228 コソコソ準備
最近のリョウとカイは何だかこそこそしている。先日の休みは二人で何処かに出かけて行ったし、一日のルーチンの間――夕食後の団欒までは普通にしているが、後は寝るだけという時間にこれまた二人でこっそり何処かに出かけてゆく。そして二時間ほどで戻り床に入るという具合だった。
個室の階が違うメイとジラフ、別の場所で泊まっているベルとタツは気付いていないようだが、ケンとガンの部屋の前を通るので二人にだけは丸わかりだった。一応皆の前で聞くと拙いかと思い、夜更けに帰って来た所を捕まえて聞いてみる。すると周囲の人気を確認した後に『デートの準備をしてるんだ』と答えがあった。
「……? デートの準備ってなんだ?」
「にしても連日ではないか。何か大掛かりな事でもしているのか?」
「ちょ、声が大きい……! 聞こえたらどうするの……!」
「私の部屋へ行きましょう! メイの部屋から一番遠いですから……!」
この時間はメイも寝ているだろうが、一応警戒してケンとガンを奥のカイの個室まで引っ張っていく。
「小声! 小声でお願いしますよ! 特にケンさん声大きいから……!」
「うむ、分かった……!」
「分かッたよ」
「……デートのサプライズの為に隠れてたんです。内緒にして下さいね。私達は今採掘に通っておりまして……」
採掘と聞いてガンが怪訝にしたが、ケンが『ああ!』と声を出さずに膝を叩いた。
「宝石か! ペアアクセか!」
「あァ、そういやこないだそんな話してたな」
ガンもケンの言葉で理解する。メイが神の代行者として就任した際に、貰ったネックレスを見てリョウがペアどうのと確か言っていた。
「そそ……! この世界にはお店が無いし、かといって僕らは自力で作れないでしょう? そうなると職人小人さんにお願いする事になるんだけど、彼らの在庫の宝石を使うって何か違うじゃん……? 特にカイさんが……」
「なのでリョウと相談しまして、加工はお願いするにしても元の宝石は二人で採掘しようとですね……ここ最近ずっと……。お陰でまだアルパカ探しも行けず……」
「成る程な。して、成果はどうなのだ?」
問われるとリョウとカイ二人とも微妙な顔をした。
「いやあ、成果は皆無って訳じゃないけどまだこれぞ! というのは……」
「宝石の魔力探知で、鉱脈自体は凡その場所は分かっているんです。先日のお休みの時にリョウと散々探しましたからね」
「ふむふむ。鉱脈自体は発見しているが、良い宝石がまだ採れぬのだな」
ケンが腕を組んで頷いた。
「もっと早く言えば良いものを! 明日は俺も連れて行け!」
「えっ、ケンさんも来るの!?」
「――ハッ、そうか! 豪運ですね……!?」
「あああ、そうか……! ケンさんを連れて行けば発見率が上がるかもしれない!」
「確かにマグロもすぐに釣れたしなァ」
この作戦は良いかもしれない、と顔を見合わせた二人は早速明日ケンに同行して貰う事にした。
「ガンさんは行かなくて良いのか?」
「おれは残る。誰にも気付かれなきゃ良いけど、もし誰かがおまえらの不在に気付いたら適当に言い訳する奴が要るだろ」
「流石ガンさん……! 助かるよぉ……!」
「嗚呼、ガンナーありがとうございます……!」
こうして役割も決まり、明日皆が寝た頃に三人はこっそり出発する事になった。
* * *
そして翌日。何事も無い顔でいつも通りの仕事をこなし、夕食を食べ、皆でロボ太郎の映像を見て寝る時間。おやすみの挨拶をしたメイとジラフがツリーハウスの四階へ消えていくのを確認し、四人の男が頷き合った。
「じゃあ、気を付けて行って来い」
「ああ、ガンさんにも何か宝石を採って来てやるからな!」
「おれはいいよ。アクセサリーなんか興味無えし」
「ケンさんガンさんの場合はペアアクセじゃない方が良いよきっと……!」
「むう……!」
小声でコソコソ話しながら、ケンとリョウとカイが出かけて行った。見送ったガンは欠伸を噛み殺し、四階の気配に気を付けながらもベッドに潜る。
