24話 「Limited War: Tournament Continues」
――空中戦艦『ベオウルフ』、医務室。
「……大体こんな感じでしょうか」
口元に指を当て、サラが天井を見上げるように考える。
――伯爵の挙兵。王の大会。一回戦の相手と、その結末。そして、二人の負傷。
「……なるほどな」
金髪の男は眼鏡を正す。
「ちょうどいいタイミングで俺が起きた、というわけだ」
「治療は、ちゃんと終わっていますわ。……今度は、途中ではありません」
サラが、腕のデバイスの数値を、もう一度だけ確かめて言う。
「ですから、無理さえしなければ――」
「分かっている。問題はないさ」
それでも、彼は家族たるチームメンバーの為ならば――
だが、サラはそれを知る由はない。
『――すまんな皆、待たせた』
『オーエン!!』
真っ先に跳ねたのは、千瀬の声だった。僅かな喜びがその声には滲んでいる。
『――遅ぇんだよ、この野郎』
ACの声は、いつも通りの悪態だった。ただ、そこには信頼が潜んでいた。いつも一番必要としている時に、彼は戻ってくるとの。
『……おかえり、オーエン』
タクマからはそれだけ。まるで家族を迎えるがごとく。
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『……オーエン。妾から、報告せねばならぬ事がある』
最初に切り出したのは、アレクシアだった。
彼女は、一回戦の全てを話した。自分が指揮を執った事。霧の中で、術が出なかった事。号令が止まった事。そしてその間に、タクマが気を失い、千瀬が傷を負った事。
飾りも、言い訳も、そこには無い。
『――全て、妾の不足じゃ。済まぬ』
『アレクシア』
オーエンの声は、平坦だった。
『お前さんは、自分の能力内で全力で努力した。それでいい』
『……じゃが』
『敗北ではない以上――どうにでもなる』
そこに含まれたのは、自信。「後は俺に任せたまえ」という、自信に裏付けされた安心感。
その瞬間アレクシアは改めて理解する。何故、この男がいない間、あそこまでウルフパックの皆が浮足立っていたのかを。
『さて。タクマ、千瀬。二人とも、一度艦へ上がりたまえ』
『え、でも次の試合が――』
『傷を抱えたまま出る試合ではない。……カプセルは一つだ。実際に傷のある千瀬が先に入れ。浅い傷なら、そう時間は掛からん』
『……はぁい』
『タクマ。千瀬が入っている間、艦のシステムを見ていてくれたまえ。艦を無人には出来んし、通信を通して何かしらお願いする可能性もある』
『……うん。分かった』
その言葉に含まれた物を、タクマは正しく受け取った。
――あの日の事を、この男が一番、忘れていない。
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『――で、だ』
ACが、話を切り替える。
『次をどうする。……紫狼牙もアルティアも、使いもんにならねぇぞ』
『そうだな』
『残るのは俺と姫さんの二人だが……お前が現場で指揮を執るってんなら――』
『いや』
オーエンは、首を振った。
『それでは、不確定要素が多い』
――二機。そこに自分を加えて三機。
一回戦の相手が五機だった事を思えば、数で押し潰される目は十分にある。
加えて、アレクシアの新機体には欠陥がある。
オーエンは、傍らに立つサラへと向き直った。
「サラ」
「……はい?」
「ぶっつけ本番だが……手助けしてくれないか?」
サラは、きょとんと目を瞬かせた。
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――格納庫。
引力ビームで引き上げられた鈍銀の重装から、アレクシアが降りてくる。
そして、生産キューから新たに降ろされた「それ」を見上げていたサラの隣で、足を止めた。
「……これは」
巨大、だった。
普通のアーデントより、一回りは大きい。上半身こそ人の形を保っているが、その下は、もはや脚ではなかった。
分厚い装甲に覆われた、二条の履帯。
城壁から、上半身だけが生えているような。――要塞、と呼ぶ方が近い。
「『エマージェント』…サラ、お前さんの機体だ」
「私の……」
「以前、お前さんに趣味を聞いた事があったろう」
「……あ」
サラの目が、見開かれる。
――艦に来て、まだ間もない頃。何気ない雑談の中で、オーエンにそう聞かれた。
そして自分は、確か。
