第二十二話 苦いコーヒー
苦い記憶が私の中にふつふつと蘇る。
それは遠い昔。
兄が私を守ってくれた記憶。
その頃はやさしい兄と大嫌いな叔父夫婦がいた頃。
兄はいつも私の味方だった。その頃は兄しか信じられるものはなかった。
しかしそんな兄との別れは突然だった。
それと同時に大嫌いな叔父夫婦とも決別できた。
まるで幸運と不幸が同時に舞い降りた感じだった。
しかしそれ以降の記憶は曖昧だ。
まるで記憶にノイズがかかった様な画像になってしまう。
なんでこんな昔の事を思い出すんだろう。
嫌な事を思い出すときは決まって嫌な事が現実に起きる時だ。
私は街中でたたずんでいた。
祐二が見つからない。
「あ・・・静香?」
私を呼ぶ声に鋭く私は反応したが、すぐに期待は薄れた。
「あ・・・幸恵。」
「こーんなところで何してるの?」
「うん・・・。」
今回の事はただごとではない。幸恵にも相談した方がいいのだろうか。
一瞬躊躇したが、私は幸恵に祐二が失踪した事を話そうと思い、近くの喫茶に入ろうと言った。
「・・・ふーん、そう・・・祐二さんが。」
「どこに行ったんだろう・・・。」
「・・・・静香。」
幸恵は神妙な趣きで私に話しかける。
「何?」
「・・・あ、ううん、ごめん勘違い。忘れて。」
「・・・?」
なんだ?幸恵の言動にひっかかりを感じる。
「幸恵、何か心当たりでもあるの?だったら教えて!」
「いや、心当たりなんて・・・祐二さんになんて最近会った事もないし・・・。」
「そ、そうよね・・・。」
当たり前・・・そう当たり前といえば当たり前。
ではさっきの幸恵の神妙な顔つきはなんだったんだろうか。
「静香・・・。大丈夫よ、きっと祐二さんは帰ってくる。だから気をつめすぎないで。」
「幸恵・・・。ありがとう。」
幸恵の言葉が私の心を少しだけ穏やかにしてくれた。
「あ・・・私ちょっと用事あるしそろそろ行くね、コーヒーご馳走様っ。」
「そう・・・。またね。」
そういうと幸恵は足早に去っていった。
特にあてもなくなり、日も暮れてきたので私は祐二の家にもう一度寄ってから帰ろうとした。
おじいちゃんにはあれから特になにも言っていない。
まだ祐二がいなくなった事すら知らないだろう。
9/6に会わせる約束だったが、急な仕事が入ったと伝え祐二の事はそれきり家では口にしていない。
修二君は何か手がかりを掴めただろうか。
私は足早に祐二の家に向かう事にした。




