232 毛刈り
翌日はベル以外の全員と小人の手まで借りて、アルパカの毛刈りを行う事になった。高地に作った牧場には、既にもっさりと地面まで毛が伸びたアルパカ達を捕獲済である。
「え、アルパカってこんなんだっけ……?」
「アルパカは換毛期が無いですからね。毛を刈らないとこの有様です」
毛刈り経験者を必ず入れた形で三人一組のチームを作り、カイだけは魔笛担当で一人だ。吹き始めると指示が出せなくなる為、先に手順をしっかり説明する。
「初めての方もいらっしゃると思いますが、夢遊状態にしたとしても毛刈りは重労働です。鋏は羊用のを使います。後、笛を吹く前は不用意に驚かせたり怯えさせたりしないようお願いします」
「唾を吐かれるのだな!?」
「そうです。何年も風呂に入っていないオッサンより臭い唾を吐いて来ます」
「まじかよ。絶対驚かせんどこ……」
具体的に唾の臭さが想像出来、一同気を引き締めた。
「およそ一頭で一時間前後掛かると思います。今回は全部で12頭居ますから……まあ、休憩を挟んで今日中に終えられれば――という感じで」
「儂らよりも笛を吹き続けるカイ殿が大変じゃからな……」
「よぉし! おら達で可愛いカットしてやるからなぁ……!」
手筈を確認し終えると、まず先にカイが柵の中へと入って行った。まだ野生から牧場へ連れて来られたばかりなので、人に懐きやすいというアルパカでもカイを警戒したよう遠巻きにしている。それが、スッと魔笛を吹き始めるとフラフラと夢見心地でカイの周囲へと集まって来た。
「おお、面白い笛だな!」
「へええ、こうなるのか! これなら暴れなくて毛刈りしやすそうだね!」
「モイッモイ~!」
早速チームに分かれてそれぞれアルパカを担当して毛を刈り始めた。第一チームはメイとリョウと小人が一人。第二チームはタツとジラフと小人が一人。第三チームはケンとガンと小人が一人だ。
「これから夏が来るけども、この辺りは標高高いもんなぁ。カイどんの指示通り、人間で言うなら坊主じゃなくてショートヘア位のカットにするぞ二人とも!」
「うんうん、顔の周りは毛があった方が可愛いからふわっとした感じで残そう!」
「モイ~!」
元々居た山程ではないが、ある程度標高があるので寒くならないように配慮もしつつ毛刈りを始めた。経験者が主に鋏を握り、指示を貰って残りの二人がアルパカを押さえたり姿勢を変えたりする係だ。
「折角だからオシャレでカワイイ感じにしたいわネッ!」
「儂頭と足の先だけ丸っと毛が残っとるの好き~!」
「モイモイモイ~!」
「じゃあそういう感じにしましょうネッ!」
刈る前にどの位カットするかの指示は貰っており、後は『各々のパッションで!』と言われているのでそれぞれのチームごとで相談しながらカットをしていく。
「どういうカットにするんだ?」
「無論恰好良いカットであろう!」
「モイモイモイ? モイモ~!」
「モヒカンはどうだッつってるぞ」
「おお、良いな! ではモヒカンだ!」
通常は暴れて毛もカットし辛いのだが、今は夢遊病状態でふわふわしているので大変切りやすい。それでも盛大に伸びた毛と、毛が孕む油分で大分難航した。すぐに鋏が油で切れ味が悪くなる為、交換しつつも根気よくカットしていく。そしておよそ一時間――ようやく最初のカットが終わった。
「出来た~ッ!」
「モイ~ッ!」
「わあ! すんごい可愛いぞお豆腐ちゃん……っ!」
「あ、この子お豆腐ちゃんっていうんだ!?」
「そうだぁ! 昨日ガンナーどんとタツどんと三人で名付けたんだ! この子は毛が白いからお豆腐ちゃん!」
お豆腐ちゃんはライオンのように顔周りと尻尾だけふんわりと毛が残り、これまでのすだれ感は一切無くなりなんともカワイイつぶらな瞳で『ふぅ~ん』と鳴いた。
「アラッ! メイちゃんチームのカット可愛いわねッ! けどこっちも負けて無いわヨッ!」
「そうじゃあ! 儂らの黒曜丸も見て欲し~!」