「……車の、運転」
「そういう事だ」
オーエンは、小さく口の端を上げた。
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「アレクシア。本来は乗る前に説明をしたかったのだが――」
オーエンは、鈍銀の重装を見上げた。
「『シルバリオン』。詳細を説明すべきだったが、その機会はなかったな」
苦笑いしながらオーエンがその名を呼べば。
「……妾の機体と、似た名じゃな」
「偶然だ」
即答だった。アレクシアの口元が、ほんの僅かに緩む。
「本題だ。……術が出なかった件だが」
オーエンは、格納庫の奥――白銀の機兵へと目を移す。
「俺は、お前さんの機体を解析しようとした。だが、外側と骨格は写し取れても、中身は読めなかった。……その中に、どうにも正体の解らない部分がある」
「正体の、解らぬ……」
「ああ。解析不能の、ブラックボックスだ。そして、解らない物は、新しい機体には積めていない」
――アレクシアは、しばらく黙っていた。
掌の内で、確かに光は生まれていた。なのに、それは外へ出ていかなかった。
出て行く為の、何か。
「……それが、恐らく」
「恐らく、な。確証は無い」
オーエンは、そこで一つ区切った。
「なので、だ。――次の試合は、元の機体で出たまえ」
「……こちらでは、ならぬのか」
アレクシアは、鈍銀の重装を振り返る。
一回戦で、確かに手に馴染んだ機体だった。装甲や、腕力出力の面では圧倒的に白銀機よりも勝っている。
「確かにそうだが……その機体には、まだ教えていない仕掛けも積んであるし、総合力では有利かも知れん」
「仕掛け?」
「今説明してもあまり役には立たん。ぶっつけ本番で役に立つ物ではない。それに――」
考え込むように顎に手を当てるオーエン。
「お前さんの術は、戦術的に非常に重要な意味を持つ。今回は――それが重要だ」
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――闘技場。
「……おい、なんだありゃ」
桟敷のあちこちで、ざわめきが波のように広がっていた。
西側の陣に並んだのは、四機。
中量の斧持ち。青黒い重装。白銀の騎士。
――そして、そのどれよりも大きな、鉄の塊。
「脚が……無ぇぞ」
革鎧の男が、身を乗り出す。
「いや、あるにはある。……ありゃ、なんだ。荷車か?」
「見た事のねぇ型の機兵……アレは本当に機兵か?まるで馬なしで動く戦車」
「砦が、這って来たみてぇだ」
「――よう。また会ったな」
二人の隣に、どっかりと大きな影が腰を下ろした。
ボルトだった。
そしてその目は、真っ直ぐに西の陣の、青黒い重装へと向けられている。
「……ボルトさん、あれ」
「ああ」
ボルトの口元が、ほんの少しだけ動いた。
「戻ってきやがったな」
「――それよりよ」
革鎧の男が、声を落とした。
「あの白銀の。……あれ、まさか『銀光の騎士』か?」
「……かもしれねぇな」
ボルトは、顎を撫でた。
「俺も、噂でしか知らねぇ。白銀の機兵に乗った、流れの騎士がいるってな。……だが、白銀で、盾と槍。聞いた話と、特徴はぴったりだ」
「そんな大物が、なんでウルフパックに」
「前の試合で、怪我人が出たんだろ。紫のと、狙撃手の姿がねぇ」
ボルトは、西の陣を一つずつ数えるように見た。
「……それに、あの鈍い銀の重装も居ねぇ。見た感じ、壊れちゃいなかったがな。流れ弾でも喰らって、中身が怪我したってとこか」
「じゃあ、あの白銀は」
「助っ人だろうな。……一時的な」
――見知らぬ騎士が、一人。
ボルトの中で、それは前の試合の鈍銀とは、別の人間として並んでいた。
「で、相手は『バトルレイド』か」
若い術士が、戦場である光のドームに投影された文字に目をやる。
「術士が三。それと、戦士が一」
「……随分と、術士に寄せたな」
「前の試合、見てたんだろ」
革鎧の男が、肩を竦める。
「霧が出た途端、ウルフパックの足が止まった。……ありゃ、術に弱ぇって見られても仕方ねぇ」
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東側の陣。
『バトルレイド』の先頭に立つ機体から、外部スピーカー越しの声が上がった。
「――審判官殿! あれは、機兵と呼べるのか!」
指さした先は、西の陣の、巨大な鉄塊。
「脚も無い、あのような化物を持ち込むのは、規定に悖るのではないか!」
