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Ardent Armada  作者: 剣崎 宗二
Chapter 6「力と責任と権力と」
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24話 「Limited War: Tournament Continues」

 ――空中戦艦『ベオウルフ』、医務室。


「……大体こんな感じでしょうか」

 口元に指を当て、サラが天井を見上げるように考える。

 ――伯爵の挙兵。王の大会。一回戦の相手と、その結末。そして、二人の負傷。


「……なるほどな」

 金髪の男は眼鏡を正す。

「ちょうどいいタイミングで俺が起きた、というわけだ」

「治療は、ちゃんと終わっていますわ。……今度は、途中ではありません」

 サラが、腕のデバイスの数値を、もう一度だけ確かめて言う。

「ですから、無理さえしなければ――」

「分かっている。問題はないさ」

 それでも、彼は家族たるチームメンバーの為ならば――

 だが、サラはそれを知る由はない。


『――すまんな皆、待たせた』


『オーエン!!』

 真っ先に跳ねたのは、千瀬の声だった。僅かな喜びがその声には滲んでいる。

『――遅ぇんだよ、この野郎』

 ACの声は、いつも通りの悪態だった。ただ、そこには信頼が潜んでいた。いつも一番必要としている時に、彼は戻ってくるとの。

『……おかえり、オーエン』

 タクマからはそれだけ。まるで家族を迎えるがごとく。


----


『……オーエン。妾から、報告せねばならぬ事がある』

 最初に切り出したのは、アレクシアだった。

 彼女は、一回戦の全てを話した。自分が指揮を執った事。霧の中で、術が出なかった事。号令が止まった事。そしてその間に、タクマが気を失い、千瀬が傷を負った事。

 飾りも、言い訳も、そこには無い。

『――全て、妾の不足じゃ。済まぬ』


『アレクシア』

 オーエンの声は、平坦だった。

『お前さんは、自分の能力内で全力で努力した。それでいい』

『……じゃが』

『敗北ではない以上――どうにでもなる』

 そこに含まれたのは、自信。「後は俺に任せたまえ」という、自信に裏付けされた安心感。

 その瞬間アレクシアは改めて理解する。何故、この男がいない間、あそこまでウルフパックの皆が浮足立っていたのかを。


『さて。タクマ、千瀬。二人とも、一度艦へ上がりたまえ』

『え、でも次の試合が――』

『傷を抱えたまま出る試合ではない。……カプセルは一つだ。実際に傷のある千瀬が先に入れ。浅い傷なら、そう時間は掛からん』

『……はぁい』

『タクマ。千瀬が入っている間、艦のシステムを見ていてくれたまえ。艦を無人には出来んし、通信を通して何かしらお願いする可能性もある』

『……うん。分かった』

 その言葉に含まれた物を、タクマは正しく受け取った。

 ――あの日の事を、この男が一番、忘れていない。


----


『――で、だ』

 ACが、話を切り替える。

『次をどうする。……紫狼牙もアルティアも、使いもんにならねぇぞ』

『そうだな』

『残るのは俺と姫さんの二人だが……お前が現場で指揮を執るってんなら――』

『いや』

 オーエンは、首を振った。

『それでは、不確定要素が多い』

 ――二機。そこに自分を加えて三機。

 一回戦の相手が五機だった事を思えば、数で押し潰される目は十分にある。

 加えて、アレクシアの新機体には欠陥がある。


 オーエンは、傍らに立つサラへと向き直った。


「サラ」

「……はい?」

「ぶっつけ本番だが……手助けしてくれないか?」


 サラは、きょとんと目を瞬かせた。


----


 ――格納庫。


 引力ビームで引き上げられた鈍銀の重装から、アレクシアが降りてくる。

 そして、生産キューから新たに降ろされた「それ」を見上げていたサラの隣で、足を止めた。


「……これは」


 巨大、だった。

 普通のアーデントより、一回りは大きい。上半身こそ人の形を保っているが、その下は、もはや脚ではなかった。

 分厚い装甲に覆われた、二条の履帯(りたい)。

