第十五章 「救国のアルザード」 2
第十五章 「救国のアルザード」 2
アルフレイン王国の古い言葉で、アルヴァとは始まりや終わり、頂点、到達点を、ヴァロンとは上に立つ者、辿り着いた者を意味する。
即ち、《イクスキャリヴル》は完成に至った。
銀と白を中心とした甲冑のような装甲には、金と青の縁取り装飾が施されている。胸部、肩、下腕、膝から下の装甲はやや厚くなり、背面には予備の高濃度エーテルパックの搭載数を増加させた改良型バックパックが装備された。
そのバックパックには、根本から再設計された大口径ライフル型射撃武装ストリームランチャー、マナストリーム発生器を内臓した新型の中盾イクスシールド、刃に高純度ミスリルを惜し気もなく使用した大剣イクスバスターソードが懸架されていた。その他、腰裏には小規模なマナストリーム爆発を起こすストリームグレネードを四つ、ミスリル製のダガーナイフも二つ追加で搭載している。
傍らには、シュライフナールを改良発展させた新型の連携兵装ギュラナイが置かれている。プリズマドライブと直結した推進機構を後部に持ち、先端部分にはマナストリーム放射機構を備えたシュライフナールに近い形状ながら、柄に当たる部分は手で握れないほど太くなっている。
シンプルながらより英雄らしく洗練された形状になった《イクスキャリヴル》をアルザードは一度見上げてから、操縦席へと乗り込んだ。
ヘルムを被り、シートの裏から伸びている接続ケーブルを繋ぐ。アームレストの先のヒルトに手を伸ばし、触れてやれば《イクスキャリヴル》の目に光が灯った。
鈴の音のような、高く済んだ透明感のあるオーロラルドライブ特有の駆動音が操縦席に響き始める。アルザードの全身に重圧の錯覚が発生し、機体と肉体の感覚が同調していく。
機体の中で操縦している感覚と認識を持ちながら、《イクスキャリヴル》はアルザード本来の肉体以上の速度と精度をもって意思に応える。不可思議な感覚でありながら、万能感、全能感のようなものが湧き上がってきて、昂揚しそうになる。
「護剣騎士団、全機の起動を確認」
通信回線から聞こえたマリアの声に、息を大きく吐き出して意識を落ち着ける。
輸送車両の荷台からギュラナイと共に《イクスキャリヴル》を下ろせば、その目の前に仲間たちの機体が並ぶように立っていた。
指揮を担うギルバートの《イクサ・エウェ》はベースとなった近衛騎士団機である《アルフ・カイン》に最も近い外見をしている。異なるのは、近衛専用機のような装甲表面の縁取り装飾等がないことと、頭部にセンサーアンテナ、背面にレーダーパックを装備しているところだろう。レーダーパックには《イクスキャリヴル》の察知した情報を受信する機能の他にも、魔術ソナーを発して周辺地形や魔動機兵反応などを把握するためのセンサーグレネードや予備弾薬が複数搭載されている。また、中盾と一体化したような突撃銃を両手に装備し、腰の左右にショートソードタイプのアサルトソードを一つずつ携行している。総じて、バランスと継戦能力、支援性能に長けた機体だ。
その姉であるサフィールの《イクサ・レェト》も《アルフ・カイン》の面影が残っている。しかし、こちらは射撃戦闘に特化したゴーグル状の高精度センサーを頭部に搭載している。武装は銃身が折り畳み式の射程可変型突撃銃を二丁装備しており、折り畳まれている銃身を展開し伸ばすことで狙撃銃にもなる特注品だ。近距離での戦闘はあまり想定されていないが、腰の左右には銃身下部にトリガーガードのようにダガーナイフが一体化したリボルバータイプの拳銃が近接用の予備武装として搭載されていた。また、狙撃時の遮蔽物として利用できるように、裏面に展開式の支えを内臓した大盾も背負っている。
グリフレットの乗る《イクサ・リィト》は、他の二機とは対照的に原型となった《アルフ・カイン》の面影はほとんど残っていない。機体前面と左右は、装甲の代わりに小盾をいくつも貼り付けたかのようになっており、関節の隙間も丁寧に装甲で隠れるように設計されている。反面、背面側はフレームが剥き出しになっているような部分もあるほどにバランスが極端だ。両腕にはアサルトソードを盾としても使えるようにしたシールドブレードが備えられ、携行する銃火器も銃身を短くした取り回し重視の突撃銃になっている。背中を守るように予備のアサルトソードが左右で合わせて六本懸架され、腰にはハンドグレネードが三つずつ、腰裏に予備弾倉という構成だ。
「予測だとそろそろ国境付近から《魔動要塞》が視認できる距離に入るはずだ」
「今回の任務は単純です。《魔動要塞》とそれに付随する戦力の完全撃破、《イクスキャリヴル》の帰還、以上です」
エクターの声に続いて、マリアが告げる。
「それと、この戦いは通信会話以外、撮影記録され全世界に中継される。大丈夫だとは思うが、無様な戦い方はしないでくれよ」
「まるで見世物だな」
エクターの言葉に、グリフレットが軽口を叩く。
「あながち間違っているとも言えないかもね」
サフィールも小さく笑う。
事前に、この規格外同士の戦いを全世界に中継することは公表されていた。
《イクスキャリヴル》が勝つにせよ、《魔動要塞ハヴナル》が勝つにせよ、この戦いが世界に与える影響は決して小さなものではないだろう。力と技術の誇示と言えば聞こえは悪いが、それは抑止力をも生む。
頑なに敵対していた国家が話し合いのテーブルにつくことだってあるかもしれない。
だが、何よりも、アルフレイン王国側からすれば、理不尽な力には決して屈さない、諦めないという姿勢を世界中に示し、そのための剣があることを見せつけることができる。