闘技場の縁。審判官は、眉ひとつ動かさなかった。
「規定に、機兵の形を定める条は無い」
「しかし――」
「この大会は、戦の力を問う物である」
その声は、よく通った。
「たとえ甲獣であろうとも、それを御し、戦わせる事が出来るのならば。……それは、その者の力だ」
――反論は、それきり出なかった。
代わりに、東の陣に、ほんの僅かな揺らぎが走る。
視線の先には、白銀の騎士。
「……おい、あれ。銀光の――」
「構うな。編成はもう決まってる」
リーダーらしき機体が、それを切って捨てた。
「奴らの目は、術で潰せば止まる。……前の試合で、それは分かってるだろう」
肩に結晶を抱えた術士機が、三機。
そしてもう一機は、結晶を持たない、剣を提げた戦士の姿。
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『――サラ。どうだ、操作の感触は』
ギルドの回線に、オーエンの声が流れる。
『はい。……足だけで動かさなければいけないのは、少し違いますけれど』
サラの声は、思ったよりも落ち着いていた。
『感覚は、車の運転に近いですわ。手の方は、腕の操作に回せますし。……大丈夫です』
『それならいい。恐れるな。お前さんの機体には――絶対にお前さんにダメージが及ばないよう、仕込みをしてある。遠慮なく動かせばいい』
――確かに揺れない、とサラは思っていた。
乗り込んだ時、座席ごと、機体の奥の、下の方へと運ばれた。起動した途端、座席はふわりと浮いたまま、どこにも触れていない。
これがオーエンの言う仕込みなのだろうか。不思議な感覚だった。けれど、怖くはない。
『お前さんは、基本的に腕や肩を、相手にぶつけるだけでいい……奥の手もあるが、そっちの方は考えなくていい』
『……はい』
『アレクシア』
『うむ』
『連絡があるまでは、安全重視の防戦だ。今回はお前さんの機体の装甲が一番薄い。サラの機体の後ろに隠れていたまえ』
シルバリオンを使わない以上、相手の攻撃次第では致命傷もありうる。アレクシアの技量を考えればその可能性は低いだろうが――オーエンは、可能な限りリスクは取らない方針に振った。
『――承知した』
『……おい』
ACが、不満げな声を出した。
『俺にはねぇのか』
『ここまで喋って、お前さんに俺の考えが読めぬわけもあるまい』
『……へっ。そりゃ――』
にやりと。
『見てきているからな』
ACは、それ以上何も言わなかった。
言う必要が、無かった。
――銅鑼が、鳴った。
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開戦と同時に、陣の最後方で、『ロウメイカー』の背から、何かが飛び出す。
射出されたのは、巨大なカプセル。
放物線を描いて、それは戦場の中央へと――
「――撃ち落とせ!」
東の陣で、術士機の一機が腕を振るった。
氷塊が、生まれる。一つではない。拳ほどの氷の弾が、立て続けに、雨のように撃ち出された。
飛翔物に正確に当てるのは難しい。ならば、物量で弾幕を張ればいい。
氷弾の幾つかが、飛翔するカプセルを捉えた。
――空中で、閃光。
砕けたカプセルから、白煙が噴き出した。
だがそれは、戦場の中央には届かない。撃ち落とされた場所――ウルフパックの陣の手前へと、重たく垂れ込めていく。
「……ははっ、見ろ!」
桟敷の誰かが、声を上げた。
「自分の陣に撒いちまったぞ!」
「……しくじったな」
東の陣。リーダー機が、低く笑う。
「あれで、自分の目を潰した。……霧の時と同じだ。これで奴らは、また止まる」
――白煙の、奥で。
オーエンは、眼鏡を押し上げた。
(「――さて」)
撃ち落とされなければ、誤爆として遠隔撃発し、同じ場所に煙は展開していた。
どちらでも、良かったのだ。
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『サラ。――行きたまえ』
白煙が、内側から膨らんだ。
大地を削り取るような、履帯の軋む音。
そして、煙を押し退けるようにして、それは現れた。
「――来たぞ!」
「なんだ、ただ突っ込んで来るだけか!?」
東の陣が、色めき立つ。
鈍重な、真っ直ぐな突進。煙の中で視界を失い、どうする事もできずに飛び出してきた――彼らの目には、そう映った。
「破れかぶれだ! 全員、あのデカブツに集中しろ!」
