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第十五章 「救国のアルザード」 3

 第十五章 「救国のアルザード」 3

 

 

 《ダンシングラビット》の手にある大口径狙撃銃は魔動機兵が扱うには異様に太く長い銃身を持ち、何本ものパイプが後方に伸びている。角度のせいで《イクスキャリヴル》からは見えないが、恐らくあの武装は動力が《魔動要塞》に直結しているか、あるいは専用の動力炉が後方に配置されているのだろう。

 《魔動要塞》の甲板上に、遠距離攻撃装備の魔動機兵が次々と姿を現す。同時に、要塞部分を支える足の生えた台座付近からは、展開したスロープを下るようにして地上へと魔動機兵が出撃し始めた。ノルキモの《ノルス》や《ノルムキス》だけではなく、《ヘイグ》や《ジ・ヘイグ》の姿も混じっている。これまでに鹵獲したか、制圧した基地から奪った機体だろう。

「距離を詰める! 舌を噛むなよ!」

 アルザードは言い、ヒルトのトリガーを引いてギュラナイを稼動させた。

 後方の推進器表面の溝に光が走り、斥力場が展開される。ローラーソールを履いた三機はグリップにしがみつくようにして、《イクスキャリヴル》はそのまま推力の発生と共に走り出す。

 前面にマナストリームシールドを展開したまま、四人は《魔動要塞》へと真っ直ぐに突撃する。

 飛来する弾丸や砲撃は全てマナストリームが掻き消してくれる。そうでなくとも、凄まじいまでの移動速度が敵に狙いをつけさせない。

 《魔動要塞》の腹の下に潜り込んだところで、グリフレット、サフィール、ギルバートの機体がグリップから手を離した。三機でまとまりつつ、《イクスキャリヴル》から離れていく。

「センサー連携を開始、射線可視化します!」

 ギルバートの声と共に、《イクサ・エウェ》の頭部センサーと背部レーダーの一部が変形、展開する。アルザードの《イクスキャリヴル》に何ら影響はないが、支援機のスクリーン上では、敵の武装から向けられる魔力線が赤いラインで表示されるようになっているはずだ。

 《イクスキャリヴル》の高い魔力感応性によって得られる周囲の魔力情報を《イクサ・エウェ》のセンサー系で受信し、部分的に可視化処理を施して一定範囲内の味方へ送信する。それが《イクサ・エウェ》最大の特徴であり、役割でもあった。

 《イクサ・エウェ》の処理能力を使用する関係上、機動性や武装に回せる出力など、全体的な性能がやや低下するというデメリットはある。だが、敵の攻撃を事前に察知できるのは魔動機兵にとっては大きな強みだ。特に、乱戦下で視界の外からの攻撃を把握でき、その射線を辿ることで敵の位置を知ることができるのは大きい。

「《リィト》は回避と防御を中心に、《レェト》は《魔動要塞》の砲台の破壊を!」

「了解!」

 ギルバートの指示が飛び、グリフレットとサフィールの返事が重なる。

 射線の可視化で狙われている場所が分かれば防御もし易い。グリフレットは前に出て可視化かされた射線を利用して回避と防御を中心に《魔動要塞》の砲台や周囲にいる魔動機兵の攻撃を引き付ける。サフィールは射線を辿って砲台の位置を特定し、バレルを伸ばして狙撃形態にした銃で《魔動要塞》各部に攻撃を加え始めた。ギルバートはサフィールの盾になるように射線へ割って入り、中盾付き突撃銃で牽制と援護に徹する。

 だが、大きなアドバンテージがあるとしても数の不利は圧倒的で、そのままでは勝機はない。

 故に、ここからは《イクスキャリヴル》とアルザードの働き次第だ。

「ギュラナイ最大出力!」

 トリガーを強く引き絞り、気合を入れるように声を張り上げる。

 推力に回していた魔力を全て先端のマナストリーム放射機構へと送り、シールド状に展開していた閃光を前方へと開放、収束させていく。長さを増していくマナストリームを振り回しながら、アルザードは《イクスキャリヴル》を走らせた。

