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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第三部 ダンジョン編

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224 思い出の味

 保育所残りの二週間はあっという間に過ぎて行った。元々カイとメイとジラフはちっとも苦ではなかったし、リョウは終わった後のデートを楽しみに耐え忍び――ガンに至ってはカーチャンが弁当を作ってくれるという嬉しさだけで全然乗り切れた。


 そして最終日。子供を抱えて御礼と共に去ってゆく小人夫婦達を見送り。すっかり同志と化したおばちゃん保育士達と、子供達との別れを惜しみ。全員が村に戻って来た。


「皆御苦労! これで明日からは平常運行だ! 各々明日位はしっかり休み、日常に戻ってくれ! デート日はまた別に設ける!」

「やったー!」

「お疲れ様でしたあ!」


 夕食の席、村長であるケンが皆を労い、皆も互いに頑張った頑張ったと讃えあった。


「明日は休みか。ケン、明日デートの予定立てようぜ」

「ガンさんが嘗てなくデートに前向きに……! うむ、立てよう!」

「ウフフ、ベルちゃんにお弁当作って貰えるから楽しみなのよネッ!」

「そうだぞ。ケンはカーチャンの弁当に感謝しろ」

「ありがとう! ベル嬢の弁当ありがとう……!」


 弁当効果とはいえガンがデートに前向きで、ケンが大変嬉しそうにしている。だがプレッシャーが掛かったカーチャンは『ぐぬ』という顔をした。


「全力を尽くすわ。楽しみにしていなさい……!」

「……ベルちゃん、明日アタシと一緒にお弁当の練習する?」


『ぐぬ』を見逃さなかったジラフが、こそっとベルに耳打ちする。ベルが小さく頷いて、その様子を見たメイが『おらも手伝う!』とアイコンタクトを送った。

 更にその様子を見ていたリョウとカイが、互いに耳打ちをしあう。


「えっと、明日はちょっと僕ら出かけてきます」

「ええ。ちょっと行きたい所がありまして……」

「あら、そうなの? じゃあカイとは今夜イチャイチャしましょうね」

「は、はいぃ……!」

「そうかぁ、カイどんと……」


 ベルは言えてもメイは『じゃあおら達も今夜』とは言えないので、もじついてリョウを見た。リョウがハッとし、どんと胸を叩いて深く頷いた。メイがパァッと明るい顔をする。その様子を見ていたタツが盛大にニヤついた。


「何じゃあ、忙しさが終わった途端にいちゃつきまくるの~! 女子寮より先にラブホテルでも建てた方が良いのではないか~?」

「こぉら、タッちゃんったら!」

「わはは! 色宿代わりなら海上都市で良かろう!」

「まーた下品な話かよ」


 恥じらう恋人たちは居たが、どっと皆で笑って夜は更けてゆく。明日の忙しさを気にしない夜は久々だったので、全員思い思いに過ごした。そして翌日。


「――……じゃあ、今日は二人ともお願いね……!」


 悲壮な顔をしたベルが、ジラフとメイに向き直っていた。全員エプロンをし、魔女の屋敷の厨房に集合している。


「ええ、全力でお手伝いするわヨ……ッ!」

「そうだそうだ! おら達が手伝うからな……!」

「ありがとう……!」


 感激した顔でベルが先日から書き留めていたメモを取り出した。


「ガンナーからのリクエストが、おにぎりとたまごやきなの。だからこれは絶対に入れたいわ。後は保育士の方達から、肉を焼いておけば男の子は間違いないって聞いているから、お肉を入れたら良いかしらと思うのだけど……大丈夫?」

