第二十三話 一つの可能性
「・・・そうだ。」
俺は肝心の場所を忘れていた。
「長谷川さん、俺まだ兄貴がよく行ってたスポーツクラブに行ってないです。」
「スポーツクラブ?」
そう。兄貴は必ず仕事帰りや、休みの日はそこへ寄っていた。
「ええ、△△スポーツクラブってところなんですけど。」
「へぇ、奇遇だね。僕もそこへはよく行くんだよ。」
「そうなんですか?」
「うん。会社と家の往復じゃ体がなまるしね。」
「はぁ・・・。」
「とりあえずそこに行ってみようか。」
他に行くあてもなかったので俺たちはそこに向かう事にした。
「・・・そういえば。」
俺はハッと思いついた。
「そういえば、和弘のやつロープを買った領収書を自分のデスクに入れてたって言ってましたよね?」
「うん、そうだね。それが?」」
「俺思うんすけど、普通自殺しようとした人間が律儀に領収書を会社の経費で落とそうとするでしょうか?」
「・・・そう言われればそうだな。これから死のうって為に買ったロープの領収書を律儀に取っておくわけがない。」
「ですよね。」
「・・・すると渡辺君は他意があってロープを買ったって事になる。」
「ということはつまり・・・。」
「自殺の可能性は薄れてくる・・・。」
俺たちは新たな可能性を見出せてきた。・・・がそれと同時に恐怖感が生まれる。
まだ仮定の段階だとはいえ和弘が自殺ではない可能性が出てきた。
これはつまり和弘を殺した犯人がいるという事だ。
「・・・和弘は何か恨まれる事でもあったんですかね。」
「さぁ・・・。少なくとも会社では嫌われるような人柄ではなかったよ。」
それはそうだ。
昔からあいつはどちらかというと人なつこく人に好かれるタイプだったし、ましてや殺される程の恨みを買う人間なんかではなかったハズだ。
「・・・渡辺君がなんの意図があってロープを私用で購入したか。それを調べる必要がありそうだね。」
「そうですね・・・。何かの手がかりになるかもしれない。」
「長谷川さんロープの領収書、どこの物だかわかります?」
「たしかこの近所の三島雑貨店だったハズだよ。」
「そこに行ってロープを売った店主に少し話しをうかがってみますか。」
俺たちは進路をかえ、三島雑貨店に向かう事にした。