 城壁から、上半身だけが生えているような。――要塞、と呼ぶ方が近い。


「『エマージェント』…サラ、お前さんの機体だ」

「私の……」

「以前、お前さんに趣味を聞いた事があったろう」

「……あ」

 サラの目が、見開かれる。

 ――艦に来て、まだ間もない頃。何気ない雑談の中で、オーエンにそう聞かれた。

 そして自分は、確か。

「……車の、運転」

「そういう事だ」

 オーエンは、小さく口の端を上げた。


----


「アレクシア。本来は乗る前に説明をしたかったのだが――」

 オーエンは、鈍銀の重装を見上げた。

「『シルバリオン』。詳細を説明すべきだったが、その機会はなかったな」

 苦笑いしながらオーエンがその名を呼べば。

「……妾の機体と、似た名じゃな」

「偶然だ」

 即答だった。アレクシアの口元が、ほんの僅かに緩む。


「本題だ。……術が出なかった件だが」

 オーエンは、格納庫の奥――白銀の機兵へと目を移す。

「俺は、お前さんの機体を解析しようとした。だが、外側と骨格は写し取れても、中身は読めなかった。……その中に、どうにも正体の解らない部分がある」

「正体の、解らぬ……」

「ああ。解析不能の、ブラックボックスだ。そして、解らない物は、新しい機体には積めていない」

 ――アレクシアは、しばらく黙っていた。

 掌の内で、確かに光は生まれていた。なのに、それは外へ出ていかなかった。

 出て行く為の、何か。

「……それが、恐らく」

「恐らく、な。確証は無い」

 オーエンは、そこで一つ区切った。

「なので、だ。――次の試合は、元の機体で出たまえ」


「……こちらでは、ならぬのか」

 アレクシアは、鈍銀の重装を振り返る。

 一回戦で、確かに手に馴染んだ機体だった。装甲や、腕力出力の面では圧倒的に白銀機よりも勝っている。

「確かにそうだが……その機体には、まだ教えていない仕掛けも積んであるし、総合力では有利かも知れん」

「仕掛け?」

「今説明してもあまり役には立たん。ぶっつけ本番で役に立つ物ではない。それに――」

 考え込むように顎に手を当てるオーエン。

「お前さんの術は、戦術的に非常に重要な意味を持つ。今回は――それが重要だ」


----


 ――闘技場。


「……おい、なんだありゃ」


 桟敷のあちこちで、ざわめきが波のように広がっていた。

 西側の陣に並んだのは、四機。

 中量の斧持ち。青黒い重装。白銀の騎士。

 ――そして、そのどれよりも大きな、鉄の塊。


「脚が……無ぇぞ」

 革鎧の男が、身を乗り出す。

「いや、あるにはある。……ありゃ、なんだ。荷車か?」

「見た事のねぇ型の機兵……アレは本当に機兵か?まるで馬なしで動く戦車」

「砦が、這って来たみてぇだ」


「――よう。また会ったな」

 二人の隣に、どっかりと大きな影が腰を下ろした。

 ボルトだった。

 そしてその目は、真っ直ぐに西の陣の、青黒い重装へと向けられている。

「……ボルトさん、あれ」

「ああ」

 ボルトの口元が、ほんの少しだけ動いた。

「戻ってきやがったな」


「――それよりよ」

 革鎧の男が、声を落とした。

「あの白銀の。……あれ、まさか『銀光の騎士』か?」

「……かもしれねぇな」

 ボルトは、顎を撫でた。

「俺も、噂でしか知らねぇ。白銀の機兵に乗った、流れの騎士がいるってな。……だが、白銀で、盾と槍。聞いた話と、特徴はぴったりだ」

「そんな大物が、なんでウルフパックに」

「前の試合で、怪我人が出たんだろ。紫のと、狙撃手の姿がねぇ」

 ボルトは、西の陣を一つずつ数えるように見た。

「……それに、あの鈍い銀の重装も居ねぇ。見た感じ、壊れちゃいなかったがな。流れ弾でも喰らって、中身が怪我したってとこか」

「じゃあ、あの白銀は」

「助っ人だろうな。……一時的な」

 ――見知らぬ騎士が、一人。

 ボルトの中で、それは前の試合の鈍銀とは、別の人間として並んでいた。


「で、相手は『バトルレイド』か」

 若い術士が、戦場である光のドームに投影された文字に目をやる。

「術士が三。それと、戦士が一」

「……随分と、術士に寄せたな」

「前の試合、見てたんだろ」