 地上に展開した魔動機兵を片っ端から柱のようになったマナストリームの光でまとめて薙ぎ払い、それをそのまま《魔動要塞》の脚部にも叩き付ける。

 ミスリル素材も複合された分厚すぎる装甲を削り取るには一瞬だけの接触では足りない。金属を溶断するように、マナストリームを浴びせ続ける必要があった。それでも、巨体を支える塔のような構造物を断ち切るのにかかる時間としては破格だ。

 移動に使う脚と、支える脚、一つずつでも破壊できれば《魔動要塞》の動きを封じられる。

 だが、その前にアルザードが優先すべきは魔動機兵部隊の排除だ。連携する支援機を失わず、活かすためにも数の不利の中戦う彼らを狙う敵を最優先に狙う。

 敵意の乗った魔力の流れが手に取るように分かる。可視化されていなくても、目に見えていなくても、そこに攻撃の意思の流れがあると分かる。

 《魔動要塞》から放たれ、地上を走る《ノルス》を横合いから蹴り飛ばし、その向こうにいる《ヘイグ》へ叩き付けた。そこにギュラナイが放つ光を浴びせ、振り回して周りの数機を消し飛ばす。

 脚を支えるフレームの中ほどにある出撃用ハッチから銃で攻撃している《ジ・ヘイグ》にはストリームグレネードを投げた。閃光が炸裂し、局所的なマナストリーム爆発がそこにあった全てを呑み込む。

 ギュラナイを振り上げてフレームにマナストリームを浴びせ、返す刃で味方へ近付こうとする集団を消し潰す。

 《魔動要塞》の脚部フレーム上にあるいくつかのマナストリーム砲が《イクサ・エウェ》や《イクサ・レェト》の方に向けて光を放つ。その射線上に割って入り、ギュラナイのマナストリームを広域展開させた。プリズマドライブが唸りを上げて、厚みを増した閃光が砲撃を受け止める。

 その間に、射線と防御範囲から離れたサフィールの《イクサ・レェト》がマナストリーム砲を狙撃していく。外部からの攻撃で砲身フレームの一部にでも歪みが出来てしまえば、マナストリーム砲はその出力や狙いを維持できない。相応に装甲は厚くしてあるだろうが、《イクサ・レェト》の可変型突撃銃が放つミスリルコーティングされた弾丸はそれを貫いて見せた。延長した銃身内部に施された魔術回路が威力と精度を向上させている。サフィールの狙いも申し分ない。

「足を止める!」

 地上の魔動機兵部隊を倒し尽くしたところで、アルザードはギュラナイを《魔動要塞》の脚部関節へと向ける。限界まで出力を上げて、城壁のような脚を削り切った。

 膝にあたる場所の関節を破壊して、移動力を奪う。八本ある脚のうち、四本目を切断したところでギュラナイのプリズマドライブが限界を迎え、沈黙した。首元背面から濃度の低下したエーテル廃液を吐き出す。

 同時に、《魔動要塞》がその自重を支え切れずに傾き、倒れ込んだ。

「出撃用のハッチから内部に突入します! 《イクスキャリヴル》は上層の敵を!」

「了解だ!」

 すかさずギルバートは次の指示を出し、支援部隊三機が《魔動要塞》内部への進入口へと向かっていく。

 《イクスキャリヴル》はその場に機能停止したギュラナイを置いて、傾いた《魔動要塞》の縁へと向かって跳躍した。背面ラックに懸架されていたイクスシールドとストリームランチャーを手に取り、一息で《魔動要塞》の上面甲板へと飛び上がる。

 傾いた甲板の上で、狙撃銃型のマナストリーム砲を構えた《ノルムキス》たちが出迎える。

 左手に装備したイクスシールドからマナストリームを展開し、狙撃を防ぐ。固定砲台のマナストリーム砲に比べ、単発だが圧縮され高出力となっているようだ。

 断続的に放たれるマナストリームを防ぎ、かわしながら、右手のストリームランチャーの狙いを一機の《ノルムキス》に定めてトリガーを引いた。

 やや重い射撃反動と共に、銃口から光球が放たれる。銃身後部がスライドして、薬室部分からカートリッジが排出された。発射された光弾は《ノルムキス》の首元に命中し、次の瞬間には爆裂して一回り大きな光となってそこにあるものを削り取って消滅した。後に残ったのは《ノルムキス》の手と腰から下だけだった。

