聖女と王太子 その2
「ちっ、優男に馬鹿そうな女が増えたところで! ナハハ、俺たちが負けるものか!」
「不意討ち程度で得意気にならないで頂きたいですね」
異常に打たれ強いミックティンガー兄弟はエリックとリンシャの攻撃をまともに受けても立ち上がりました。
どうしましょう。まずは陛下の身の安全の確保ですが……。
「リンシャ、父上を安全な所へ!」
「任せろアル! おっちゃん、リンシャによく掴まってるといいネ!」
エリックの指示でリンシャが国王陛下を担いで、猛スピードでこの場から走り去ります。
流石の身体能力の高さです。あの速さなら直ぐに王宮に辿り着くでしょう。
「た、ターゲットが! 待ちなさい……!」
「ここから先に行っていいって許可してないんだけど」
「――っ!?」
ナッシュは信じられないスピードで陛下を担いで離脱するリンシャを見て、慌てて追おうとするのですが、エリックがそれを許しません。
剣を数度打ち合って、ナッシュも強引に抜けるのは無理だと悟ったのか間合いを取って、こちらを睨みました。
「エリック様、この場は私に任せて陛下の元へ。ヨハンさんたちも負傷していますし、救護が必要です」
私は今度こそ二人を自分が仕留めようと、エリックにリンシャを追いかけてもらうように促します。
ミックティンガー兄弟は今までの暗殺者たちと比較にならないくらい強いですから、エリックにもしもの事があったら大変ですし。
「救護が必要なら尚更引けないよ。僕らがさっさとこの二人を片付けて、救援を呼ぶ。そっちの方が早い」
しかしながら、エリックは全く引く気がないみたいで剣を構えて戦う姿勢を見せます。
それは、まぁ。二人で戦ったほうが早いことは確かですが……。
「……正義感も結構ですが、たまにはご自愛下さい。死んでしまったらそれで終わりなのですから」
「あれ? 怒ってる? 僕は死なないさ。君が護衛なんだから。僕も君を死なせない」
「我儘過ぎます。もう少し王太子という立場を弁えた方がよろしいかと。……今回だけですよ」
こうなったら絶対に引かないエリックの性格は存じています。
色々と進言したいことはありますが、今それを言っても仕方ありませんし、目の前の敵を倒すことに集中した方が良さそうです。
今、隣にいるのは王太子ではなく、頼れる戦友として扱うことにしましょう。
「兄貴! 俺たちが仕事に失敗したとあっちゃあ! 裏の世界で笑いモンになる! ナハハ、俺は殺るぜ! 絶対に!」
「ガルシア、男の方から殺りますよ。どうやら彼はこの国の王太子らしいです。あの女も彼を守ることに集中するでしょう」
ミックティンガー兄弟は二人揃ってエリックを狙い挟み撃ちにするように接近します。
私がエリックを守ろうとするのは正解。
ですが、それは彼の身に命の危険があるときのみ――。
「オルブラン流、虎狼閃ッ!」
「なっ!? 迷わず、俺を狙いやがるだと!? ぐっ……!」
エリックはナッシュに完全に背を向けて、ガルシアを狙い打ちします。
ガルシアが思いもよらないエリックの行動に面食らい、一歩後退しました。
「随分と簡単に諦めるじゃないか。ほら、もっと攻めて来いよ」
「調子に乗るなっ! あ、兄貴!」
ガルシアはエリックの怒涛の攻めに圧されて、兄であるナッシュを確認します。
彼はエリックがナッシュに背を向けた意味をまだ理解していないみたいです。
それは即ち――。
「完全に我々を分断した? ガルシアを王太子とやらに任せて良いんですか?」
「エリック様が背中を預けてくれたのです。ならば、私はエリック様が死なないと信じて、自分の背中も預けます」
私はナッシュとエリックの間に割って入り、彼を最初に仕留める事にしました。
護衛としての責務を忘れた訳ではありませんが、エリックは強いです。ヨハンの方がずっと強いと謙遜していますが、スピードは彼の方が上ですし、負けないくらいの実力はあります。
ガルシア一人が相手なら決して殺されはしない――私はそう信じて、背中を彼に預けました。
「聖風、聖光の槍!」
「こ、こんなにも違うのですか。攻めに集中するだけで……!」
先程までは陛下の身の安全に気を遣っていたが為に、術の発動がいつもよりもワンテンポ遅れていました。
しかも、相手は二人から一人に減っていますから、集中力が違います。
「こ、こんなこと、認められません! 私たちは、デルコット王国で名を馳せた――」
「ここはエルシャイド王国ですから。今度は外しませんよ。神の息吹――」
「ぬああああああああっ!!」
本気で放つと死んでしまいますから、加減して放った至近距離からの神の息吹。
それでも効果は十分で、ナッシュは剣を落としてその場にうつ伏せに倒れます。
「流石はレイアだ。もう、倒してしまったか。じゃあ、こちらもそろそろ終わりにしよう」
「ちっ、ナメやがって! 優男が! 俺ァ、テメーみたいな顔が一番嫌いなんだ!」
エリックは剣を鞘に戻して腰を落としました。
そして、ガルシアは激怒しながら短刀を二つ上下に構えてエリックに猛スピードで迫ります。
「オルブラン流、奥義……、一鬼刀閃!」
「へへっ、そう来ると思ったぜ! がら空きの背中! 貰った!」
エリックが素早く抜刀してガルシアを仕留めようとしましたが、彼はそれを読むかのようにエリックの背後に回り込みます。
そして、エリックを背中から刺そうとしますが――。
「う、動けない! こ、この鎖はなんだ!?」
「君、いつまで僕と一対一のつもりだったんだい? 何の策も無しに、あんな大振りするワケがないだろう」
「光鎖の呪縛……!」
ガルシアがエリックの背後に回ることは何となく読めましたので私は光の鎖で彼を捕らえる事に成功しました。
この光の鎖は術のスピードが遅いので動きを先読みするか、余程油断している相手にしか効かないのですが、今回は二つの条件が重なってくれたので良かったです。
「終わったな。僕たちの勝ちだ」
エリックは私を見ながら右手を高く掲げます。
ええーっと、それは、そのう。ハイタッチというものをしようとされているのでしょうか?
「エリック様が、そういうことをされるとは意外です」
「真顔でそう言われると恥ずかしいじゃないか」
背伸びして彼の右手に自分の手を合わせた後に、感想を述べますとエリックは恥ずかしそうな顔をされました。
恐らく思った以上に気分が高揚していて、変な行動を取ってしまわれたのでしょう。
こうしてナッシュとガルシアという隣国の大物犯罪者を捕えた私たちは、急いでヨハンたちの救護の手配をしました。
国王陛下はリンシャによって無事に王宮へと運ばれており、今回の国王暗殺の大騒動はひとまず落ち着いたのです。
これだけ派手に暗殺を目論んだのですから、黒幕の正体もきっと判明するでしょう――。




