第2話
翌朝。
軽い二日酔いに目をしかめながら、ダンスは外縁保守局に顔を出した。任務明けとなる今日はこれと言ってやることはなく、自宅で休んでいても文句は言われないのだが、ダンスは長年の習慣で保守局に足を運んでいる。
そしてこの日は、その習慣が吉と出た。昨日の任務を共にした魔術師のキディアスが、ダンスを訪ねてきていたのである。
キディアスが所属する魔術院は、外縁保守局に護衛任務を依頼する立場だ。つまり、仕事の流れで言えば魔術院が上流、保守局が下流。さらに、魔術院は街の行政全てを牛耳っている。街の安全を保っている『壁』のメンテナンスは魔術院にしかできないことだから、その立場も当然と言える。
そんなわけで、魔術院に所属する魔術師は気位が高く、保守局までわざわざやってくる、なんてことは考えられない。だが、キディアスは例外だった。
ダンスの顔を認めると、キディアスは小さく右手を振った。銀色の肌が無機質な印象を与えるが、その黄金の視線は穏やかだった。
「昨日はどうも、ダンス」
「こちらこそ世話になった、キディアス。昨日の任務で何か問題でも?」
昨日無事任務を終えた後、ダンスとパディルはビールを飲みに出かけたが、キディアスは魔術院に報告に向かった。いつものことなので気にもしていなかったが、キディアスがこうしてわざわざ出向いてきたところを見ると、その報告の場で何かあったのだろうか?
「いやいや、まさか」
キディアスは笑顔を作ると、顔の前で手を振ってダンスの疑問を打ち消した。
「報告はいつも通り済んだ。気にするようなことは何もなかった」
「じゃあ今日は、どうして?」
ダンスが聞き返すと、キディアスは真面目な表情になった。
「次の任務の割り当てを受けた。また、ダンスとパディルに依頼しようと思ってな。今回も『壁』の補修任務で、出発は明日」
なるほど、とダンスは腕を組んだ。前の任務が終わってしばらく羽を伸ばそうかと思っていたが、またひと稼ぎというのも悪くないかもしれん。
「いいぜ、その仕事受けよう。パディルのやつはどうせ暇してるし、問題はないはずだ」
「よかった。ダンス、あんたは腕前はもちろんだけど、いざという時の撤退の判断がいい。どんな任務でも、無事生きて帰ってこないと何にもならないからな」
と、キディアスは安心したような笑顔になった。信頼されているな、とダンスは思う。この信頼には応えないとな、プロとして。
「じゃあ明日、日の出の時間に大門の外で集合、で構わないか?」
「もちろん。そうだ、パディルの予定もちゃんと押さえるようにな」
「あいつのことは任せておいてくれ、キディアス」
ダンスは自分の胸をドンと叩いてみせた。パーティメンバーの把握も、リーダーとしての仕事だ。
「それじゃあ、明日」
キディアスは手を振ると、保守局を後にした。ダンスはそのままパディルの家に直行し、昼寝を決め込んでいたパディルを叩き起こすと翌日の任務決行を言い渡した。あと2、3日はのんびりしていたかったとゴネるパディルの説得にはなんとか成功した。
そして翌朝。
準備万端のキディアスと寝不足顔のパディル、そしてダンスはいつも通りの平常心だ。すっかりベテランと呼ばれる年齢になったダンスにとって、任務というのは日常の一コマに過ぎない。
大門から東へ、街道沿いに半日。そこから細い道に踏み込み、林や草原を越えて半日。目的のダンジョンとの中間地点に、保守局が設営した前哨地があった。
古い納屋に手を入れて作られた前哨地が、この日の宿営地だ。ダンスとパディルは交代で見張りの任につき、一夜を明かした。




