それでもいい、それでもいいからゲームしよう
あれから三十分が経過した。
丘夏の隣に座る乙女はずっと無言を貫いている。
だから丘夏も何も言わなかった。
ただ横にいた。何も言わずに、乙女のそばにいた。
だが、それも限界だった。
意を決したその場から丘夏は立ち上がる。
そして部屋の奥へと向かうと──コントローラーを手に乙女の元へと戻った。
手に持ったそれを丘夏は乙女に手渡した。
「はい、乙女ちゃん」
「……え?」
「少し遅くなったけどゲームしようよ。今日は朝までやるんでしょ?」
「……」
「今日は負けないからね」
「……うん」
そして丘夏達はゲームを始めた。
いつも通りに。何も起こらなかったように。
※※
画面にK.Oの文字が出る。
結果は分かり切っていたので丘夏は何とも思わない……というわけでもなく、負ければやっぱり悔しい。
なんだかんだで丘夏は負けず嫌いなのだ。
すぐに再戦を始める。
「相変わらず容赦ないね乙女ちゃん……」
「ガードが甘い。だからカウンターをすぐもらう」
「アドバイスありがとう。でも、言いながらコンボを喰らわすのは止めてくださいマジで」
みるみる内にに丘夏の使うキャラの体力が減っていく。
どうやら今回も丘夏の負けらしい。
「くっそ……もう一度だ乙女ちゃん! 今度こそ地に這い蹲らせてやる!」
「……丘夏、もう始まってる」
「え、嘘⁉︎ って、もう体力が……死んだー⁉︎」
惨敗だった。というより乙女の体力を一ミリたりとも削れていなかった。
あまりの結果に丘夏はベッドの上で転がる。
気合を入れたというのにこのザマだ。穴があったら入りたいくらいだ。
それを見た乙女がクスクスと笑った。
「やっぱり丘夏って、面白い」
「それってからかいがいがあるとかそういう意味じゃないよね……」
「ううん、本当に丘夏は面白い。それに……優しい」
乙女はコントローラーを床に置くと、座ったまま天井を見上げた。
「丘夏はどうして何も聞かないの?」
「初めはそうしようかと思ったんだけどね。乙女ちゃんが聞かれたくなさそうだったから。なら嫌な事を聞くより、楽しい事をやった方がいいかなって」
「その考え方……嫌いじゃない」
「でしょ? よくある漫画だったら、ここで僕が乙女ちゃんに色々と聞き出そうとする場面なんだけど……僕、そういう柄じゃないしね」
「……」
「だからさ、話したければ話してよ。話したくなければそれでもいいからゲームしようよ。僕はただ乙女ちゃんと笑って遊べるんなら何でもいいからさ」
「……それでいいの?」
「勿論」
丘夏はベッドから起き上がる。
自然と乙女と目と目があう。
丘夏は笑った。乙女も笑った。
笑いながら涙を一粒流した。
「本当に……優しいね、丘夏は」