そして三人はカイのゲートを通り、全然違う大陸へと到着した。時差が結構あるらしく、もう夜空の縁が明るく染まり始めている。
「ふむ、大分遠い大陸なのだな」
「ええ。なるべく大きな大陸かつ、火山の噴火口がある地域に絞って探しました」
「ほう?」
「カイさんの受け売りなんだけど、例えばダイヤは凄い年月を掛けて深い地中の熱とか圧とかで出来るらしいんだよね。それが火山活動で地表近くに押し出されてきたのが、人間が普段採掘してる物なんだって」
リョウが道具を確認しながら受け売りの説明をする。
「成る程、それで火山で――大きい大陸は絶対に“長生き”しているからか」
「そうです。小さい島などですと、後から浮上した可能性がありますからね」
カイも魔法の明かりを浮かべてケンを案内する。説明通りの、すり鉢状の今は活性化していない噴火口らしきが見える岩肌が剥き出しの場所だった。
「俺の世界でも確かこんな場所で採掘をしていた気がするぞ」
「やっぱり? で、魔力反応を頼りに色々掘ったり削ったりしてみてるんだけど成果はいまいち……っていう。出るには出るんだけど小さいのばっかりなんだよね」
「そういう事か。よし、任せろ」
ケンが仁王立ちし、辺りを睥睨する。細かな採掘の知識などは無い。だがケンには圧倒的な“豪運”の祝福があった。恐らく自分が良いと思った場所から宝石が出ると――確信めいた予感があるのだ。
「ふむ、ふむ……」
ケンが感性のままに歩いて、適当な崖の前に立つ。
「俺の勘によると此処だ。他の世界は知らんが、俺の世界ではこうした崖を爆破して鉱石が無いか見ていた気がする――という事で」
ふん、と無造作にケンが崖を殴る。一瞬で爆破代わりに崖の一部が抉れて、大きな破片が転がり内部が剥き出しになった。
「ちょっとケンさんいきなり崖壊さないでよ! びっくりするじゃん!」
「鉱石ごと砕けてません!? 大丈夫ですか!?」
「この程度で砕ける鉱石なら要らんだろう! それより此処を探せ! 出る筈だ!」
「ええ……」
断言にやや不安そうにしつつも、明かりを近付けた途端にリョウの表情が変わった。明かりに反射して、抉れた崖の壁面にもうキラキラしたものが見えたのだ。
「うわっほんとだ……! ケンさん凄すぎる……!」
「これはアメジストですね。嗚呼、他にも色々気配があるな……」
「わはは! だろうそうだろう! 特大のダイヤ位出るかもしれんぞ!」
「あ、これ赤いしルビーっぽいな……後青いやつ、サファイアかな……?」
水で流しながら、コツコツと光る物が見える場所を丁寧に削っていくとそんなに大きくは無いが続々とアメジストやルビー、サファイア、トルマリンなどが出て来る。
「え、ほんとに凄い。いつも此処までは出ないよケンさん……! え、すご……!」
「ふはは! 心底ひれ伏し感謝するが良い! 礼は余った使わん宝石で良いぞ!」
「感謝はしてますけど、まだガンナーとのペアアクセ諦めてないんですか!?」
「アクセサリーは興味が無さそうだったから、サンキャッチャーを遊びがてら一緒に作って揃いで個室に飾ろうかと思っておる!」
お揃いを諦めてないな、という顔を隠さずにリョウがコツコツ崖を掘りながら耳慣れない響きに首を傾げた。
「サンキャッチャー……って、あの窓に飾るキラキラした奴かな?」
「そうだぞ!」
「嗚呼、良いですね。光が室内に反射して綺麗ですし、一緒に作るのも楽しそうです。ガンナーも気に入るでしょうね。流石ケン、趣味が宜しい」
「わはは! だろうそうだろう! こうしてさりげなくペアを増やしてくれる!」
「ケンさん一途ぅ……! ……あ、……っ」
ケンに軽口を返そうとしたタイミングで、リョウの動きが止まった。
「どうしました、リョウ? ……あっ」
リョウの方を見かけたカイも、自分の手元を見て動きを止めた。二人とも目を丸くして、物凄く驚いた顔をしている。その様子を見て、ケンがにやりと笑った。
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