聖女として、命を賭して
凶暴過ぎるが故に、デルコット王国で半ば野放しにされている暗殺者の兄弟、ガルシアとナッシュ。
ヨハンやアルフレートなど、国王陛下の護衛たちは次々に倒れてしまい、まともに動いて陛下を守ることが出来る者は私一人になってしまいました。
「たかが、風くらいで私たちを止められると思わないことですね」
「ナハハハハ、まずは腸を抉りだすだろ? それから、目玉をくり抜いて――食らってやる!」
「…………」
エリックの護衛となってから何人もの暗殺者を捕らえています。
しかし、暗殺者といえども人ですから、殺傷能力が低い魔法で生きたまま捕らえるようにしていました。
この二人にはそんな遠慮は不要みたいです。
多少手荒な真似をしても致命傷までにはならないでしょう。
「聖光の大槍――!」
「なっ――!? こ、今度は槍ですか!」
「畜生! ナメんな!」
私は頭上に魔法陣を展開して巨大な光の槍を放ちました。
二人がこちらに向かって再び飛びかかろうとした瞬間を狙ったので、彼らは面食らった顔をして慌てて大槍を躱します。
「陛下、今です! この場から早く離れましょう!」
「うむ。そ、そうだな……」
ガルシアとナッシュが怯んでいる間に陛下をここから安全な場所に逃げてもらおうと、促しました。
陛下のお命を最優先にして守らなくては……。エリックの悲願のためにも、私が命を賭して陛下だけは。
「ナハハハハ! そんなオッサン連れて逃げられると思うな!」
「――くっ、聖光の短刀!」
「ちっ、連発出来るのかよ……! ぬぐっ……!」
小柄で素早いガルシアは一瞬で私と陛下との距離を詰めてきます。
接近を感知した私は光のナイフを放ちます。二本、三本、四本と魔法陣から勢いよく飛び出すナイフをガルシアは自らの短刀で光のナイフを叩き落としまたが、五本目と六本目のナイフには防御が追い付かずに肩と足を負傷してその場に倒れました。
「さ、さすがはレイア殿……、この状況でミックティンガー兄弟を……」
「あの女も腹立だしいですが、仕事はあくまでも国王を消すこと。ガルシア、陽動ご苦労さまです」
「――っ!? 聖光の短刀!」
しかし、ガルシアに気を取られている間にナッシュの凶刃が陛下の首元に迫ります。
私の特技はノーモーションからの術式の発動――今度はナッシュに向けて光のナイフを放ちました。
「ほう、見なくとも私を正確に攻撃しますか。しかしながら、段々余裕が無くなってきましたねぇ」
ナッシュは光のナイフを軽々と剣で弾きながら、バックステップで間合いを広げます。
苦しいですね。彼の言うとおり余裕はありません。
一人、一人が強い上に、陛下を守りながら戦うとなると、どうしても後手に回らざる得ないので決め手に欠けるのです。
「レイア殿、ワシが足を引っ張っとることは分かっておる。ワシに構わず、あの連中を仕留めてくれ……! そして、連中を雇った痕跡を辿り、黒幕を見つけ出すのだ! それこそがワシが自らを囮とした理由なのだから!」
国王陛下は私に自分を守ることよりもミックティンガー兄弟の拘束を優先するように命じられました。
陛下の覚悟は存じております。ですが、ですが、私は――。
「聖女として、エリック様の護衛として、陛下の命令に従うわけにはいきません。私には私の義がありますから!」
「レイア殿……!」
魔力を両手に集中させながら私は陛下の意向には添えないと告げます。
今はほとんど出現しないドラゴンなどの大型の魔物を仕留めるための魔法――今まで使ったことはありませんが、一か八か、大魔法で二人を戦闘不能にまで追い込んでみせましょう。
「そろそろ、決めさせて頂きますよ」
「ったく、隣国まで来てこんなに苦戦するとは、な~~。ナハハハハ!」
ナッシュとガルシアは空中にジャンプして同時に攻撃を仕掛けてきました。
二人を一度に仕留めなくては、陛下に危険が及びます。
よく狙いを定めて――。
「神の息吹!」
「「――っ!?」」
両手から放つ、全てを吹き飛ばす神の息吹――かつて大聖女がこの大陸に住まう全ての人々を絶望させたという漆黒の巨竜を討伐したという聖女にしか扱えない魔法。
まだまだ実力不足の私では巨竜を仕留めるなど、とても無理ですが暗殺者二人を吹き飛ばすくらいは――。
「あ、危ないところでした。狙いがズレて無かったら我々は――」
「なんつー女だ……」
こ、この状況で失敗してしまうとは。初めて大魔法を使ったので魔法を放つ瞬間に反動で腕がブレてしまいました。
とにかく、こちらに向かってくる二人を迎撃しなくては。
しかし、既に彼らは目前に迫っており急いで術式を発動しても――。
「聖光の短刀!」
「そいつはもう、慣れたぜぇ~~! ナハハハハ!」
「ガルシア、ナイスです! 今度こそ仕留めます!」
私の放った光のナイフは全てガルシアに弾かれて、その後ろからナッシュの剣が陛下を狙います。
陛下の命令を無視した上に、お守りすることすら出来ないとは――。
エリック、申し訳ありません。あなたの夢を――。
「オルブラン流、空蝉流し……!」
「リンシャ、本気で殴るヨ!」
「き、消えた……!? ぐはっ……!」
「ぶはぁっ!!」
私がエリックに心の中で謝罪を述べようとした瞬間、ナッシュの剣は空を切り、背中から血を流して膝をつきます。
そして、ガルシアは突然現れたリンシャによって殴り飛ばされました。
「レイア、よく父上を守ってくれた。礼を言う」
「エリック様……。助かりました」
片腕で陛下を抱えて、剣を携えているエリックが私に声をかけます。
ナッシュとガルシアに意識を集中していて、二人が助けに来てくれていた事に気付けなかったみたいです。
エリックの顔を見た瞬間、張り詰めたものが溢れて涙が出そうになりました。
まだ、油断してはならないのですが、何故か私は安心してしまったのです。もう大丈夫なのだと――。




