表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

第2話

 前哨地のドアを押し開けて入ってきたのは、魔術師メイジの証であるフード付きのローブを身にまとった人影だった。

 濃い紫色のローブの縁には金糸で刺繡が施され、ゆったりとしたシルエットと顔を覆うフードが、それをまとう人物の素性を隠している。


「ダンス、そしてパイパーだな。魔術師メイジのキティアラだ」

 キティアラと名乗った魔術師メイジは、ゆっくりとフードを外して顔を露わにした。ダンスとパイパーは、思わず息を吞む。

 肩まで達する髪が白いのはいい。長生きすれば誰でも白髪になる。

 だが、キティアラの肌は銀色、瞳は金色の輝きをたたえていた。


 ダンスは褐色の肌に青い瞳、砂色の短髪というよくある組み合わせ。パイパーご自慢の黒檀のような肌と髪に漆黒の瞳というタイプも、別に珍しくはない。

 だがキティアラのような銀の肌と金の瞳を持つ人間が存在するとは、ダンスもパイパーも想像したことすらなかった。


 口を開こうとしたパイパーを片手で制したキティアラは、

「これまでもさんざん質問されてきたから、まとめて答えておこう。『そうだ』『違う』『私だけだ』」

 すっかり毒気を抜かれて黙ってしまったパイパーに代わって、ダンスが口を開く。

「察するに、その質問は『その肌の色は生まれつきか』『魔術師メイジなら誰でもそうなのか』『親兄弟もそうなのか』かな」

「話が早くて助かる。要は気にするなということだ。ついでに言っておくが、流行り病でもない」


 キティアラはわずかな荷物を壁の棚に置くと、炉のそばに腰を下ろした。

「食事の準備をしてくれていたのだな、助かる」

 そのキティアラに対して、やっと形勢を立て直したパイパーが、軽口担当の威厳を取り戻すべく質問を投げかけた。


「か……彼女はいますか!」

 あまりのことに、ダンスとキティアラは期せずしてズッコケてしまう。

「キティアラ申し訳ない、こんなバカな話に付き合わせて。パイパー、お前ほんといい加減にしろよ。何でも口に出せばいいってもんじゃないだろ」


 なんとか立ち直ったダンスがパイパーをしかりつけると、パイパーは口をとがらせる。

「だってさ、気になるじゃん? どうしたって。おれ魔術師メイジときちんと話すのって初めてだし、何でも知りたいんだよ」

 そうか。前回もその前も、パイパーと組んだのは陽動が任務の小規模な別動隊だった。

 魔術師メイジが同行する、いわゆる本隊としての仕事は、パイパーにとっては初めてだったのだ。


 丁寧に詫びたダンスに、キティアラは苦笑いしながら応じた。

「どうも誤解があるようだが、私は女だ。別に女であることを宣伝して歩いているわけではないが」

 キティアラがローブの前を軽くくつろげると、彼女の身体を縁取るやわらかな曲線が浮かび上がった。

「で、魔術師メイジの交際事情というやつか? これは秘密が多いことなんだが、ひとつ言えるのは『自分で交際相手を選ぶことはできない』ということだ。答えになっているかな、もしパイパーが本当にこんなことを知りたいと思っていたなら、だが」


 魔術師メイジは自分たちとは違う。いや、魔術師メイジだけは特別な存在だ。

 それはわかっていたつもりのダンスだったが、改めてこう聞かされると思わず「ふうむ」と声に出してしまう。


「じゃあ、魔術師メイジは木の股から生まれるっていうのは……」

「さすがにこの年齢までそんなおとぎ話を信じているとは言わせないぞ、パイパー」

 たしなめるダンスだが、キティアラの切り返しはちょっと意表を突くものだった。


「木の股ではないだろうが、私だけじゃなくて魔術師メイジは自分の親が誰なのかは知らないんだ。なにしろ魔術師メイジの素質がある赤ん坊は生まれて一年で親から引き離されて、魔術院の魔術師メイジたちに育てられるからな」 


 そうなのだ。魔術師メイジはほかの人々とは育ちからして違う。

 すべての赤ん坊は一歳の誕生日を迎えると魔術院の検査を受ける義務があり、ここで魔術師メイジの素質ありと認められると魔術院がその養育に当たる。それから一人前と認められる十五歳まで、魔術院での厳しい修行に耐えなければならない。


 『壁』に守られたこの世界を維持していくために欠かせない魔術師メイジとは、そんな特別な人生を歩む特別な存在なのだ。


 ――とはいえ、キティアラだって飯は食うし、食ったら眠くなる。そこは普通の人間なんだよな。

 ダンスは前哨地の壁に寄りかかり、見るともなく火を見つめていた。


 食事を終えたキティアラは、暖かく燃える炉の炎の前でゆっくりと舟を漕ぎ、居眠りを始めていた。砂利を踏みしめるパイパーの足音が、前哨地の外から聞こえてくる。パイパーの次は、ダンスが見張りを務める順番だ。


 ――見張りを交代して、夜明けには出発。ようやくダンジョン巡回任務の本番開始だ。ボガードが言っていた通り、臆病さを発揮して、今回も無事帰って見せるさ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