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影の権力者

 今回の騒動で拘束したナッシュとガルシアは先日ベルクラインが雇ったことが判明した暗殺者、エルノーガ・ミックティンガーの兄です。

 エリックはベルクラインにこの二人も雇ったのかと事情聴取しますが、彼は否定したとのことでした。

 しかしながら、ベルクラインはエルノーガを雇った際に隣国から暗殺者を雇うためのルートを事細かに明かします。どうやら、自分を失脚させようとした者が漁夫の利を得ることを嫌がったらしいです。


 それに加えてミックティンガー兄弟の証言、更には爆発の前に国王陛下が王宮へと持ち帰らせた教会への訪問者のリストなどから浮かび上がった人物――それこそがエリック及び国王陛下暗殺の首謀者でした。  


「アルグリューン公爵、あなたを国王陛下暗殺を企てた首謀者として拘束する」


 いち早く、国王陛下の特権廃止に賛成していた大貴族、アルグリューン公爵。

 彼が今回の件、更にはベルクラインの一件にも関わっているとして、証拠を突きつけられて拘束されたのです。


 何故、今まで一向に尻尾を見せなかったのにも関わらず今回これほど早く証拠が見つかったのか。

 その答えはやはり国王陛下が命を張ったからでしょう。

 

 いきなり、ひと月後に特権が廃止になると聞いて焦りが生じ、事を急ぎ過ぎて証拠隠滅が雑になっていました。

 陛下さえ確実に殺せば証拠など消さなくても良いくらい考えていたのかもしれません。

 ミックティンガー兄弟を雇うということ自体がかなり無理があったことでしたので、足がつく可能性には目を瞑ったのでしょう。


「結局、あなたの勝ちでしたか。エリック殿下」


 観念した表情でアルグリューン公爵は全ての罪を認めました。

 ミックティンガー兄弟が捕まったという知らせを聞いて覚悟をしていたのかもしれません。

 それほど、あっさりと彼は自分の罪を認めましたので。


「我ら公爵家は幾代にも渡って国家の基盤を支えていた自負があります。だからこそ、我ら大貴族を蔑ろにしようとするあなたが許せなかった」


「…………」


「そして、あなたを後継者として、我らの拠り所である特権廃止を決定した陛下のことはもっと許せなかった。だからこそ、デール殿下を王として私が影の権力者として君臨せねば、この国の根幹が揺らいでしまうと思ったのです」


 大貴族の何代にも渡る特権。

 それはいつの間にか彼らにとってのアイデンティティの一部になっていたのかもしれません。

 エリックは彼にとって尊厳そのものを消し去ろうとしている悪漢に見えていたのでしょう。


「アルグリューン公爵、あなたにはあなたの信念があるのだろう。それまで僕は否定する気はない。僕も自分の信じた正義に従って独りよがりに動いているだけだからね……」  


「……そういう所が厄介だと思っていました。突き進むことしか知らないその愚直さが」


 こうして、国王陛下が大貴族の特権廃止を謳うことにより始まった、陛下暗殺事件は幕を閉じました。

 私がエリックの護衛になってからというもの、様々な出来事が目まぐるしく生じるので、そろそろ落ち着いて欲しいものです。



「ベルクラインの一件に加えて、アルグリューンの一件、レイアには多大なる心労をかけた。聖女の仕事も君以外の二人の聖女に任せられる量まで落ち着いているみたいだし、長期休暇でもどうだ?」


 執拗に暗殺者を送り込んでいた二人が拘束され、聖女の仕事も私の先輩である二人の聖女に任せられるとして、エリックは私に休みを取ることを勧められました。

 

 そうですね。私がいなくとも何の心配もないのでしょうが……。


「動いていないと落ち着きませんし、今の生活が好きなので休みはまたの機会にします。もちろん、身の回りについては落ち着いて欲しいと思っていますが」

 

 いつの間にか、護衛として、聖女として、動いている生活に充実感を覚えるようになっていましたので、私は殿下の申し出を断りました。

 

 今の忙しなさは絶対に落ち着くと思いますから、私にはそれで十分です。


「そうか……。ならば、僕ももう暫くは君の聖女としての働きぶりを見に行くとしよう」


「はい。是非、ご覧になってください。新しい魔法も試してみます」


「それは楽しみだ」


 普段の日常に戻る、とまではいかないかもしれませんが、私の心はこれまでに無いほど穏やかでした。

 エリックも同じなら良いのですが――。

 私は微笑んでいる彼の顔を見てそんなことを思っていました――。



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