隠し事
乙女にとって、烏山の事は誰にも話したくない事だ。
それは勿論、丘夏にも。
何故なら乙女にとって烏山とは忌み嫌う対象でしかないからだ。
聖の言う通り乙女は昔、烏山の人間だった。
だが乙女は烏山が嫌いだった。幼い頃からずっとずっと嫌いだった。
烏山である事が恥じるまでに嫌いだった。
だから乙女は烏山であった事を隠した。
絶対に誰にも知られたくない事だったから。
そのはずだった。
「でも……丘夏なら、いい」
「え?」
「話す。烏山について丘夏に話す……ううん、丘夏に話したい」
今の乙女は丘夏に知ってほしいと思っていた。
この事を、烏山と自分の事について話したかった。
話してどうなるかは分からない。
苦しくなるだけかもしれない。楽になるかもしれない。
もしかしたら丘夏を嫌な気分にさせてしまうかもしれない。
それでも……乙女は丘夏に知ってほしかった。
烏山の事を、何より──自分の事を。
「……いいの? 話したくない事なんじゃ?」
「うん。丘夏こそ、嫌な話になるかもしれないけど……いい?」
「勿論。乙女ちゃんが話したいって言うなら聞くよ」
胸を叩く丘夏。
本当に頼もしく、カッコ良い。
自身の胸が熱くなるのを感じながら乙女はありがとう、と丘夏に礼を言った。
そして乙女は語り出した。
烏山と、自身の過去話を。
※※
「急に烏山家について調べたいとはどういう吹き回しですか聖様?」
「どうしても気になる事があってな。それにこれは後々のために必要な事なんだよ」
「はあ……よくは分かりませんが承りました。烏山家、その当主について調べれば良いのですね?」
「ああ。よろしく頼むぜ」
「ちなみにどうしてかというのはお聞きしても?」
「超断る。特にテメェには教えたくねぇ」
「おや、手厳しい。しかも教えてはいけない、ではなく教えないというのが何とも……」
「今回の事に関してはテメェは信用ならないからな。そんだけの話だ」
「……ならばもう一つお聞きしても?」
「なんだよ?」
「先程、那須野さんの部屋を尋ねていたようですが……それと何か関係は?」
「あん? テメェ、見てやがったのか?」
「いえ、見ていませんがカマをかけてみました」
「……」
「……」
「……オレ、テメェの事嫌いだわ」
「わたくしめは聖様の事が好きですよ。……それでは話を聞かせてもらいましょうか?」




