでも。


 これは、リアナにとっての大きな一歩だった。


 作ることができた。理論をかたちにできた。

 この世界でも、きっと便利なものは生み出せる。リアナにもできるんだと、そう思えた。


「……やった……!」


 誰にともなく、ぽつりとつぶやく。


 工房の静けさの中で、リアナの声は、どこか嬉しそうに響いた。

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