 革鎧の男が、肩を竦める。

「霧が出た途端、ウルフパックの足が止まった。……ありゃ、術に弱ぇって見られても仕方ねぇ」


----


 東側の陣。

 『バトルレイド』の先頭に立つ機体から、外部スピーカー越しの声が上がった。


「――審判官殿! あれは、機兵と呼べるのか!」

 指さした先は、西の陣の、巨大な鉄塊。

「脚も無い、あのような化物を持ち込むのは、規定に悖るのではないか!」


 闘技場の縁。審判官は、眉ひとつ動かさなかった。

「規定に、機兵の形を定める条は無い」

「しかし――」

「この大会は、戦の力を問う物である」

 その声は、よく通った。

「たとえ甲獣であろうとも、それを御し、戦わせる事が出来るのならば。……それは、その者の力だ」


 ――反論は、それきり出なかった。


 代わりに、東の陣に、ほんの僅かな揺らぎが走る。

 視線の先には、白銀の騎士。

「……おい、あれ。銀光の――」

「構うな。編成はもう決まってる」

 リーダーらしき機体が、それを切って捨てた。

「奴らの目は、術で潰せば止まる。……前の試合で、それは分かってるだろう」


 肩に結晶を抱えた術士機が、三機。

 そしてもう一機は、結晶を持たない、剣を提げた戦士の姿。


----


『――サラ。どうだ、操作の感触は』

 ギルドの回線に、オーエンの声が流れる。


『はい。……足だけで動かさなければいけないのは、少し違いますけれど』

 サラの声は、思ったよりも落ち着いていた。

『感覚は、車の運転に近いですわ。手の方は、腕の操作に回せますし。……大丈夫です』

『それならいい。恐れるな。お前さんの機体には――絶対にお前さんにダメージが及ばないよう、仕込みをしてある。遠慮なく動かせばいい』

 ――確かに揺れない、とサラは思っていた。

 乗り込んだ時、座席ごと、機体の奥の、下の方へと運ばれた。起動した途端、座席はふわりと浮いたまま、どこにも触れていない。

 これがオーエンの言う仕込みなのだろうか。不思議な感覚だった。けれど、怖くはない。


『お前さんは、基本的に腕や肩を、相手にぶつけるだけでいい……奥の手もあるが、そっちの方は考えなくていい』

『……はい』


『アレクシア』

『うむ』

『連絡があるまでは、安全重視の防戦だ。今回はお前さんの機体の装甲が一番薄い。サラの機体の後ろに隠れていたまえ』

 シルバリオンを使わない以上、相手の攻撃次第では致命傷もありうる。アレクシアの技量を考えればその可能性は低いだろうが――オーエンは、可能な限りリスクは取らない方針に振った。

『――承知した』


『……おい』

 ACが、不満げな声を出した。

『俺にはねぇのか』

『ここまで喋って、お前さんに俺の考えが読めぬわけもあるまい』


『……へっ。そりゃ――』

 にやりと。

『見(・)て(・)き(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)な(・)』

 ACは、それ以上何も言わなかった。

 言う必要が、無かった。


 ――銅鑼が、鳴った。


----


 開戦と同時に、陣の最後方で、『ロウメイカー』の背から、何かが飛び出す。

 射出されたのは、巨大なカプセル。

 放物線を描いて、それは戦場の中央へと――


「――撃ち落とせ!」

 東の陣で、術士機の一機が腕を振るった。

 氷塊が、生まれる。一つではない。拳ほどの氷の弾が、立て続けに、雨のように撃ち出された。

 飛翔物に正確に当てるのは難しい。ならば、物量で弾幕を張ればいい。

 氷弾の幾つかが、飛翔するカプセルを捉えた。


 ――空中で、閃光。

 砕けたカプセルから、白煙が噴き出した。

 だがそれは、戦場の中央には届かない。撃ち落とされた場所――ウルフパックの陣の手前へと、重たく垂れ込めていく。


「……ははっ、見ろ!」

 桟敷の誰かが、声を上げた。

「自分の陣に撒いちまったぞ!」


「……しくじったな」

 東の陣。リーダー機が、低く笑う。

「あれで、自分の目を潰した。……霧の時と同じだ。これで奴らは、また止まる」


 ――白煙の、奥で。

 オーエンは、眼鏡を押し上げた。

(「――さて」)

