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しもつけそう。  作者: 白菜
閑話3 アパートの住民
28/61

ぱ、パシリなんかじゃないんだからねっ⁉︎

「ここが『204』号室だよ」




 穂花に案内され、ようやく丘夏は『204』号室に辿り着いた。

 背負った荷物を床に置き、丘夏は部屋全体を見渡す。

 十畳を超える広い部屋、奥には古びたキッチン、洋室などが見える。

 なにせ周りには何もないので少し寂しい感じはするが、住み心地は良いと評判だったので特に問題は無いとは思う。


「何もない」

「来たばっかりなんだから当たり前だよ。……というよりどうしてここにいるの?」


 何喰わぬ顔で部屋に上がり込んでいるところ悪いが、普通に不法侵入だろう。


「暇」

「そっかー」


 そう言われてしまえば何も言えない。


「補足するなら乙女ちゃんは何か手伝える事がないか善意でやって来たんだよ」

「そうなの?」

「暇」

「これは照れ隠しってやつなんですかね?」

「いや、素で言ってると思うよ」


 どっちなんだ。


「手伝える事があるなら手伝うのは本当。力仕事は苦手だけど」

「ありがとう。助かるよ」

「乙女ちゃんがやるならわたしも手伝おうかな?」

「大家さんは暇なんですか?」

「ううん。でも部屋にいるとクレームとかセールスだとかそういうのがくるからうんざりするんだよね」

「それって職務放棄なんじゃ……」

「違うよ。偶然、たまたま出かけてて部屋にいないだけだよ」

「……はい、そうですね」



「『変な人がいます』なんて深夜に呼び出し……家賃は滞らせる……挙げ句に鍵を無くす? どうしたらいいですか、ってまず無くすなよ……! 警察からの呼び出し? 知らないよそんなの……! というかどうしてわたしのところなの……!? こっちは電話の対応に忙しいっていうのに……どうして皆、何かやらかすの? ねぇ、どうして? どうしてなの? どうしてなの……!?」



 やばい。これは地雷だ。

 目を虚ろにブツブツとドス黒い何かを吐き出す穂花を見て、丘夏は二度と大家さんに仕事について聞くまいと誓ったのだった。

 ……大家の仕事は楽そうに見えるが、実はとても辛い仕事なのかもしれない。

 とりあえず、穂花の事は置いとき引っ越しの件を片付けなければ。

 丘夏はフローリングの床に置いておいたバッグを広げ、近くにいる乙女を呼び寄せた。


「はい、これあげるよ」

「何これ?」

「えっと、こういうのって挨拶品って言うんだっけ?」


 要するに『つまらないものですがって』、引っ越ししてきた人が近所に住む人に渡す例のアレである。

 ちなみに渡したのは新品のタオル。

 言葉通りにつまらないものだ。ぶっちゃけ、丘夏だったら即座に押入れに押し込むほどに要らない。

 だからと言って、「つまらないものなら要らない」なんて言えるわけもないし、渡された方は困るだけなんじゃないだろうか。いや、渡したのは丘夏なわけだが。

 だが、そういう事を顔にも口にも出さないのが社会人の対応だと──




「……食べ物がよかった」

「うん、本当ごめんね……」




 ──この後、顔にも口でも不満をあらわにした乙女に丘夏はコンビニにダッシュでプリンを買ってくるのだった。

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