親父さん頭大丈夫?
事が起こる三十分前。
夕飯を作っている最中にチャイムを鳴らすなり、大金聖がドアを吹っ飛ばすように入ってきた。
そして開口一番にこんな事を言った。
「匿ってくれ」
「……は?」
「いいから匿ってくれ。頼む」
懇願するように聖は頭を下げる。
派手な金髪に、ギラつく吊り目。
眉間は皺をよせていて、『喧嘩上等』と常にメンチを切っているようなようなそんな表情をしている。
これで学ランを着ているのならヤンキーだと断言する事が出来るが、タクシードという服装のせいで凄まじいアンバランス感を生んでしまっている。
まぁ、見た目はアレだが聖はいいところの坊ちゃんなのでタクシードを着てる事には特に疑問を感じる事はないのだが……問題はこんな時間にどうして丘夏の部屋を訪ねてきたのか、という事だ。
「よく分からないけど……まぁ、上がってよ」
「すまん、恩に着る」
何かに焦るように部屋へと上がり込む聖。
この必死さから只事じゃない事が分かる。
冷蔵庫から緑茶を出し、コップに注ぐ。それを聖に渡してやった。
受け取った聖は一気に緑茶を飲み干した。
「で、何があったの?」
「有墨のヤツに追われてるんだ。見つかったら間違いなくブチ殺される」
「……本当に何があったの?」
「ああ、実は今日クソ親父が開いたパーティーがあって仕方なく参加したんだが……」
『……おい、クソ親父』
『どうして我が息子よ?』
『さっき烏山家の令嬢がオレのところに挨拶に来たんだが……テメェ、勝手に烏山家の令嬢と婚約を結ばせやがったな……?』
『不満か?』
『それ以前の問題だ馬鹿野郎! オレはまだ誰とも結婚する気はねぇって前々から言ってんだろうが!』
『分かっている。だからこうして婚約に留めて……』
『それで妥協したつもりでいるんだったらブン殴るぞ⁉︎ んなもん、破棄だ、破棄!』
『ほう。つまりお前は私が親心を持って結んだ婚約を破棄するつもりだと?』
『何が親心だ! どうせ烏山家の令嬢がテメェ好みのロリだったから婚約を結んだんだろ⁉︎ 前回の事を懲りてねぇのかよ!』
『あ、あれは向こうが悪い! あの見た目で三十路を過ぎてるなんて誰にも思わないだろう!』
『ついにロリコンを認めやがったなクソ親父! 勘当だ! 勘当! 逆勘当してやる!』
『そんなもの認めるか! お前の婚約は既に決定済みだ! お前は烏山家の令嬢を嫁としてもらってくるのだ! そして私は黄色ちゃん(烏山家の令嬢)と幸せな日々を送るのだ!』
『させるかボケッ! テメェの思い通りには絶対にならねぇぞクソ親父ぃっ!』
『なっ⁉︎ どこへ……⁉︎』
『後で烏山家を適当に荒らしに行って婚約の件をなかった事にする! それまでは絶対テメェの元には帰らねぇからな! あばよ!』
『そうはさせるものか……! メイド、執事達よ! 全総力をもって聖を捕まえるのだ! ついで手足の一本は取って構わん! 地獄を見せてやれ!』
『明らかに息子に使う台詞じゃねぇだろそれええええぇぇぇぇっ‼︎』
「……というわけだ」
「親父さん頭大丈夫?」
「いや、駄目だ」