「新設計のランチャーはどうだい?」

「相変わらず凶悪だよ」

 笑みを含んだエクターの声に苦笑しつつ、アルザードは甲板から甲板へ、ステップを踏むように飛び回りながらストリームランチャーのトリガーを引いて行く。《ノルムキス》の持つマナストリーム狙撃銃と真正面からぶつかりあっても、ストリームランチャーの光弾はそれを弾くように掻き消して狙った場所に着弾した。

 初陣の際、出力が予想を遥かに超えていたために照射兵器となってしまったライフルを鑑みて、エクターは一発に消費する魔素をカートリッジという形で物理的に制限する方法を考えたのだ。

 予め一発分の魔素を圧縮してカートリッジに詰め込んでおき、発射時にマナストリーム化魔術を施して撃ち出す。同時に、狙った座標あるいは物体との接触で小規模なマナストリーム爆発を起こして消滅するようにも魔術指定している。高価な部品と高い技術、そして《イクスキャリヴル》とアルザードの莫大な魔力出力があればこその芸当だった。

 予備のカートリッジパックが尽きる頃には、《魔動要塞》上層でマナストリーム狙撃銃を持つ魔動機兵はほぼ壊滅していた。魔動機兵部隊を展開させるための甲板は穴だらけになり、いくつかは折れて地面へと突き刺さっている。砲台も多くが沈黙し、残っているのは辛うじて攻撃を逃れることができた魔動機兵が数機程度だった。

 その中でも、《ダンシングラビット》だけは最後までマナストリーム狙撃銃を手放すことなく攻撃を仕掛けてくる。

 ストリームランチャーを背部ラックに戻し、大剣へと持ち替える。エーテル廃液が《イクスキャリヴル》の背に描く虹の煌めきをを翻し、傾いた甲板の上を駆ける。

 大剣イクスバスタードソードの刃が淡く光を帯びる。高純度ミスリル金属を積層したその芯には魔術回路が刻まれており、《イクスキャリヴル》の魔力を受けて剣はアルザードの意思を宿す。

 物陰に身を隠そうとする《ダンシングラビット》を追い、剣を振るう。《イクスキャリヴル》の身長ほどもありそうな《魔動要塞》の構造物を刃は抵抗なくすり抜けるように両断した。その裏にいた《ダンシングラビット》の手にあった狙撃銃が半ばから崩れ落ち、魔動機兵が狼狽えるように後ずさる。

 《イクスキャリヴル》の胴体ほども幅のある剣を片手でナイフのように振り回し、横合いから飛来した弾丸を防ぐ。幅広のミスリル刃はそれだけで盾としても機能するほどの強靭さを発揮する。内部に施された魔術回路に魔力が流されていれば、その硬度は更に高まる。

 目の前から逃れようとする《ダンシングラビット》にそのまま刃を叩き付け、崩れ落ちる機体が甲板に倒れ伏すよりも早く撃ってきた敵機の前へと移動する。

 勢いのままシールドバッシュをしてやれば、《ノルムキス》は後方へ吹き飛んで壁に減り込むように叩き付けられて動かなくなる。

 巨体と数を物ともせず、《イクスキャリヴル》は荒れ狂うようにその力を振るい、破壊の限りを尽くしていった。

「報告! 管制室を破壊しましたが、最後に動力機関を暴走させたようです!」

 《イクサ・エウェ》からの通信と、《イクスキャリヴル》が異変を感じ取ったのは同時だった。

 これまで《魔動要塞》を動かすために莫大ながら一定の大きさと存在感を放っていた魔力反応が歪み始めていた。

 内部に突入した三機の支援部隊は内側から要塞の施設を破壊しながら管制室を目指した。《魔動要塞》の操縦席とも言えるブロックを探し出し、破壊することで機能を停止させるために。