「成る程、毛が真っ黒だから黒曜丸なのネッ!?」
「そそ! 黒曜石から取っとる~!」
黒曜丸はリーゼントのように頭頂部と足首の辺りと尾の部分はまあるく毛が残されて、これまた可愛らしい。此方もカワイイつぶらな瞳で『ん~』と鳴いた。
「わはは! 俺達の――ええ、このアルパカの名前はなんだガンさん!」
「こいつは茶太郎だ」
「茶色に太郎を付けただけ! 明らかにガンさんネーミング! ともあれ茶太郎のワイルドさも見るが良いッッ!」
「何だよどう見ても茶太郎だろ!? それにカットは良い出来だ……!」
茶太郎は馬の鬣のようなモヒカンヘアーで、他の二匹に比べてカワイイよりは恰好良い感じが出ていた。それでも此方もカワイイつぶらな瞳で『ぷう~』と鳴く。
「嗚呼、嗚呼! 皆さん素晴らしい出来ですよ……! 休憩を挟んでこの調子で行きましょう……!」
「寧ろ一時間笛を吹きっぱなしだったカイさんが大丈夫……!?」
カイも一度演奏を止めてアルパカ達の出来を確かめる。まだカットしていないアルパカ達と比べると全然違う生物のようだった。
「へええ、これが真のアルパカの姿か……! 確かに、愛嬌があるッつうか、おもしろかわいい感じだな。睫毛長え……!」
「わはは! だろうそうだろう! 今は難しいが懐くと中々可愛いのだぞ!」
「世話をしとる内にちょっとは懐いてくるじゃろ~!」
「アルパカは年に一度一匹だけ子供を産むんだぁ。子アルパカはそれはもう、はちゃめちゃに可愛いんだぞガンナーどん……!」
ふむふむと説明を聞き、アルパカ達を眺める。
「後なんかこう、他の家畜に比べて鳴き声が優しいな……おれアルパカ結構好きかもしれん……」
「僕も気に入っちゃった……とてもかわいい……たまにお世話しに来よっと……!」
「アタシも~!」
全員アルパカの魅力に取りつかれたようで、何とも優しい顔でアルパカ達を眺めている。彼らがモッモッと草を食べている姿は大変のどかだ。
「そういえばこの毛? はどうするの? 羊の毛みたいにするのかな?」
「ええ、念入りに洗浄した後で羊毛のように糸状に加工しますよ。加工は小人さん達の方でやってくれるようですが、洗浄は毛の量も多いですし私達も手伝います」
「モイィ~! モイモイモイ!」
「これで皆の為に素敵な毛布やセーターを作るよ! と言っている……」
アルパカ毛から出来る衣類も楽しみであった。そして少し休憩を挟み、次のアルパカのカットを始める。チームで競うようにカットした為、全てのアルパカが大変かわいらしいすっきりとした形になった。終わる頃には日も傾き始め、全員よく働いた達成感を覚える。
「皆さんお疲れ様でした! 羊の毛刈りの時もまたお願いします!」
「今回でばっちり覚えたからね! 羊も手伝うよ!」
「ハアァ、お豆腐ちゃん、カスタードちゃん、キャラメルちゃん、みたらしちゃん……! 全員可愛くなったなぁ……!」
「僕気付いたよ。食べ物の名前は全部メイさんの命名なんだって」
それは周囲も何となく気付いていたので深く頷く。
「黒曜丸も曇天丸も白波ノ助も三毛ノ助も見事な出来じゃよ~!」
「タッちゃんの名付けは丸か助が付くのネ……」
「後ワードセンスもちょっと分かり易いね……」
それも周囲は何となく気付いていたので深く頷く。
「茶太郎もこげ茶太郎も灰太郎も白黒太郎も良い感じだぞ……!」
「全て色と太郎を足しただけ! ガンさんネーミング過ぎる! 子孫はどうするつもりだ!?」
「ええ……茶太郎だったら茶子太郎かな……? 孫は茶孫太郎で……?」
「そこは次郎に分岐じゃないんだ……」
成る程……と新たなガンのネーミング知見を得て皆深く頷いた。毛刈りが終わった後は、皆で刈った毛を運んで一日を終える。牧場のアルパカ達はほんの少しだけ人間に慣れて『ふ~ん』だの『ん~』だの『ぷう~』だの鳴いていた。
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