 撃ち落とされなければ、誤爆として遠隔撃発し、同じ場所に煙は展開していた。

 どちらでも、良かったのだ。


----


『サラ。――行きたまえ』


 白煙が、内側から膨らんだ。

 大地を削り取るような、履帯の軋む音。

 そして、煙を押し退けるようにして、それは現れた。


「――来たぞ!」

「なんだ、ただ突っ込んで来るだけか!?」

 東の陣が、色めき立つ。

 鈍重な、真っ直ぐな突進。煙の中で視界を失い、どうする事もできずに飛び出してきた――彼らの目には、そう映った。

「破れかぶれだ! 全員、あのデカブツに集中しろ!」


 ――術が、殺到した。


 氷塊の雨が、正面装甲に叩きつけられる。砕けた氷が、白い霧となって散った。

 炎の奔流が、上半身を舐める。

 そして、紫の雷が、落ちた。

 雷光が、鉄の巨体の表面を、蜘蛛の巣のように走り抜ける。


 ――止まらなかった。


「……効いて、ねぇ……?」

 術士の一人が、呆然と呟いた。

 氷は砕けるだけ。炎は装甲を焦がす事すらない。雷は表面を走り、そのまま地面へと抜けていく。

 鉄の要塞は、何事も無かったかのように、ただ前へ進み続けていた。


「……揺れませんのね、本当に」

 機体の奥底で、サラは小さく呟いた。

 宙に浮いた座席には、衝撃も、雷も、何一つ届かない。

 モニターの向こうで光が弾けているのが、まるで遠い花火のようだった。


----


 ――白煙の上。

 戦場の空に浮かんだ、幾つもの小さな球体。『オーバーシアー』。

 その目が、東の陣の全てを捉えていた。

 四機の術が、一点に集まっている。視線も、意識も、全てが鉄の要塞に吸い寄せられている。


 ――そして、その要塞の、真後ろ。

 巨体の陰に張り付くようにして、二つの機影が、共に走っていた。


『……姫さん、見えてるか』

『見えぬ。……じゃが、その必要もあるまい』

 白銀の機兵には、熱を見る目は無い。

 だからグレイヴンの腰部チェーンを腕に巻き付け、アレクシアは、引かれるようにして、前方へ突進する。


『――今だ』


 オーエンの声。

 チェーンが動く金属音と共に、要塞の左右から、二機が弾けるように飛び出した。


 右。チェーンを手放した白銀の騎士が、大盾を構えたまま、最も近くに居た氷の術士機へと、真正面から体ごと突っ込む。

「――っ!?」

 盾ごと叩き込まれた機体が、大きく後ろへ弾き飛ばされた。


 左。『グレイヴン』の腰から、竜の尾の如く、先ほどまで白銀の騎士を導いていた鎖が放たれる。

 雷の術士機の腕に絡みついたそれを、ACは腰を落として、力任せに引いた。

「――こっち来いや」

 引き摺られた機体が、仲間の陣から、ずるずると引き剥がされていく。


「なっ――後ろに、隠れて……!?」

 東の陣が、一瞬で割れた。


----


 残されたのは、二機。

 炎の術士機と、剣を提げた戦士の姿の機体。


「……落ち着け」

 戦士の姿の機体――リーダー機が、要塞を睨み据える。

「あのデカブツは、硬いだけだ。……遅い」

 確かに、その通りだった。

 真っ直ぐに進む事は出来ても、あの巨体に、機敏な動きは望めない。

「距離を取れ。離れて、術で削り続ける。……幾ら硬かろうが、いつかは――」


 ――離れる、よりも早く。

 ウルフパックの陣に残る白煙の、その縁から、再度何かが飛来する。


 煙幕故に気づくのが遅れ迎撃できず、その弾は、二機の足元で弾けた。

 飛び散ったのは、炎でも、氷でもない。黒く、ぬらりと光る、粘りのある液体。


「……なんだ、これは――」

 跳び退こうとした、その足が。

 ――滑った。


「――っ、うおぉっ!?」

 踏み込んだ脚が、そのまま明後日の方へと流れる。重心を失った機体が、無様に土の上へ倒れ込んだ。隣の術士機も、同じだった。起き上がろうと手を突けば、その手が滑る。


『潤滑油弾だ』

 白煙の中から、青黒い重装が、ゆっくりと姿を現した。


 そして。


 滑る地面の上を、要塞は、何事も無いかのように進んで来た。

 凄まじい重量が、履帯を油の膜ごと地面へと押し付ける。滑るより先に、鉄の帯が、その下の土を噛む。


『サラ、そのまま前進だ。ゆっくりでいい。やりすぎるなよ?』

『は、はい……っ!』


 倒れた術士機の脚へと、要塞がのしかかった。

 ――鉄が、潰れる音。

 圧壊した脚部から、火花が散った。術士機は、それきり起き上がる事が出来なくなった。


「――一機、行動不能!」


----


「――まだだッ!」


 リーダー機が、剣を地面へと突き立てた。

 滑る足ではなく、刺さった剣を支点にして、強引に体を引き起こす。

 その刃に、紫の光が宿った。