 だが、どうやら敵の指揮官は敗北を悟って自爆を選んだようだ。

 《イクスキャリヴル》で魔力反応を感じ取ろうとすれば、《魔動要塞》の中心部で行き場を失った魔力が暴走を始めているのが分かる。許容量を超える魔力増幅の連鎖が起きている。歪に膨らんだ魔力が、直列接続されたプリズマドライブで加速度的に増幅されている。それぞれのプリズマドライブが出力できる限界を超え、自壊するほどのエネルギーが次へと渡っていく。

「まずいな、この規模のマナストリーム爆発はもしかするとベルナリアまで届くかもしれない」

「おいおい逃げても無駄ってことか?」

 《イクスキャリヴル》らによって測定された数値からエクターが出した答えに、グリフレットが声をあげる。

「戦闘中に解析していたが、構造は予想通りプリズマドライブの直列接続だ。これが、接続方向への指向性を持って暴走させられている。超巨大なマナストリーム砲みたいな状態だ。まぁ、結局のところ中心地である《魔動要塞》周辺は軽く吹き飛ぶし、指向性が生まれているのは偶然だろうが」

 冷静に分析するエクターの声を聞いていたアルザードもまた、何故か慌ててはいなかった。

「……どうにもならないの?」

 サフィールのどこか落ち込んだような声がした。彼女にしては珍しい。

「規模が桁違いだから、そうだね……」

「それ以上の魔力を叩き付けるってのは、どうだ?」

 考える素振りを見せるエクターに、アルザードは問う。

 あれだけの巨体を支え、動かし、攻撃までしていたのだ。単純な魔力量では《イクスキャリヴル》以上の出力を発揮していたと言って良いだろう。

 マナストリームを浴びれば《イクスキャリヴル》とて無事では済まない。

 だが、絶望するのはまだ早い。

 否、その必要はないと、《イクスキャリヴル》が教えてくれているような気さえする。

「マナストリームのようなものなら、それ以上のもので押し潰せばいい」

 暴走し、純粋なエネルギーと化した破壊力の塊はマナストリームのようなものだ。そこにあるものを、魔素さえも自壊させるほどの出力をぶつければ、相殺できる。

「言ったのなら、やってみせなさい」

 マリアの良く通る声が、アルザードの背を叩く。

「仲間も、国も、私も、守り、救ってみせて」

「ああ……任せろ!」

 《イクスキャリヴル》は《魔動要塞》の上から飛び退くようにして、国境を背にして残骸の前に立つ。

 一瞬遅れて、脱出してきた三機の魔動機兵がすれ違うように通り過ぎて行った。

 腰の左右からマナストリームソードを抜き放ち、頭上に光の剣を重ね合わせるように掲げ、構える。

 目の前で膨れ上がり残骸を呑み込み始めた光の本流を見据え、アルザードは大きく息を吸い込んだ。

 意識を、思いを、これまでよりも深く、機体に重ね合わせるように研ぎ澄ます。

「《イクスキャリヴル》――!」

 その名を叫ぶように呼び、ヒルトを掴む両手を力強く握り締め、思いを込める。

 オーロラルドライブの澄んだ音が操縦席を満たす。

 アルザードの中を流れる熱が体から溢れ出して、機体の隅々へと浸透し、自分が広がっていくかのような錯覚があった。

 重ね合わされた光の剣はその輝きを幾重にも増していく。思いが魔力となって機体の全身を駆け巡り、魔術回路と同じミスリル製の装甲が光を帯びる。

 光り輝く鎧を纏った白銀の騎士はその背に虹を纏い、靡かせて、極彩色に煌めく剣を振り下ろした。

 刹那、辺りは時が止まったかのように静まり返った。音もなく、風もない。温度も、色も、何もかもが無くなかったかのように、全てが静止したかのように。

 そして、次の瞬間には光の柱が《魔動要塞》のあった場所に立ち上っていた。

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