――術が、殺到した。
氷塊の雨が、正面装甲に叩きつけられる。砕けた氷が、白い霧となって散った。
炎の奔流が、上半身を舐める。
そして、紫の雷が、落ちた。
雷光が、鉄の巨体の表面を、蜘蛛の巣のように走り抜ける。
――止まらなかった。
「……効いて、ねぇ……?」
術士の一人が、呆然と呟いた。
氷は砕けるだけ。炎は装甲を焦がす事すらない。雷は表面を走り、そのまま地面へと抜けていく。
鉄の要塞は、何事も無かったかのように、ただ前へ進み続けていた。
「……揺れませんのね、本当に」
機体の奥底で、サラは小さく呟いた。
宙に浮いた座席には、衝撃も、雷も、何一つ届かない。
モニターの向こうで光が弾けているのが、まるで遠い花火のようだった。
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――白煙の上。
戦場の空に浮かんだ、幾つもの小さな球体。『オーバーシアー』。
その目が、東の陣の全てを捉えていた。
四機の術が、一点に集まっている。視線も、意識も、全てが鉄の要塞に吸い寄せられている。
――そして、その要塞の、真後ろ。
巨体の陰に張り付くようにして、二つの機影が、共に走っていた。
『……姫さん、見えてるか』
『見えぬ。……じゃが、その必要もあるまい』
白銀の機兵には、熱を見る目は無い。
だからグレイヴンの腰部チェーンを腕に巻き付け、アレクシアは、引かれるようにして、前方へ突進する。
『――今だ』
オーエンの声。
チェーンが動く金属音と共に、要塞の左右から、二機が弾けるように飛び出した。
右。チェーンを手放した白銀の騎士が、大盾を構えたまま、最も近くに居た氷の術士機へと、真正面から体ごと突っ込む。
「――っ!?」
盾ごと叩き込まれた機体が、大きく後ろへ弾き飛ばされた。
左。『グレイヴン』の腰から、竜の尾の如く、先ほどまで白銀の騎士を導いていた鎖が放たれる。
雷の術士機の腕に絡みついたそれを、ACは腰を落として、力任せに引いた。
「――こっち来いや」
引き摺られた機体が、仲間の陣から、ずるずると引き剥がされていく。
「なっ――後ろに、隠れて……!?」
東の陣が、一瞬で割れた。
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残されたのは、二機。
炎の術士機と、剣を提げた戦士の姿の機体。
「……落ち着け」
戦士の姿の機体――リーダー機が、要塞を睨み据える。
「あのデカブツは、硬いだけだ。……遅い」
確かに、その通りだった。
真っ直ぐに進む事は出来ても、あの巨体に、機敏な動きは望めない。
「距離を取れ。離れて、術で削り続ける。……幾ら硬かろうが、いつかは――」
――離れる、よりも早く。
ウルフパックの陣に残る白煙の、その縁から、再度何かが飛来する。
煙幕故に気づくのが遅れ迎撃できず、その弾は、二機の足元で弾けた。
飛び散ったのは、炎でも、氷でもない。黒く、ぬらりと光る、粘りのある液体。
「……なんだ、これは――」
跳び退こうとした、その足が。
――滑った。
「――っ、うおぉっ!?」
踏み込んだ脚が、そのまま明後日の方へと流れる。重心を失った機体が、無様に土の上へ倒れ込んだ。隣の術士機も、同じだった。起き上がろうと手を突けば、その手が滑る。
『潤滑油弾だ』
白煙の中から、青黒い重装が、ゆっくりと姿を現した。
そして。
滑る地面の上を、要塞は、何事も無いかのように進んで来た。
凄まじい重量が、履帯を油の膜ごと地面へと押し付ける。滑るより先に、鉄の帯が、その下の土を噛む。
『サラ、そのまま前進だ。ゆっくりでいい。やりすぎるなよ?』
『は、はい……っ!』
倒れた術士機の脚へと、要塞がのしかかった。
――鉄が、潰れる音。
圧壊した脚部から、火花が散った。術士機は、それきり起き上がる事が出来なくなった。
「――一機、行動不能!」
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「――まだだッ!」
リーダー機が、剣を地面へと突き立てた。
滑る足ではなく、刺さった剣を支点にして、強引に体を引き起こす。
その刃に、紫の光が宿った。
「――雷よ、攫え!」
雷光が、弾けた。
剣から迸った雷に乗るようにして、機体が宙へと跳ね上がる。油の上を越え、要塞の頭上を越え――
その、真後ろへ。
『後ろだ』