「――雷よ、攫(さら)え!」


 雷光が、弾けた。

 剣から迸った雷に乗るようにして、機体が宙へと跳ね上がる。油の上を越え、要塞の頭上を越え――

 その、真後ろへ。


『後ろだ』

 オーバーシアーの目は、跳躍の瞬間を捉えていた。

 機体が着地するより先に、オーエンの声が届く。

『右の履帯を前、左を後ろ。――車ではこの機動はできんが、覚えておくといい』


「……っ!」

 考えるより先に、サラの足が動いていた。

 右を踏み、左を引く。

 左右の履帯が逆に回り、要塞は、その場で巨体を捻った。

 ――超信地旋回(ちょうしんちせんかい)。

 決して、速くはない。だが、跳んだ機体が着地し、剣を振りかぶる、その僅かな時間には。


 ――間に合った。


「――なっ!?」

 振り向いた先に、正面装甲があった。

 雷を纏った剣が、振り下ろされる。


 迎え撃ったのは、回転の勢いを乗せた要塞の拳だった。

 ずっと、熱を帯びていた拳。巨体を動かし続ける熱を、そのまま溜め込んだ拳。


 ――ヒートナックル。


 刃と拳が、正面からぶつかった。

 雷光が弾け――そして、剣の方が、赤く、柔らかく、ひしゃげた。

 高熱に曝された刃が、飴のように溶け落ちていく。


「な、に……」

 呆然とした声が、途切れる前に。

 赤熱した拳が、剣を握った腕ごと、機体を叩き伏せた。


 鉄が軋み、リーダー機は横倒しに土の上を転がって、止まった。

 動かない。


「――二機、行動不能!」


----


 ――一方、右。


 弾き飛ばされた氷の術士機は、体勢を立て直すなり、両腕を突き出していた。

「――穿て!」

 至近距離から、氷塊の連射。

 白銀の騎士は、大盾を掲げた。


「――光よ、纏え」


 盾の表面を、柔らかな光が覆った。

 氷塊が、叩きつけられる。だがその悉くが、光に触れた瞬間に砕け、盾の縁を滑るように逸らされていく。

(「……問題ないようじゃの」)

 掌の内に生まれた光が、ちゃんと、外へ出て行く。

 当たり前の事が、当たり前に在る。それだけの事が、今は、ひどく心強かった。


 盾を構えたまま、踏み込む。

 巧みに氷の雨を盾でいなし、受け流しながら、真っ直ぐに。

「来るな――!」

 術士機が、後退する。だが、白銀の騎士の巧みな足さばきにより、距離はどんどん縮まっていく。


 間合いに、入った。


「――閃け」


 盾の裏から、光が爆ぜた。

 至近距離で放たれた閃光が、術士機の視界を、真っ白に焼き潰す。

「ぐっ――目が……!?」


 その、一瞬。

 盾の陰から抜き放たれた長剣が、弧を描いた。

 神速の斬撃の狙いは、術を放ち続けていた両腕の付け根。そして、肩の結晶。

 ――切り裂かれた結晶が、硝子のように砕けて散った。

 腕を失った機体が、膝から崩れ落ちる。


「――三機、行動不能!」


----


 ――そして、左。


 チェーンから解放された雷の術士機は、よろめきながらも、腕を上げようとしていた。

 狙いは、目の前の斧持ち。

 肩の結晶に、紫の光が集まり始める――


 ――それよりも、ACの方が、速い。


「――遅ぇ」


 巻き戻ったチェーンが、再び放たれた。

 今度は腕ではない。低く、地を這うように、相手の脚を払う。

 足を刈られた機体が、宙に浮いた。


 その、真上に。

 身の丈ほどもある戦斧が、既に振りかぶられていた。


「――オラァッ!!」


 大上段からの、一撃。

 叩きつけられた斧が、倒れ込んだ機体の肩口を、結晶ごと地面へと縫い付けた。

 土が爆ぜ、紫の光は、放たれる事無く霧散した。


「――四機、行動不能! 勝者、『ウルフパック』!」


 審判官の声が、闘技場に響き渡った。


----


 ――桟敷。


 しばらく、誰も声を出さなかった。


「……今の、見たか」

 革鎧の男が、ようやく口を開いた。

「煙を撒き損ねた、と思ったら……あのデカブツが出てきて。気付いたら、後ろから二機……」

「撒き損ねたんじゃねぇだろ、ありゃ」

 若い術士が、額を押さえた。

「全部、あの青黒いのの手の上だ。……前の試合と、まるで別のチームじゃねぇか」


「――なぁ、ボルトさん」

 男が、隣を振り返った。


 ボルトは、今度は眉を寄せてはいなかった。


 土の上に転がる四つの機体と、その只中に悠然と立つ、青黒い重装。

 それを見下ろしながら、赤茶けた短髪の大男は、ゆっくりと口の端を持ち上げていく。


「……へっ」

 朗らかな――そして、どこか嬉しそうな、笑み。


「――やっと、調子が戻ったじゃねぇか」

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