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第二話 9/5その2

「ありがとうございましたー!」

俺はさっと客のいなくなったテーブルを片付け、厨房の方へ戻る。

この時間帯はやはり混みやすい。

お昼時はOLやらリーマンやらがドッと押し寄せるので軽く修羅場だ。

「おーい、6番テーブルのオーダーあがったぞー」

「はーい」

うわー・・うまそう・・。

客用の品に手をつけたくなる衝動を抑えながら丁寧にそれをテーブルへ運ぶ。

「お待たせいたしました。ヒレカツ定食のお客様。」

「おう、こっちだ。」

やたら野太い声で返事をした客はガタイのいい初老の男だった。

「コーヒーのお客様。」

「ああ、私だ。」

昼時にコーヒーのみの注文とはめずらしいな・・・。

その男も年齢的にはガタイのいい男と近いくらいだろう。だがその男とは対照的に、細身の紳士さが漂う・・・・そうダンディと言った感じの男だ。

様々な客の出入りが激しいこの時間帯にいちいち客の顔など覚えてはいないのだが、なんとなくこの組み合わせは奇妙な感じなのもあって俺はちょっと気に留めていた。

「おい、何やってんのー。こっちもあがったよー!」

「はーい!」

そんなくだらない事に意識を奪われている場合でもなかったので、すぐさま仕事に戻る。














「お疲れ様でした」

「あいよーオツカレー」

今日のバイトを終え、俺は帰路に着く。

「あ!修二君?」

俺はふと振り返る。

「あ・・橘さん。」

「バイトの帰り?おつかれ〜」

「うん。」

「せっかくだし一緒に帰ろっか。」

「うん。」

彼女は俺の大学のOBで、兄貴の恋人でもある橘 静香さん。

容姿端麗で頭もよく、まぁ間違いなくもてるタイプの女性だ。

正直兄貴が妬ましくも思った。

俺もこんな・・・。

「修二君は大学出たらどうするの?」

「ん・・別に・・・なんも。」

俺はそっけない返事で返す。

「そっかぁ。」

「兄貴と橘さんは・・・結婚すんの?」

「うーん、出来ればねー・・・。ただ色々問題ありそうだしね。とんとん拍子にハイ結婚!とは行かないでしょうね。」

「ふーん。」

たわいもない会話をしながら俺は用事があると言って途中で橘さんと別れた。

本当は用事などなかったのだが、バイトの疲れもあってあまり人と会話したくなかったので、わざと少しコンビニに寄ってから家に向かう。










「ただいまー。」

「おかえり、修二。」

「ああ、今日は飯はいいや。帰りに少し食ってきたから。」

「あら、そう。」

俺は母にそう言うと、部屋に篭った。

お気に入りのCDを部屋に流すとそのまま布団にうつぶせに倒れこんだ。


















・・・・・俺は。

俺は橘さんに惚れてるんだろうな。

たまにこうやって彼女に会ってしまった時はいつもこんな感じで部屋に篭ってしまう。

でも兄貴が邪魔だとかそこまで考えてるわけじゃない。

ただの憧れ・・みたいな物だと思ってる。

こういう時、父親がいたら他の家庭ではそういう恋愛とかの話も相談したのだろうか。

物心ついた頃から父という存在を知らない俺達兄弟は、父親というものがどういうものかがいまいちよくわからない。


「修二?いるのか?」


ふと、ドア越しに声がした。

兄貴だ。今日は仕事休みで橘さんとのデートもなかったくせにずいぶん帰りが遅かったみたいだ。


「・・・ああ。何?」

「いや、寝てるのかと思ってな。」

「んー・・もう寝るわ。疲れたし・・・。」

「そうか。それからちゃんと飯は家で食えよ。せっかく母さんが作って待ってるんだから。」

「あー、わかったよ!うるさいなぁ」

「・・・ふぅ。」


兄貴は・・・よく出来た兄貴だと思う。

橘さんとは誰が見てもお似合いだと思う。俺もお似合いだと思う。

仕事もバリバリ出来て、格好も悪くない。

そんな兄貴が疎ましく感じる事も少なくなかったが、でもそれは一般的に感じる普通の兄弟間のライバル心みたいなもんで、兄貴は俺にとっても大切な兄貴だ。


「あー・・修二。」

「何?まだいたの?」

「あれだー・・・今日、父さんの命日だったよな。」

「あー・・うん。」

「墓参り行ったか?」

「俺、バイトだったから・・・。」

「そっか・・・明日にでも一応行っとけよ・・・。」

「うん・・・。」


そうだった・・・。

親父の命日だったんだっけ・・・。

明日・・・・・帰りにでも・・・・行こう・・・・



そこで意識は途絶えた。

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