第四話 9/5その4
幸せが続くと怖い。
今ある幸せがピークなんじゃないかって錯覚に不安を覚える。
もうあんな不幸な事、二度とないんだ。これが幸せのピークなんじゃない。始まりなんだ。
そう杞憂に過ぎない。
くだらない。
くだらないくだらない!!
私はずっと苦しんできた。これ以上の不幸はもうないはず。ここからは溜まった幸せをもらいうける時なんだ。
「・・・静香?」
その声で私はハッと我に返る。
「あ・・・何?」
「なんかボーッとしちゃってたから・・・どうかした?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ・・・。」
「どーせまた彼の事なんでしょうー!この浮かれもんがー」
そういいながら彼女はニヤニヤしながら私の首をしめる。
「ちょっと!違うって、違うわよ!もう!!」
「うそおっしゃいー!白状しろーこのラブラブバカップルめー!」
「なにそれー!違うって言ってるじゃないの。もう・・・幸恵ったら!」
彼女は御堂 幸恵。私の高校以来の悪友だ。
高校卒業と共にバラバラの道を行くんだねーって泣きながら騒いでたのに、なんの因果かたまたま同じ職でまた出会ったという・・・これも運命なんだろうか。
「まぁそれは冗談としてさ、どうなのよ彼とは。うまくいってんの?」
「まぁーね。問題がまるっきりないわけじゃないけど・・・。」
「問題?何何?気になるなぁ。彼とは体の相性が悪いとか・・かな!」
「ばか!違うわよ。そうじゃなくて」
「ってことは彼とは体の相性はいいわけだー!へぇーへぇー!!」
「ちょっと、違うって!もう・・・幸恵ってほんと昔から変わらないよね。」
「そーゆー静香も全然変わらないじゃない。」
こういうオヤジ臭い彼女も私は結構好きだったりする。
「うーん・・・なんか論点ずれてるんだけどー!」
「あはは!ごめんごめん。で、問題って?」
「うん。私のおじいちゃんね・・・。」
「あー・・・あのガンコじいさんかぁ。」
ガンコじいさん・・・そんな言い方しなくても・・・。
「あのじいさん、ほんとガンコだよねー!私が前遊び行った時、ちょっとお菓子食べようとしたらいきなり文句だもん。びっくりだよ!」
「あ、あのねー。それは幸恵が勝手に人のお菓子食べようとしたり、ましては外から帰って手も洗わずに素手で食べようとしたから悪いんでしょー。」
「そうだっけ?でもいきなり怒る事ないのにさー。」
「・・・ふぅ。」
「で、そのじいさんが彼との事、反対してるわけだ。」
こういう事は鋭い子なのよね・・・。
「べ、別に反対してるわけじゃないんだけど・・・。」
「でもいい顔はしないんでしょ?」
「うん・・・。彼の話になると無口になって部屋に篭っちゃうし・・・。」
「でもまーしょーがないのかもね。あんたんち、だいぶ前からじいさんとあんたの二人暮らしでしょ?そりゃ孫娘が取られると思ってさびしいんだよ。」
「やっぱりそうなのかなぁ・・・。」
「そりゃーそーでしょ!」
やはり祖父は私を取られると思っているんだろうか・・・。
「それかさぁ」
幸恵が何か思いついたかのようにしゃべりだした。
「彼、婿にもらっちゃえばいいんじゃない?そうすりゃじいさんも多少は納得するんじゃないの?」
「うーん・・・それは私も考えたけどね。でも彼も長男だし・・・。」
「そっかー・・・まぁなんとかなるって!元気だしなよ!」
「ん・・・ありがと。」
彼女のこういう所がいつも私を支えてくれる。
そう思った瞬間、午後の予鈴が鳴る。
「あ・・・やっばーい。私今日はクレーム回答担当だったんだ!もう行くね。じゃね!」
「あ・・またね。」
そういうと彼女は自分のオフィスへ走って行った。
私も午後の仕事の準備にかからないと・・・・。