第二十一話 狂想曲
「へぇー。そうなんだ。あ、そうだ長谷川さん後で渡辺君に言っておいてくれる?事務用品出しすぎないようにって。あの人一番出してるし、文句言われるの私なんだから。」
「あ、それとついでにこれ渡辺君の家に届けておいてくれるかしら。」
私はそういうと持っていたあいつの印鑑を長谷川に手渡した。
「ああ、届けておくよ。」
長谷川は愛想のいい笑顔でそれを受け取った。
「ありがとうー。じゃあ私は行くね。また会社で。」
私は足早に来た道を引き返した。
正直彼の印鑑を持っていた事はラッキーだった。
とっさに思いついたウソにしてはまぁまぁだったと自分でも思う。
それよりのんびりしている時間はなかった。
急いで彼に会わないと。
焦燥感に押されながらも私は例の場所に向かった。
「やっぱりまだここにいたのね。」
私は彼を発見した事に、ホッと胸をなでおろしたと同時にあの子の事を聞く。
「今日はもう静香にあったの?」
「・・・君か。静香にはあれから会ってない。連絡も入れてないよ。」
「そう。」
静香はまだ知らないんだ・・・。
「どうしてまだ俺に接触する?」
「あなたが気になるからよ。それにまだアレを見つけてないんでしょう?」
「ああ・・・。」
私はゆっくり彼に近づく。
「・・・ねぇ、もうこんな事やめない?こんな事してもどんどんハマって行くだけよ。」
「もう、戻れないんだよ。」
はっきりと、そこだけは強くきつい口調で言った。
「そんな事・・・」
「君にはわからないだろう。まだ終わってないんだ。ここでやめたら今まで俺がした事が全て意味のない事になってしまう。」
「・・・私がいつまでも黙ってるとでも?」
「ははは。言いたければ言えばいい。君もただでは済まないぞ。・・・というか俺がどうするかわからないがね。」
ぞっとした。
彼の目はすでに常軌を逸していた。
私はゆっくり後ずさって彼との距離を開いた。
「・・・大丈夫だよ。何もしない。」
「ねぇ・・・どういう事なの?静香にも内緒なんでしょう?」
「消えないんだよ。」
「え?」
「いつまでたっても消えないんだよ。最近毎日毎晩同じ夢を見る。それはもういい時期だっていう神の報せなんだ。ここまで待った。だから実行に移した。」
彼が意味不明な事を言うが私は彼がもう普通じゃない事を察していたのもあって、軽く聞き流していた。
「・・・すまない。君に何かするつもりじゃなかったんだが・・・脅えさせてしまったな。」
「・・・。」
「悪いがついでだ。俺の家から俺の私物を取ってきてくれ。午後のこの時間帯ならうちは誰もいないはずだ。」
そういうと彼は私に自分の鍵を手渡した。
「・・・わかったわ。」
私は彼の鍵を受け取り小さくうなずく。
「それより俺は君があの件以来いやに協力的なのに驚くよ。どうしてだ?」
「それは・・・。」
それは・・・