「おにぎりとたまごやき位なら、簡単に覚えられるわよ! 大丈夫!」

「肉、肉か……おにぎりとたまごやきだったら、ソーセージを焼いて入れたらどうだろ? お弁当らしいと思うんだぁ」


 ふむふむとベルが頷く。


「じゃあ、それにしましょう。後ね、おやつを付けたいの」

「おやつ?」

「ええ、ガンナーは紅茶とクッキーが好きらしくって。紅茶は魔法で淹れられるのだけど、クッキーは難しいかしら……?」

「大丈夫! クッキーも作ろうベルどん!」

「じゃあまずはクッキー生地を作って、寝かしている間におにぎりだとかを練習しましょうネッ!」


 割と簡単なラインナップばかりの為、メイもジラフも簡単に出来ると思ってしまった。ベルは当日自力で行う為に、しっかりとメモを取りながら二人の実演を見て学んでいる。


「お菓子作りは量を間違えない事が大事よ。適当にすると失敗しがちだわね」

「うんうん。後は温度と混ぜる順番だとかも気にして貰って――ひとまずベルどん、卵を割って貰って……」

「え、ええ……」


 先に材料を書き留めたベルが、凄く不安そうに卵を手に持った。


「……あの、卵ってどうやって割るの?」

「えっ」

「えっ」

「割った事ないもの」


 途方に暮れているベルを見て、これは簡単に行かないぞと二人は思考を修正した。


「ええと、平らな場所にこう、真ん中あたりを軽く打ち付けて罅を入れるの。それで、両手の――ええと、親指かしら。親指を入れて、左右に開く感じで……」

「へえ、そうやって割るのね。やってみるわ」


 ベルが打ち付け、グシャッと景気の良い音がした。


「軽くよ、軽く……!」

「力加減が難しいわね。何度か練習してみるわ」

「が、頑張るんだベルどん……!」


 何個か卵を犠牲にし、やっと一人で割る事が出来た。


「どうやったら殻が入らないように割れるのかしら……?」

「それはもう慣れだぁ……! 入っちまったら掬って取ればいい……!」

「そう……」


 こうしてひとつひとつ、不慣れな作業をクリアしながら練習をしていった。幸いな事に、ベルは魔法薬を作る事には長けていたから混ぜたり何だり手順が絡む事は上手でレシピに忠実だった。問題は、卵を割ったり火加減などの問題だけだ。


「さて、じゃあ後は生地を寝かせてその間はおにぎりだとかを作りましょう」

「あの、あのね」

「ベルどんどうしたんだ?」

「クッキーを飾るのは、いつやるのかしら?」

「あら、プレーンじゃなくて色々飾りたいの?」


 ベルが頷き、棚からひとつの瓶を取り出した。中には何とも美しいピンクの“薔薇の砂糖漬け”が入っている。


「わ、綺麗! そりゃ何だぁ?」

「薔薇の砂糖漬けよ。もう3000年は作っていなくて存在を忘れていたけど、思い出したの。これは小人が作ったものだけど、わたくしこれだけは自力で作れるのよ」

「アラッ! 素敵じゃないの!」

「わたくしも母を知らないから母の味……ではないけど、師匠の思い出の味とはいえるわ。だから、そのままお茶請けにしても良いのだけどクッキーに飾ったらどうかしらと思って……」


 師匠の事を思い出すと苦々しいので微妙な顔つきではあるが、一応“思い出の味”だし自力で作れるものなのでどうかと思ったのだ。


「ファアア……! それは素敵だな! じゃあ、じゃあクッキーが焼き上がったら、アイシングを乗せてそこに薔薇の砂糖漬けをトッピングしようベルどん! すんげえ可愛いクッキーになるぞ!」

「キャア! 素敵じゃない! そうしましょッ!」

「本当? じゃあ本番の時には自分で新しい物を作っておくわね……!」


 薔薇の砂糖漬けなんて洒落た物を知らなかったメイが明らかにテンションを上げていた。方針が決まったので、今度こそおにぎり等のお弁当作成へと挑む。


 此方はクッキー生地作りよりも難航し、不格好なおにぎりと炭のように焦げた卵焼きとウインナーが量産された。それでもベルはめげず、2人のサポートを得ながら必死に練習を続けた。その後のクッキーを焼く段になっても同じくだが、めげずに根気よく練習を行った。

 

 そうして、何とか不格好だが食べれるレベルの弁当とクッキーが完成する。朝から始めてもう夕方近くの事だった。三人共髪は乱れ疲弊していたが、完成品を前に『ワアアア』と目だけはきらきら輝かせて手を取り合う。


「ベルちゃん! 出来た、出来たわヨッ! これならガンナーちゃんも喜ぶわッ!」

「ああ、嬉しくて泣いちまうかもしんねえぞ! これは完璧な弁当だ!」

「ほ、本当!? ああ、二人ともありがとう……! わたくし頑張るわね……っ!」


 ベルが涙ぐみ、2人の友情に心底感謝した。だがこれはあくまで練習で、本番は全て自分一人で行わなくてはならないのである。夕方ケンとの打ち合わせを終えたガンがデートの日程を伝えてきた時、ベルの決戦の日も決まったのだ。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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