オーバーシアーの目は、跳躍の瞬間を捉えていた。
機体が着地するより先に、オーエンの声が届く。
『右の履帯を前、左を後ろ。――車ではこの機動はできんが、覚えておくといい』
「……っ!」
考えるより先に、サラの足が動いていた。
右を踏み、左を引く。
左右の履帯が逆に回り、要塞は、その場で巨体を捻った。
――超信地旋回。
決して、速くはない。だが、跳んだ機体が着地し、剣を振りかぶる、その僅かな時間には。
――間に合った。
「――なっ!?」
振り向いた先に、正面装甲があった。
雷を纏った剣が、振り下ろされる。
迎え撃ったのは、回転の勢いを乗せた要塞の拳だった。
ずっと、熱を帯びていた拳。巨体を動かし続ける熱を、そのまま溜め込んだ拳。
――ヒートナックル。
刃と拳が、正面からぶつかった。
雷光が弾け――そして、剣の方が、赤く、柔らかく、ひしゃげた。
高熱に曝された刃が、飴のように溶け落ちていく。
「な、に……」
呆然とした声が、途切れる前に。
赤熱した拳が、剣を握った腕ごと、機体を叩き伏せた。
鉄が軋み、リーダー機は横倒しに土の上を転がって、止まった。
動かない。
「――二機、行動不能!」
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――一方、右。
弾き飛ばされた氷の術士機は、体勢を立て直すなり、両腕を突き出していた。
「――穿て!」
至近距離から、氷塊の連射。
白銀の騎士は、大盾を掲げた。
「――光よ、纏え」
盾の表面を、柔らかな光が覆った。
氷塊が、叩きつけられる。だがその悉くが、光に触れた瞬間に砕け、盾の縁を滑るように逸らされていく。
(「……問題ないようじゃの」)
掌の内に生まれた光が、ちゃんと、外へ出て行く。
当たり前の事が、当たり前に在る。それだけの事が、今は、ひどく心強かった。
盾を構えたまま、踏み込む。
巧みに氷の雨を盾でいなし、受け流しながら、真っ直ぐに。
「来るな――!」
術士機が、後退する。だが、白銀の騎士の巧みな足さばきにより、距離はどんどん縮まっていく。
間合いに、入った。
「――閃け」
盾の裏から、光が爆ぜた。
至近距離で放たれた閃光が、術士機の視界を、真っ白に焼き潰す。
「ぐっ――目が……!?」
その、一瞬。
盾の陰から抜き放たれた長剣が、弧を描いた。
神速の斬撃の狙いは、術を放ち続けていた両腕の付け根。そして、肩の結晶。
――切り裂かれた結晶が、硝子のように砕けて散った。
腕を失った機体が、膝から崩れ落ちる。
「――三機、行動不能!」
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――そして、左。
チェーンから解放された雷の術士機は、よろめきながらも、腕を上げようとしていた。
狙いは、目の前の斧持ち。
肩の結晶に、紫の光が集まり始める――
――それよりも、ACの方が、速い。
「――遅ぇ」
巻き戻ったチェーンが、再び放たれた。
今度は腕ではない。低く、地を這うように、相手の脚を払う。
足を刈られた機体が、宙に浮いた。
その、真上に。
身の丈ほどもある戦斧が、既に振りかぶられていた。
「――オラァッ!!」
大上段からの、一撃。
叩きつけられた斧が、倒れ込んだ機体の肩口を、結晶ごと地面へと縫い付けた。
土が爆ぜ、紫の光は、放たれる事無く霧散した。
「――四機、行動不能! 勝者、『ウルフパック』!」
審判官の声が、闘技場に響き渡った。
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――桟敷。
しばらく、誰も声を出さなかった。
「……今の、見たか」
革鎧の男が、ようやく口を開いた。
「煙を撒き損ねた、と思ったら……あのデカブツが出てきて。気付いたら、後ろから二機……」
「撒き損ねたんじゃねぇだろ、ありゃ」
若い術士が、額を押さえた。
「全部、あの青黒いのの手の上だ。……前の試合と、まるで別のチームじゃねぇか」
「――なぁ、ボルトさん」
男が、隣を振り返った。
ボルトは、今度は眉を寄せてはいなかった。
土の上に転がる四つの機体と、その只中に悠然と立つ、青黒い重装。
それを見下ろしながら、赤茶けた短髪の大男は、ゆっくりと口の端を持ち上げていく。
「……へっ」
朗らかな――そして、どこか嬉しそうな、笑み。
「――やっと、調子が戻ったじゃねぇか」




