6.配偶者を与えられた
あなたの腕にしがみついて泣いた次の日、私はママに誘われて特殊な施設に連れて行かれた。気分は囚人そのものだった。同学年だけが集められるそこには、悲しい事実を知ったばかりの同級生の顔がいくつもあった。だけど私が一番ひどい顔をしていたと思う。散々に泣きはらし、一睡もせず、やり場のないみじめさと絶望にさいなまれていた私の顔が、この場でもっとも醜くて汚かったはずだ。
この施設で、私は同級生達との集団生活を一か月半強要された。
様々なテストを受け、身体検査を受け、それ以外では心を成熟させる――もとい精神をコントロールするための超音波を聞かされ続け――ようやく苦行から解放された頃には、私達の誰もが本当の意味での大人になっていた。
事実を受け入れ、悲しみを悲しみと感じないようにする術を学び――そして最終日、私達の誰もが配偶者を手に入れていた。
「あなた方にはそれぞれにふさわしい相手がいるのですよ」
全員が集められたこの施設最大の広間において、檀上に立つアルファ系の女性がにこやかに私達を祝福した。
「おめでとう」
それを皮切りに、恐ろしい決定事項がざっくばらんに説明されていった。
アルファ系が知力を結集して開発したカップリングプログラム――そんなものがあることすら知らなかった。同い年の人としか結婚できない理由も知らなかった。まさか、結婚相手を自分で選ぶことすらできないなんて思わなかった。私には恋をする権利もないだなんて――知らなかった。
「家族を持つことは成人の義務です。子孫を残すことも、そう。そしてよりすばらしい血流を後世に残すためには、あなた方はそれぞれにふさわしい相手と結ばれなくてはならないのです……!」
檀上の女性が高らかに言い切り話を締めくくるや、私達を取り囲むカラーズ達が一斉に拍手をし出した。おめでとう、おめでとうと口々に言いながら。
その後、一人一人が順番に個室に呼ばれた。
そこには先ほど檀上に立っていた女性がいて、あなたの配偶者はこの人ですよ、とモニタ画面上の写真を示しながら満面の笑みで告げられた。
見知らぬ男をあてがわれ、あなた方夫婦はこれからは「スワ」と名乗るようにと命じられたその日――この施設で暮らしていた全員が新婚夫婦のための団地へと強制移動させられた。
その団地は、いわゆる赤ちゃん製造工場だった。
*
同級生の多くが中学卒業後に肉体労働に就くことが決まっていたことは知っていたけれど、そのうち、女子の九割には就職先すら用意されていなかったことを知ったのはこの日だった。つまり、どこにも働きに出ることなく、毎日注射を打たれ、薬を飲まされ、性生活を管理され――ひたすら妊娠する日を待ち望む日々を過ごすよう命じられたのである。
幸い、私は高等学校に進学したことで妊娠を免除されていたし、それどころか不測の妊娠によって学業が中断しないように性的な行為の一切を禁止されていた。私は特異なサンプルだったようだ。でも、そういうカラーズの好奇心の強さのおかげで、私のようなちっぽけな女の子がいっとき救われていたのは事実だった。
私の配偶者は、それまで一度も会ったことがない人だった。同じ学校の人でもなかった。うりざね顔で、肌は白く、ひょろりとした体格には健康であることを証明できるパーツは一つも見つからない――そんな人だった。とはいえ、彼も高等学校に進学が決まっていたいわゆる秀才だった。それゆえだろうか、私達夫婦は次第に『同じ部屋で寝食を共にするただの同居人』という関係に収まっていった。
高校生活が始まるや、私はひたすら勉学に打ち込んだ。
いい成績を上げ、絶対にパパの在籍する大学に進学したい――と。
そうしたら、またあなたに会える。それにまだ妊娠しなくて済む。それだけが当時の私の生きがいだった。集団生活の間は必死に内心を隠していたけれど、私はあなたへの恋心を捨ててはいなかったし、カラーズが望むような大人になるつもりも毛頭なかった。
朝夕、団地の外で腹を膨らませた同級生にすれ違うようになっても、生まれたばかりの赤ちゃんを乗せた乳母車が廊下沿いに多数並ぶようになっても――室内にいるのに赤ちゃんの泣き声が聞こえてくるような気がしても――私は絶望に満ちた現実から目を背け、かすかな光を掴もうと必死になっていた。