「英雄らしく、完勝してきなさい!」
「仰せのままに」
気風良く言い放つマリアに苦笑しつつ、アルザードは敵が来るであろう方角へと《イクスキャリヴル》を向けた。
自信がないわけではない。《イクスキャリヴル》の持つ力はもはや疑いようもなく、それを生み出したエクターのことも信頼している。アルザード自身がこれまでに携わってきた試験稼働も、実戦も、結果を出してきた。
だが、油断はできない。
これから戦うのは、《イクスキャリヴル》とは別の方向へ進化を果たした存在だ。
「……来るぞ」
平野の向こうから、とてつもなく巨大な魔力の気配がゆっくりと近付いて来るのが感じられた。
「ここからの戦闘指揮はギルバートに任せる」
「分かりました」
アルザードの指示に、ギルバートはやや緊張した声音ながらもはっきりと返事をした。
これまでに王都で何度か行った、《イクスキャリヴル》抜きでの模擬戦においても、ギルバートは的確な指揮が出来ていた。元々年齢や階級といった上下関係をあまり気にしないグリフレットは最初からギルバートの指揮に従うことに抵抗感を抱くことはなく、実の姉であるサフィールも初回こそ半信半疑ではあったが、弟の気質を知っていることもあってか、それ以降はギルバートの指揮能力の高さを認めた。
「で、今回はどうすればいい?」
「普通に考えれば、最大戦力でもある《魔動要塞》に《イクスキャリヴル》をぶつけて、僕らは付随する魔動機兵部隊を相手に《イクスキャリヴル》を援護するところですが、それではこちらが不利になります」
グリフレットの問いに、ギルバートが作戦の説明を始めた。
恐らく敵はギルバートが挙げた戦法を取ると想定しているだろう。
実際、戦闘能力を考えれば《魔動要塞》本体は《イクスキャリヴル》で押さえるのが適役ではある。規格外の戦闘能力という意味では《イクスキャリヴル》でなけば《魔動要塞》に致命的なダメージを与えるのは難しいだろう。
だが、それは敵も予測出来ていることだ。
「なので、《魔動要塞》を僕らが引き付け、撹乱している間に《イクスキャリヴル》は敵魔動機兵部隊の殲滅をお願いします」
《イクスキャリヴル》と《魔動要塞》を除いた戦力を比較した場合、いくら《アルフ・カイン》をベースにした高性能機体とはいえ、護剣騎士団の魔動機兵はたった三機しかおらず、敵は要塞内部に格納した魔動機兵が二十から三十はいると推定される。《イクスキャリヴル》ほどの飛び抜けた性能を持たない魔動機兵では、これほどまでの数の不利は覆し難い。
障害物の多い市街地戦闘ならまだしも、平野では余計に分が悪かった。
《イクスキャリヴル》が《魔動要塞》を破壊できたとしても、その時に援護と連携をするべき魔動機兵が全滅していては格好がつかない。護剣騎士団として部隊を編成した意義もなくなってしまう。
そこで、ギルバートが考えたのは、戦闘能力の突出した《イクスキャリヴル》で数の不利を先に潰してしまおうというものだった。
「指揮車両は戦闘の余波が届かないように十分な距離を取っていて下さい」
「了解だ。観測を続けつつ、流れ弾には注意しよう」
ギルバートの指示を受けて、指揮車両を含む部隊輸送をしてきた魔動車両たちが後退していく。マナストリーム等が飛び交えば遮蔽物も意味をなさないが、《魔動要塞》の進路上から外れれば、少なくとも踏み潰される事態は避けられるはずだ。
「では、行きましょう」
ギルバートの号令に従って、護剣騎士団の四機は歩き出した。
国境線を超えて、少し進んだところでそれは姿を表した。
まるで山が歩いているかのような巨体を、巨大な建築物かと思うような足で支え、歩いている。八方に伸びた足は太く、分厚い壁のような装甲で幾重にも覆われていて、関節部分もいくつもの装甲で複雑に包み隠している。
小さな町一つ分はあろうかという砦を、そっくりそのまま持ち上げているかのようだった。
「こいつは……実物を見ると迫力やべぇな」
グリフレットも圧倒されていた。
「全長二千五百に、高さ四百だったかしら……」
観測情報からの報告によれば、およそ二千五百メートル四方の敷地面積を持つ砦に足を付けたようなものだったはずだ。基地部分の高さは二百メートルから三百メートル程だが、それを持ち上げ、歩くために支える足の高さが百メートル近くはあるという。
「これを三機で押さえるってか」
グリフレットが苦笑混じりに呟いた。
ただ接近するだけでも難儀しそうだ。
と、《魔動要塞》の方に光が見えた。
「撃ってくる!」
アルザードは向けられた魔力を察知し、ギュラナイのマナストリーム放射機構を《魔動要塞》へと向けた。その動きに応じるように、三機の《イクサ》タイプが《イクスキャリヴル》の傍へと駆け寄る。
柄の部分を挟んで《イクスキャリヴル》とは反対側に三機の魔動機兵が立つと同時に、柄からグリップが飛び出し、その足元に車輪のついた台のようなものが射出された。三機の《イクサ》タイプはそれぞれに足元に落下した台の上へ足を乗せ、ローラーソールを履く。
アルザードは四機の前面を覆うようにマナストリームをシールド状に拡散展開させ、《魔動要塞》が放った閃光を受け止めた。
すぐさま光が放たれた方へ視線を向ける。
センサーカメラがアルザードの魔力と意思を汲み取って、見たい場所を的確に拡大する。
「《ダンシングラビット》……!」
そこに映し出されたのは、《魔動要塞》の上から大口径狙撃銃らしきものを構える《ダンシングラビット》の姿だった。




